25 六、蘇奴国~それぞれの思い~
六、蘇奴国~それぞれの思い~
明け方の空の下、しんと静まり返った中、ぎりぎりと弓を弾き絞る音だけが響き渡る。
音が止むと、風を斬る矢の唸り音、そして木に突き刺さる音がこだまする。
彌眞は再び弓に矢をつがえ、大木に印をつけた目標に、精神を研ぎ澄ませて放つ。
矢はたて続けに目標に命中する。
「ふー」
一息をつき目を閉じると、彌眞は盗賊に襲われた日のことを思いだす。
(何故、躊躇ってしまったのだろう。一歩間違えば、死んでいたかも)
無心で次の矢を放ったつもりが、わずかに的を外す。
(お前は人を殺すのが怖いのか)
人を殺めたことのない彌眞は自問する。
(おまえのその躊躇いが、絶望を招く事になったかも知れないんだぞ)
彌眞は激しく首を振る。
(お前のような覚悟で運命を乗り越えられるのか)
「くそっ!」
(お前は弱すぎる)
彼は自分の中に潜む者に向かって放つ、矢は見事に命中する。
(無駄だ。人を殺めることが出来ない、お前は的に当てるだけで精一杯なのだから)
「違う!」
彌眞は拳を固め、叫んだ。
彼を見守っていた十六夜は、その叫び声に驚く。
「ひゃ!」
二人の視線が合う。
気まずい空気が流れた。
沈黙を破ったのは十六夜の方、
「彌眞、すごいですね。ほとんど命中していますよ」
「・・・・・・」
彌眞は彼女から背をむけた。
「弓はしないのですか」
「もういいです」
大木の所まで行くと、彼は刺さった矢を抜いて矢筒におさめた。
「どうしたのですか」
背後から、十六夜がたまりかねて声をかける。
「最近の彌眞は少しおかしいですよ。何かあったのですか」
「何もありませんよ」
彌眞は無理に笑いをつくると駆けだした。
「・・・・・・」
十六夜は無言でその場に立ち尽くした。




