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「どう・・・いたしまして」
それはかすれた声だった。
彌眞は声の主がはじめ、采乎だと思ったが、十六夜であることに気づいた。
彼女も二日目にして意識が戻った。
「十六夜・・・」
嬉しくもあり情けない声で彌眞は言った。
十六夜が、かすかに笑う。
それだけで、彌眞の涙腺は崩壊した。
采乎は立ち上がって、小躍りをしながら喜びをあらわす。
そうかと思うと、十六夜の眼前に顔を寄せて泣き崩れる。
「よかった。よかった」
泣きじゃくる采乎からこぼれる言葉。
つられて、十六夜も泣いてしまう。
しばらく三人は人目もはばからず泣き続けた。
「・・・お互いによくなって旅を続けないと」
十六夜は、一言喋るごとに痛みを感じながらも、ゆっくりと言った。
「はい・・・十六夜」
彌眞は何度も頷く。
じわり、外から陽光が差し込む、あたたかい日差しに負けないくらいの温かい気持ちが三人を包んだ。
采乎が見守る中、二人は心地よい眠りに着いた。
それから、さらに五日が経った。
彌眞は晴天の空を見つめ、大きく伸びをする。
久々にすっきりとした気持ちと自分の重い荷を下ろしたような開放感がある。
それは、十六夜に今までの悩みを、休んでいる間に打ち明けたことにある。
身体の痛みもすっかり癒え、互いに回復した壱与が隣にいて、頼りになる采乎も共に行動してくれると言ってくれている。
こんなに心強いことはない。
自分自身の悩みも、蘇邑と対峙した後には、あまり考えなくなっていた。
それだけ極限状態にあった中で、何かを得たような気がしていた。
言葉では言い表せない何か。
(そうだ。私は前だけ見て進む)
十六夜が彌眞の顔を覗き込む。
右腕はまだ少し腫れていて痛々しい。
彼は彼女を見ると、微笑んだ。
「もう大丈夫。私は前を向いて生きます」
彼女は微笑み返した。
(そう。私は前に・・・)
彌眞は心の中で、強く誓いをたてる。
力強く一歩目を踏みだす。
三人は新たな旅路と気持ちを持ち、前へと歩く。




