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それから、ようやく彌眞達の方を見る。
余波との再会、感動で気持ちが高揚している母は、周りが見えずに両手を広げ、
「よくやってくれました。あなた方に感謝します」
彌眞達は白けた目で、彼女を一瞥すると視線を落とす。
そして余波は耳を疑う事を言い放つ。
「彼等にしてはよくやってくれたのですが、私ほどではありませんでした。確かによくやってはくれたのですが・・・私には遠く及びません」
余波にとっては、彌眞達に対する褒め言葉のつもりだったが、彌眞は彼に諦めたかのような深い溜息をつきじっと床を見る。
十六夜はボロボロに疲れ、寝息をたてている。
采乎は完全無視し、膝の上に男の頭をのせ、懸命に看病している。
従順な年長者も唇を噛みしめ、拳を震わせて俯いている。
母はようやく違和感を覚えたが、まだ幻想から覚めない。
何より息子への愛情が勝っているからだ。
極力明るい声をつくり、
「さっ、ゆるりと休まれてください」
「何か、他に言うことはないのですか」
采乎が目に涙を浮かべて拳を震わせながら言う。
涙が落ち、男の顔に滴る。
「えっ」
と、戸惑い呟く母。
采乎は余波を指さし、
「一生懸命、あなたを守ったこの人や、死んでいった人に何かかける言葉はないのですか!」
「こいつ!」
余波は采乎に気分を害され、怒りで彼女に取っ組みかかろうと向かう。
「やめなさい!」
母は悲痛な叫びをあげる。
余波は目をぱちくりさせ母を見る。
「皆さん、気が昂っているようですね。今日一晩、ゆっくりと休んでまた明日に・・・」
采乎は息を吸い、そういうことじゃないと言葉を絞り出そうとした瞬間、先に彌眞が告げる。
「いいえ、結構です」
彼はぴしゃりと言う。
寝ている十六夜を静かに背中にのせ、おんぶし立ち上がる。
采乎は今しがた自分の膝の上で亡くなった男を見つめ、悲しみを堪えて立ち上がる。
「お、おい、何を言っているのだ。私の王として民への披露目もしていないのに」
いきなりの言葉に慌てて、余波は引き留めようとする。
「先を急ぎますので」
視線も合わさず、彌眞は背をむける。
「お、おい!私がいなくてもいいのか、鏡片は私が持っているのだぞ」
彌眞は無言で答えず、部屋を退出する。
その際、俯く年長者に、
「亡くなった人たちに丁重な弔いをお願いします」
と言うと、三人は居館を後にする。
背中越しに、青ざめた余波の激しく彼等を罵る喚き声が聞こえる。
その声に一切、耳を貸さず、厳しい表情の彌眞はしっかりした足取りで、邪馬台国へと仲間と共に向かう。




