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暗闇が包む広間の中、小さな灯りだけが二人を照らしだしている。
卑弥呼と狗呼は座り対峙している。
女王は、弟王から戦いの報告を聞いた後も、ずっと黙り込んでいる。
卑弥呼は大きく嘆息すると、
「わしも年老いた・・・おいぼれよ」
自分を卑下し呟いた。
「そんな」
狗呼は膝を乗り出し言う。
卑弥呼は首を振り、
「こたびの戦は、とんだ読み違いであった」
「大勝ではございませんか」
「表向き・・・はな」
卑弥呼は灯の明かりをじっと見続け、
「まず狗奴国王が、この戦に赴いていなかった事、次に神殿聖域を犯されてしまった。そして、それを予測出来なかったワシ・・・」
「それは・・・」
「勝てたのは、運が良かっただけかもしれん・・・奇跡が現実を目の前にして起こった・・・人の心の強さによって・・・ワシは、それを甘く見ていた」
卑弥呼は視線を天井へと移す。
「されば、如何なさいましょう」
「・・・そうだな、狗奴国王が出征してないなら、此度はかのクニを根絶やしには出来まい。しかし、我らの奪われたクニグニは取り戻さなければいけない」
「はい」
「狗奴国もあれだけの兵を送り込み大敗した後だ。クニグニを取り戻すことは容易・・・」
卑弥呼は一旦、言葉を止める。
「容易ではあるまいが、一気に押し込んで失地を取り戻す」
「その後は・・・」
「その後?・・・狗呼よ、何を言っておる。それまでだ」
「今こそ、狗奴国に攻め入る好機では」
「・・・ふむ」
「姉上!」
「ワシは老いた。この先は後の者達に、このクニグニの行く末を託したい」
「・・・しかし」
「ワシは、それが出来ると信じる」
卑弥呼は確信した表情で頷いた。
狗呼は女王に疑いのない瞳をむけられて、ただ頷くしかなかった。
やがて、広間を薄明るい光が包み込む。
もう、夜明けを告げていた。




