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 巨大な神殿の中、男が柏手をひとつ叩くと、閑散とした広い部屋に吸い込まれるようにこだまする。

 遙か奥の中央には巨大な鏡がある。

 正面には小さな老婆と幼い少女が、高坏(たかつき、お皿)に盛られた食べ物を手づかみで食べている。


 男は一瞥すると、つかつかと部屋の中央まで行き、また柏手を打ってその場に片膝を立てて座る。


「姉上、お話したいことがあります」


 姉上と呼ばれた老婆は、長い白髪の髪をうっとおしそうに首を振って後ろにやると、高坏に手を伸ばし食物を頬張る。

 少女は手を止めて、男を見ている。


「姉上!」


 と、男は膝を乗り出す。


「聞こえておる」


 老婆はぶっきらぼうに言うと、高坏の食物を全部食べ切ってしまう。

 男は首を振る。

 老婆は横目でそれを見て、鼻で笑う。


「食事の時ぐらい、ゆっくりさせてくれないのかい」


 と、小さく溜息をつき、少女の頭を撫でる。


「姉上、あなたはこのクニ、いや、邪馬台国連合を治める女王なのですぞ。ただでさえ、この火急の時に」


「女王にも休息が必要だ。五十数年もこうして働かされては愚痴もでよう」


「・・・また」


 と、男は呟く。

 老婆、いや、邪馬台国女王卑弥呼はにやりと笑うと、


「まぁ、お小言を言いに来たのではないのだろう。狗呼」


 狗呼と呼ばれた男は、卑弥呼を支える弟王だ。

 男子禁制の邪馬台国の神殿に唯一入れ、卑弥呼の神託を告げる者である。

 彼は思い出し、


「おお、そうでした。神獣鏡の鏡片を持つ者達が到着したと」


「真か、何故もっと早く言わない」


「それは、姉上が・・・」


「まぁ、言い続けて」


 卑弥呼は身を乗り出して、話に聞き入る。

 狗呼は小言を言いたそうに、口を動かすが、諦め、


「・・・しかしながら鏡片は、すべて集まっているのではなく、二つの鏡片を持つ者とその従者の三名が到着したということです」


「まぁ、そんなところだろうな・・・鏡片を送った蘇奴国は反乱しておるし・・・」


 女王は頷き、呟いた。


「いかがなさいましょう」


「クニには入れたのであろう」


「はい」


「それでよい」


「では、この者達の処遇を」


 卑弥呼は思案する。


「その中に女の者はいるか」


「二人ほど、一人が小さなクニの女王で名を十六夜、鏡片の持ち主です。それから蘇奴国の従者采乎、かのクニの反乱時に逃げて来たそうです」


「なるほど」


 卑弥呼はにたっと笑う。


「それで・・・」


 狗呼は話を続けようとするが、卑弥呼はそれを遮る。


「その者たちの内、男は・・・そうだな夜邪狗に預かってもらおう。女二人は、壱与の預かりとして、この神殿に呼ぶことにしよう」


 卑弥呼は一気に彌眞達の処遇を決めてしまうと、隣の少女に顔を近づけて、


「よかったのう。壱与、お前によい話し相手が出来たかも知れんぞ」


 少女壱与の表情がぱっと華やぎ頷く。

 狗呼は鼻から息を吐きだし、空気を吸い込むと、これが本題とばかりに、


「それから、もう一つ」


「なんだ」


 女王は狗呼に視線を戻す。


「姐奴国が狗奴国に滅ぼされました」


「・・・そうか」


 卑弥呼は、急に苦虫を噛み潰したような表情を見せると呟いた。


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