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75 十三、邪馬台国入国

 十三、邪馬台国入国


 蒼茫とした空がどこまでも続いている。

 はるか遠くの雲がたなびき、暑い日差しが初夏だと感じる。

 起伏のある坂を登っていくと、一気に拓けて広大な邪馬台国が見える。

 クニ全域に巨大な溝が巡らされている。

その内側には土で固めた堤が築きあげられ、その上には木柵が物々しく取り囲んでいた。

あまりにも柵が高いので、内側の桜観(ろうかん、やぐら)、小高い処に位置する居館と城郭そして信じられないほどの大きさの神殿が半分だけ顔を覗かせている。


弥奴国を出立して十日の日数が経っていた。


彌眞はやっとの思いで、この地にたどり着いた事と戦火にまみれてないかという不安が杞憂であったことに安心した。

悠然と構える邪馬台国の巨大な門を眺め、彌眞は感動していた。

一方で、不安な気持ちもある。


(四つの鏡片を集めるという目的を果たしていない)


 彌眞は十六夜へ視線を移す。

 彼女は初めて見る倭国最大の邪馬台国の景観を唖然として見続けている。

 胸元には青竜の鏡片をおさめられている。


(二つか・・・余波殿は来るのだろうか)


 彌眞は渋い顔をし、黙考する。


「これが、邪馬台国ですか」


 十六夜が感嘆の声をあげる。


「大きいのですね」


 彼女は背伸びをして、中を見ようとするがその景色は変わらなかった。

 十六夜ののんびりとした雰囲気に、心癒された彌眞は微笑む。


「さぁ、行きましょうか」


 と、邪馬台国への入国を促す。

 十六夜、采乎は同時に頷いた。


「門を開けてください」


 彌眞は緊張し言った。

 最も櫓に兵士がいるので、自分達の存在に気づかぬはずはないのだが、門の周りは静まり返っている。

 彼は首を傾げ、もう一度大きな声で、


「すいません!」


 と、叫んだ時だった。

 門の周りを取り囲む柵の上から、大勢の兵士が顔を覗かせて、弓矢をつがえる。

 今にも矢が放たれそうな一触即発の空気となる。

 年老いた兵が叫んだ。


「何用だ!」


 と、甲高い声で叫ぶ。


「私達は女王卑弥呼様の命を受け、やって来ました」


「嘘を言うな。最近において、女王様からそんな命は聞いとらん」


 老兵は疑心の目で彌眞を睨む。

 負けじと彼もにらみ返し、


「嘘ではありません」


 と、袋から鏡片を取り出し掲げた。

 老兵は驚き、まんじりと鏡片を見ると頷いた。


「成程、予言の者達か、だがそれは邪馬台国連合が形成された遙か昔の話・・・今はそれを知る者は数少ない」


 目を細め、物思いに耽る老兵だったが、手をあげ警戒を解くと、隣の若い兵士に、


「入れてやれ」


 と言い残し、その場を立ち去る。

 やがて、地響きをたてて大きな門は開かれた。


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