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彌眞はしばらく天井を見つめて、ゆっくりと言う。
「しかし、それは余波殿が自ら困難を克服されてこそ意味があるものだと思いますが」
母は大きく首を振り、青白い顔をますます蒼白にさせる。
「あんな場所に余波一人を向かわせることなど出来ません」
賢明な女性でも、こと我が子となると、先が見えないものか。
三人は余波の激しい気性が母の甘やかしによって助長されていることを認識
した。
母は次第に感情的になる。
「あなた方は鏡片を持つ同士である筈です。その同士が仲間の苦境を顧みず、王の試練ゆえに一人で挑め、手助け出来ないと・・・なんたることか!これは余波一人の問題ではない。あなた方の試練なのです」
相当な剣幕で言う母に三人は圧倒される。
もとより彌眞や十六夜にとって鏡片を手に入れることは至上命題である。
が、余波の為にならずと思い、忠告したつもりだが、見事にはねのけられてしまった。
十六夜は彌眞の思いがよく分かっていた。
渋い顔をして黙り込んでいる彼に変わり、彼女は言う。
「分かりました。余波様と共に鏡片を探しましょう」
「おお、分かってくれましたか」
「はい。でも、先程、彌眞が言った通り、試練に打ち勝つことも余波様にとって大切なことだと思うのですが」
十六夜は出来るだけ棘のないような物言いをする。
母は身体を丸くし小さく頷く、
「分かっているのです・・・分かってはいるのですが・・・私は」
苦渋に満ちた表情で母は呟いた。
余波に対する過保護な愛情が、彼の成長を止めているのに、どうすることも出来ない母性の苛立ちがみえる。
彌眞は気持ちを一新し、話を変える。
「ところで、先程、余波殿が戦は広まっていると言っていましたが、今、戦況はどうなっているのでしょうか」
「対蘇国が狗奴国に滅ぼされて、戦火は拡大しているそうです」
三人に衝撃が走った。
ついこの前まで滞在していた対蘇国が滅ぼされたのだ。
十六夜は対蘇国の長の姿を思い浮かべ、次に自分達のクニや邪馬台国が戦火にまみれるのを想像する。
彌眞は拳を固めて震わす。
(もう一刻の猶予もない)
彼は立ち上がる。
二人もその意を汲んで立ち上がった。
「背振山へ行きます。余波殿を呼んできてもらえませんか」
母は突然の事で、きょとんとしている。
「お願いします」
采乎が促す。
「・・・こんな夜更けに、しかも余波はあの状態ですよ」
「急がないといけません!お願いします」
十六夜は猶予がないと叫ぶ。
三人のただならぬ威圧に圧され、母は渋々頷くと、余波を呼びに足早に居館の一室を離れた。




