73 十二、束の間の凱旋
十二、束の間の凱旋
余波は先頭で一人、気勢をあげ歩いていく。
重傷を負った男を年長者と采乎が肩を貸し、ゆっくりと歩く。
彌眞はもう一人の物言わぬ男の死体を担いで行く。
十六夜は、最後尾を疲労困憊でうなだれ続いている。
遅々として、ようやく三日をかけて弥奴国へ到着した。
弥奴国の門をくぐるなり、余波はこれ見よがしに鏡片を掲げて、民達の前を通り過ぎていき、意気揚々と居館へと戻った。
待ち焦がれていた母からは、手厚くもてなされ、小さな子をあやす様に褒められ、ますます気分をよくしている。
「母上、私はやりましたよ。ついに真の王となったのです」
「余波、よくぞ無事に帰ってきました。さすがは偉大なる王の息子です」
母は涙を流し感極まり、嗚咽する。
そんな二人を、彌眞はつい白けた目で見てしまう。
彼はゆっくりと男の遺体を降ろし、彼を悼む。
年長者と采乎は無言で苦しむ男を横たわせる。
十六夜はその場にしゃがみ込むと、ぐったりと倒れる。
(こんな現状を見て、まともに喜ぶだなんて・・・)
彌眞は思わず睨みつけたくなるのを押し殺し、わざと、どかっと音を立て、腰をおろし、視線を床へむける。
年長者は申し訳そうに頭をさげる。
彼は慌てて手を振る。
采乎は呆れ果て、大きく首を振り、男に励ましの言葉をかける。
十六夜は床に身体を横たえたまま、動こうとはしない。
そんな状況すら気づけない余波親子は、今までの経緯を長々と自分の手柄にして喋る彼に、母は愛おしい眼差しを送り、二人の世界を作り上げていく。
「見てください。母上、この鏡を私が手に入れたのです」
力強く右手に鏡片を持ち、母の目の前に見せる。
母は目を丸くし歓喜する。
「これはまさに白虎の鏡、ああ、本当にあなた様はやり遂げたのですね」
「勿論です。私は父上の試練に打ち勝ったのです」
母は余波の両肩に両手を置くと、じっと彼の瞳を見つめると、ゆっくり強く抱きしめる。
「ああ、本当の王となったのならば、民に一刻も早く知らさなければなりません。盛大に宴を開き、新しい王の誕生を祝いましょう」
「ありがとうございます。母上」
母はしばし、成長したと信じる愛おしい息子を抱きしめていたが、ようやく名残惜しそうに離れた。




