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ふと、彼女は二人のそれぞれの様子を見ると、思わずくすりと笑ってしまう。
二人は一斉にその声に反応し、十六夜を見る。
「あっ、ごめんなさい」
彌眞と采乎が互いの顔を見合わせると、采乎が、
「十六夜様、何がおかしいのですか」
「いえ、いえ別に」
「気になるなぁ」
彌眞は真剣な表情を崩す。
「本当に何でもないんですよ。ただ二人が緊張しているのに、私がのんびりしているのがおかしくて」
「そうですか?そんなに緊張していましたか」
と、彌眞。
「私も別に」
采乎も否定すると、くすくすと十六夜が笑い出す。
それにつられて二人も笑い始める。
「結構、結構」
入り口から男の野太い声がする。
三人に緊張が走り、声のする方を見る。
視線の先の人物は狗呼だった。
「いや、いや、なにより、なにより」
狗呼は笑いながら、三人の前に立つ。
「よく、邪馬台国に来られた」
「いえ」
彌眞は謙遜し答える。
「私は狗呼。邪馬台国で弟王と呼ばれている者だ」
その名を聞いて恐縮する彌眞。
狗呼は少しの間を置き、一気に言わんとする事を喋りはじめた。
「あなた方の素性は、すべて聞いた。着いた早々で申し訳ないのだが、それぞれの任に就いてもらう事となった」
驚きの表情で狗呼を見つめる十六夜、
(皆と離れ離れになるの・・・)
突然、現れた狗呼に、今までの旅を共に乗り越えてきた彌眞達と離れるのは、たとえ卑弥呼の命であるとしても、十六夜にとって許し難いことだった。
真っすぐ狗呼を見つめ、
「それは、どういう事なのでしょうか」
強い口調で責めるように言う十六夜。
予想外の反撃にあい、真っすぐな瞳を向ける彼女に狗呼は言葉を失ってしまう。
(・・・やれやれ)
狗呼は心の中で呟くと、ゆっくりと諭すように、
「これは、女王卑弥呼様の命である」
と前置きしておいてから、彌眞の方を見る。
「彌眞殿は我が軍の副官、夜邪狗殿の預かりとなった・・・彌眞殿は弓をお持ちだが、得意なのかな」
狗呼は目ざとく彌眞の弓に目をつけ言った。
「はい」
「そうか、それは何より、夜邪狗殿は邪馬台国一の弓の名手・・・多少気難しい所もあるが、存分に副官の元で力を尽くされよ」
狗呼は、わざと思いだしたかのように、ぽんと右の拳で左の手の平を打つ。
「おお、忘れておった肝心な事を、私としたことが・・・彌眞殿この任受けてくださいますな」
彌眞は十六夜の食い入るような視線を感じながらも、
「勿論です。お受けします」
「どうして!」
十六夜は、あっさりと引き受けた彌眞に向かって叫んだ。
彼は自分の気持ちが揺らがないよう、十六夜の顔を見ようとしなかった。
「十六夜、私達は卑弥呼様の予言に従い、四つの鏡片を集める旅を続けてきました。その卑弥呼様から授かった新たな命に、どうして逆らうことが出来るのか」
彼女を諭しているつもりだったが、彌眞はみるみる苦渋に満ちた顔になっていく。
十六夜はそれでも納得していない。
「彌眞は、本当にそれでいいのですか」
十六夜の一言に、胸を押さえつけられたような感覚となる。
(・・・いいはずは無い)
心ではそう思うが、振り払う、
「十六夜、いい加減にしてください。あなたは私達の使命を忘れてしまったのですか」
「・・・・・・」
泣き出してしまいそうなのを堪え、十六夜はじっと彌眞を見つめている。
采乎はそんな二人を静かに見ている。
「狗呼様、取り乱してすいません。お話を進めてください」
彌眞は迷いを振り払い、静かに落ち着いた口調で言った。
狗呼は、この彌眞から先に話した自身の考えが間違えていなかったことを密かに喜ぶ。
(この若者の気質を見抜いてのことだったが・・・・なかなか)
「では、先を続ける。十六夜殿と従者采乎は、卑弥呼様の息女、壱与様のお付きとなっていただく」
十六夜はついに涙を流しながら、深々と頭をさげ、それに次いで采乎も静かに頭を下げた。
彌眞は何も言わずじっと狗呼を見ていた。




