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道のそばに聳え立つ大木を横切ろうとした時、躊躇いがちの聞き慣れた声が聞こえた。
「・・・どこへ行くのですか」
十六夜は、大木に背を寄せ、彌眞がやって来るのを待っていた。
彼は立ち止まると、
「どこに行くって・・・」
と、彌眞は困惑した返事をする。
「どこへ行くのですか」
十六夜は繰り返す。
「・・・・・・」
彼は、言葉に窮し沈黙する。
十六夜は駆け寄ると、彼の背中をぽーんと押す。
彼は勢い余って、前のめりに倒れる。
彼女はそれを見て、声をあげて笑う。
「・・・痛っ」
両手を地につけて、彌眞はゆっくりと起き上がった。
十六夜は立ち上がった彌眞に抱きつくと、何度も両拳で彼の胸を叩く。
しばらく叩かれるがままにしていた彌眞だったが、次第に十六夜の拳に力が入ってきたので、そっと彼女の拳に手を添えて止めると、
「痛いです」
と、呟き、十六夜の顔を見た。
彼女は大粒の涙をこぼしながら、彼を見上げていた。
彌眞は呆然とし、十六夜を見ていたが、正気に戻ると、
「分かってください」
と、身を切られる思いで言葉を絞り出す。
「分かっているつもりです・・・でも!」
「私は、戦火を免れ安穏としている伊都国に、いままでの経緯を伝え、いずれ来る危急に備えることを伝えなければなりません」
「私は残るのですよ」
「それは、あなたが決めた道だ」
「・・・・・・」
十六夜は震えていた。
彌眞は言い過ぎた事を反省し、十六夜の両肩を両手で持ち、顔を近づけると、
「いつか必ず逢いに行きます」
「・・・・・・」
「それまで、お互いにがんばりましょう」
十六夜の瞳からは涙が止まらない。
彌眞は、微笑み頷いた。
彼女は、溢れ出す涙を拭おうともせず、にっこり笑うと、彼のみぞおち目掛けて一発、拳を入れる。
「おおお・・・」
彌眞は痛みで腹をおさえ、三歩後ろへさがる。
十六夜は、涙を拭うと、やんちゃな笑顔で、
「必ず・・・」
と、呟き、
「絶対!」
念を押す。
「ああ」
彌眞は大きく頷く。
「必ず」
と、答え、
「絶対!」
と力強く言い返す。
泣き笑いの十六夜は顔をくしゃくしゃにさせて、彌眞に最高の笑顔を見せると、邪馬台国に駆けだす。
彌眞にいつか逢う日を信じて、決して後ろを振り返らなかった。
彌眞は、少しずつ小さくなっていく十六夜の姿が消えるまで、じっと見ていた。
その姿が、自分の視界からなくなると、振り返り、道の先を見つめる。
(必ず!)
彌眞は言い聞かせるように、心の中で叫ぶと、道の先にある自分の信じる事に
向かって歩きはじめた。
二人の間を刹那の風がすり抜けて行く。
「刹那の風」 完
まさに拙文(笑)、拙作「刹那の風」を読んでくださいまして、ありがとうございます。
感想の返信にも触れていますが、この作品はかなり前に書いた作品です。
25~27歳ぐらいかな、そのくらいの年に書いております。
ちょっぴり含みのある終わり方をしていますが、これ以前に大学ノートに書いていた「壱与」という作品の前日譚として描きました。
ただし、この「壱与」の方は、未完でノートもどこにやったのか分かりません(笑)。
後で書いた短編の作品が、一応原稿でありますけど残っています。
こちらの方も、準備が整えば投稿したいと思っています。
なかなか、「刹那の風」は文の書き方や辻褄が合わなくて、悩んだり、戸惑ったりしましたが、みなさんに読んでいただいたり、感想をいただいて励みを貰い、なんとか書きあげました。といっても、メモリースティックなんかに記録を残してれば、こんな苦労もなかったのですが・・・ただ、あのままだと超、読みづらい(笑)です。
感想でアドバイスをいただき、この作品は成長してまいりました。
でも、最初の部はあえて訂正せずに残そうと思います。
どれだけ変わったかを比較できますからね(笑)。それもおもしろいと思いました。
うわっ、見ずらっ!から、うわっ、稚拙(笑)へ。
重ねて、申し上げますが、読まれた皆様、ありがとうございます。
この作品、本当に投稿して良かったと思います。
2話目を投稿して早一年以上が経ち、完全放置状態でした。
それから、挫折しそうにもなりながらも、今日まで無事投稿、完結出来ました。
やっぱり読んでくれている方がいると思えると、嬉しく書く意欲に繋がります。
また、山本大介の作品が目についたら読んでやってください(笑)。
これからも、ぼちぼち楽しんで書いていきます。
2020.07.22 山本大介
あっ、そうそうこの作品のテーマソングは原由子さんの「花咲く旅路」です。
「壱与」を書いていた時、ずっと聴いていました。
夜明け前の、稲穂が実る田んぼの真ん中で、壱与が佇んでいるのが、イメージです。
ぐっとくる名曲です。




