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72/108

72

 横腹から血を大量に流しつつ、狼は目をらんらんと輝かせ、血走る瞳からは異様な

光を発している。

 大きな遠吠えをあげると、狼は首を何度も震わせる。

 その都度、鏡片が揺れる。

 両足で交互に土を蹴る。


 狼は逆上し、まずは男に標的を絞ると、男の右肩を深くかぶり、噛みつく。

 首を激しく上下させ、男を地に叩き伏せ、前足で何度も男の顔を蹴りつける。

 激痛で男は叫び声をあげた。


 狼は気を失った男に蹴り続けるのを止めると、その血走った眼で十六夜に標的を定める。

 立ち上がり、身構えていた彼女だが、狼の狂える瞳の力に身体が再び硬直してしまう。

 狼はじりじりと間合いをつめる。

 余波達へ八方睨みをきかせ、思わぬことがないよう今度は微塵も隙を与えない。


 狼は自分の勝利を確信したかのように吠えると、後ろ脚に重心を置き、すっと上空へ飛び上がる。

 今度こそ駄目だと十六夜は目を閉じた。


 ぶん!


 風を切る音が、彼女の耳元を掠める。

鈍い音がし、たちまち激しい狼の鳴き声が響き激痛でのたうち回る。

 十六夜が振り返ると、次の弓矢をつがえ身構える彌眞と、危険を顧みず駆け寄って来る采乎がいた。

 彼女は張り詰めたものが解けたかのように、へなへなとその場に座り込む。


 一の弓矢は狼の額へ命中していた。

 苦しみもがきながら、何度も狼は立ち上がろうと試みるが、やがて力尽きその場へ倒れた。

 もはや虫の息となった狼は辛そうに舌を出し、全身で呼吸をしている。

余波は進み出て、地に突き刺さった剣を抜く。


「でりゃゃややあ!」


 奇声をあげ狼の首めがけて斬りつける。

 あっさりと狼の首が胴体から切り離される。

 鏡片が余波の足元に落ち、それを首だけとなった狼の瞳が憎々し気に見つめている。


 余波は喜色を顔に浮かべると、右手で鏡片を掴み高々と掲げた。


「ついに私は王となった!」


 高揚して叫ぶ余波だった。

その傍らで、狼の瞳が血走っていつまでも見つめていたが、やがて静かに目を閉じた。

彌眞達はそれに気づいていたが、喜ぶ余波は気づかない。



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