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63 十一、山の試練

十一、山の試練


 山の頂を見ると、青みがかかっている。

 青々と繁った木々が山中を埋め尽くしている。

 脊振山の登山口に彌眞達はいる。

 こうして山の風景を見ていると、とても試練の山とは思えないほど穏やかな様子である。


 真夜中に弥奴国を出て一日半、昼夜兼行でようやく山の入り口までやって来た。

 彌眞と十六夜は負傷癒えぬ身体を休めることなく、弥奴国に到着したその日に発った。

 その疲労度は濃い。

 穏やかな山の風景も目に映らぬほど、二人はうつろな表情をしている。

 采乎は明らかに無理をしている二人の顔を覗き込んでは、休憩の機会をうかがっている。


 余波は、前の方で年長者を含む男三人達と歩いている。

 時折、三人の様子を見に戻ってきては、疲れ切っている二人に、やれ軟弱だとかやる気があるのかと叱咤しては、鼻を鳴らしながら悠々と供の者と一緒に先へ進むを繰り返していた。

 そんな余波が彌眞達の前へ来て言う。


「いよいよ、背振山だ。お前ら、足を引っ張るなよ」


 出立するまで散々ごねていた男とは思えないぐらいの豹変ぶりだ。

 目の前に見える一見穏やかで優しそうに見える背振山の印象もあるが、彌眞達や三人の供の者が、余波との関係を慎重に波風をたてず、時にはなだめすかし、褒めたりして本人の気をよくしているのも一因であった。


 出立前にはあれだけの事があったので、余波は最初敵意むき出しで喋って来る彼に皆は閉口した。

 特に標的にされたのは采乎だった。

 が、口汚く罵る余波に、時折、拳を震わせることがあっても、何とか堪えて我慢した。

 彌眞と十六夜は、二人をなるだけ遠ざけるように心がけ、余波の気をよくさせようと腐心した。

一日半という短い間だったが、三人にとってはそれ以上に感じられ、心身ともに疲労は重なる。


「余波殿、すまないが少し休もう」


 ついに疲労困憊の彌眞が自ら休憩を申し出た。

 見れば二人は全身、汗だくで顔面蒼白、いつ倒れてもおかしくない状態だった。

 采乎は二人の限界が近づいていたのは分かっていたが、鼻持ちならない余波の言動に、持ち前の負けん気が、二人の休憩を申し出るのをためらったのを悔いた。

 采乎はすまなさそうな顔で、二人を休ませる。

 背振山を前にしての休憩に、余波は渋い顔をして、彌眞達に詰め寄る。


「いよいよっていう時に、なんだこのザマは」


「二人は怪我がまだ癒えていません」


 采乎は毅然と言う。


「お前のその言葉は聞き飽きた。怪我が何だ。この崇高な目的を前にしたら、そんな物はどっかに吹っ飛ぶわ!」


 余波は居ても立っても居られないと、眼前にそびえる山を見上げる。


「よいか、お前達。そんな事では試練に打ち勝てん。さあ、立ち上がるのだ」


 余波は甲高い抑揚のある声で二人を鼓舞し言う。

 が、一度、身体を休めた二人は動けない。

 十六夜は顔を上げて、彼に目で訴えた。

 余波は知らぬとばかりに、大げさに首を振る。


「さぁ、立ち上がるのだ」


 さらに大きな声で催促する。

 肩で息をする二人の返事はなく、采乎は恨めしそうに余波を睨む。

 彼はお構いなしに、


「立て!」


 と、怒鳴り、ついに顔を紅潮させ、地団駄を踏む。


「立たぬかー!」


 余波は怒りに任せ、彌眞の腕を引っ張り起こそうとする。



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