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52 十、余波という男

 十、余波という男


 日中の日差しが強く、三人の顔には疲労の色がみえている。

 対蘇国を旅立ち、すでに二十日という日数が経っている。

 梅雨時期特有のジメジメさに加え、鏡片を手に入れられなかった事に、怪我をして彌眞、十六夜が寝込んでいた事、いつ戦が起こってもおかしくない状況に、三人(特に彌眞と十六夜)は焦りを感じ、病み上がりなのも顧みずひたすら歩き続けていた。


(こうしている間に、戦いが起きてしまうのでは・・・)


 と、彌眞が思えば、


(休んでいた時間を取り戻さなくては)


 と、十六夜は考える。


 思い、考えると強迫観に囚われ、つい無理をしてしまう。

 采乎の目から見ても、二人の疲労の蓄積は明らかだった。


 采乎は近くに大木を見つけると、二人の肩を同時に掴み、無理矢理引っ張って、木陰に強引に押し倒す。

 歯止めをかけるのが彼女の役目だった。

 もし、彼女がいなければ二人はとうの昔に野垂れ死んでいたことだろう。


「少し、休みましょう」


 采乎の言葉は絶対で有無を言わさない。

 二人は呼吸も激しく乱しながら、抗議するように立っていた。

 しかし、彼女の目力に押され、どっかりと腰をおろすと、二人仲良く大木の根元に背を持たれかける。

 なお、彌眞は荒げる息を整えようともしないで、上目遣いに正面に座る采乎に、


「まだ。大丈夫なのに」


 と、身体とは正反対のことを恨めしそうに言う。


「そうですよ」

 

十六夜も同じような状態で、援護する。


采乎は腰に両腕をあて、二人の顔を見つめると、呆れて溜息をつく。


「二人とも、身体は正直ですよ」


 二人は互いの顔を見合わせ、やつれきった自分達の顔が分かると無言でうなだれる。


「分かりましたか。今日はここまで」


 采乎はぴしゃりと言ってのけると、疲労困憊の二人にこの場にいるように伝えて、彼女は野宿に備えて焚火をする枯れ枝などを探しに行く。

 その頼もしい背中に、二人は感謝と申し訳なさを込めた会釈をする。

 すると、突然強烈な疲労感とともに眠気が襲い、抗えず二人の瞼は降りて眠りに着いた。



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