103
「お母さま、集めてきました」
その声に、卑弥呼はゆっくりと目を見開く。
「鏡片を集めるのに、二人の手を借りただろう。」
にたりと卑弥呼は笑った。
「・・・・・・」
何も言えず、おどおどする壱与に、女王は、
「まぁ、よい。十六夜、彌眞もこちらへ」
彌眞は、ゆっくりと歩き、女王から離れた位置に座る。
十六夜は首を振ると、膝元の采乎を見る。
卑弥呼は頷いて、目でその場にいてよいと伝える。
卑弥呼は壱与が胸元に大切に抱きかかえる四つの鏡片を見ると、感慨深げに、
「ようも、何十年と行く月日を経て、揃ったもんじゃ」
と、嘆息をあげる。
「壱与、四つの鏡を合わせて見よ」
と言う。
女王の言葉に、壱与は力強く頷く。
壱与は床に、北の玄武。東の青竜、西の白虎、南の朱雀と慎重に鏡を合わせる。
合わせた刹那、鏡片はそれぞれに光を放ち、広間を眩しく照らしだす。
その光はやがて激しくうねり、再び一つの鏡となる。
静かに光は消えて行った。
再び、広間は薄暗くなる。
「これで鏡は戻った」
卑弥呼は、じっと鏡を見つめたまま頷くと、
「壱与、鏡を持ち上げてみよ」
壱与は恐る恐る手を伸ばし、鏡を持ち上げる。
不思議なことに鏡は完全にくっついて、一つの神獣鏡になった。
彼女は、驚き、まじまじと鏡を見る。
「それは、お前の鏡だ」
「えっ」
再び、驚く壱与。
「この鏡は、四つのすべてが揃った今、恐るべき力を持つようになった。それを使いこなすことが出来るのは、お前しかいない」
「・・・・・・」
鏡を見つめたまま、呆然となる壱与だったが、
「私は、鏡を持つ資格はありません。鏡を持つふさわしい人物は、十六夜と彌眞です」
「それは違う」
即座に卑弥呼は否定し、続けて、
「壱与・・・そなたは、じきこの邪馬台国を、そしてクニグニを背負わなければならない。それは分かっておろう」
「はい」
「この鏡は、元来、このクニの主となる者の元にあった物だ。私はこの鏡に幾多の窮地を救ってもらった・・・恐らく近いうちに、ワシは死ぬ。そのあと、倭国は再び大きく乱れるであろう。それを治めるには、この鏡の力が必要だ」
「でも・・・」
「誰も今すぐにとは、言うておらん。私の命があるうちに、鏡の所有者になるに相応しい者にならなくてはいけない・・・その為には・・・」
卑弥呼はそう言うと、十六夜の瞳を見、彌眞の瞳を見、采乎を見つめる。
そして深々と頭を垂れる。
「今まで、辛い旅、戦いを乗り越え、よくやってくれた。これからも、何卒、壱与を、邪馬台国を見守ってくれ」
卑弥呼はそう言うと、いつまでも頭を垂れたまま顔を上げようとしなかった。




