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広間に通された二人は、下座の場に片膝を立てて座る。
上座には蘇奴国王蘇邑がいる。
見れば王は浅黒い肌で屈強な身体をしていた。また青年らしさも残っている。
横に控えるのは副官の男である。
一様に皆、口を閉ざして難しい顔をしている。
王は沈黙を破って話をはじめる。
「困りましたな」
「そうですか」
十六夜は呟いた。
「鏡片の行方が分からぬ」
王は申し訳なさそうに言った。
副官は伝える。
「鏡片は確かにこの地にありましたが、所持していた前王が狗奴国との戦で亡くなられて以来、行方が分からなくなってしまいました」
副官は続けて、
「鏡片はおそらくこの地にあるのでしょうが・・・」
「前王にしか、その場所は分からない」
彌眞は静かに言った。
副官は頷く。
「どうして、鏡片の在り処を誰にも言わなかったのでしょうか」
十六夜はふと気づいた疑問をぶつけてみる。
蘇邑は溜息をつき、重い口を開いた。
「亡き前王は、とても卑弥呼様への忠誠心が厚いお方だった。そして、何事も一人で背負いこむ王であった。私が副官だった頃、一度だけ鏡片を見せていただいたことがある。鏡に卑弥呼様を見ていたのであろうか、これは我が光だと言われてすぐにしまわれた」
蘇邑は遠い目をして、ゆっくりと話を続ける。
「あの日、まさか王は自分が死ぬとは思っていなかったのだろう。・・・あの時、邪馬台国の援軍さえ遅れていなければ!」
王の瞳に怪しい光が宿った。
二人は王に違和感を覚えた。
蘇邑は元の表情に戻ると、
「偉大な王と屈強な我が軍でも多勢に無勢、常に先頭に立つ我が王は命運も尽き果てて・・・」
後ろの言葉は声にならなかった。
副官は拳を震わせている。
「王は死の直前まで、援軍が来るのを信じていた。だが、何もかも遅かった。援軍が来た時は、王は死に我が軍は壊滅状態だった」
蘇邑はそこまで言うと目を閉じ、うな垂れた。
副官は王に続き話をする。
「今、このクニをここまで戻したのが、蘇邑様だ」
彼は怒りがおさまらないのか、
「あの日、もう少し早ければ」
「もうよい」
蘇邑は話を止める。
「しかし・・・」
「この者たちに言うても、どうなる訳でもあるまい」
蘇邑は副官を諭す。
「すまぬ、我ら少し取り乱した。鏡片の事は、我がクニが全力を持って探し出す。それまでもうしばらく待たれよ」
王の有無を言わせぬ言葉に、彌眞と十六夜はただ頷くしかなかった。




