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102/108

102

 あれからずいぶんと長い静寂が、神殿の広間を覆っている。

 彌眞は、呆然とした放心状態が続いている。

 十六夜は気を取り戻すと、ふらついた足取りで負傷した采乎を看病している。

 卑弥呼は黙して語ろうとしない。

 壱与は、十六夜と共につきっきりで采乎の手当をしていた。


 重苦しい沈黙と静寂がなおも続いていた。

 が、卑弥呼は静かに目を閉じると、その場に座り込んだ。

 ふうと小さく息を吐く。


「壱与、こちらへ」


 壱与は戸惑いの表情を見せるが、十六夜がぼろぼろの表情で微笑みかけ、頷くので、彼女も微笑み返すと、立ち上がり卑弥呼の元へ歩く。

 卑弥呼は壱与に、


「皆の鏡片を集めなさい」


 卑弥呼は、じっと壱与の瞳を見つめて行った。

 それは有無を言わさない。

 彼女は自然と頷くと、まず真っすぐ十六夜の場所へ戻る。


「十六夜・・・鏡片を」


 十六夜は今度もにっこりと微笑むと、両手で首に提げている鏡片を外す、すると腫れた頬にあたり顔を歪めるが恭しく彼女に渡した。


「ありがとう」


 壱与は鏡片を両手で握り締め、胸に持っていくと十六夜に頭を下げる。

 それから、彌眞と屍と化した蘇邑の元へ。

 彌眞に近づき、呆然とした表情の彼の顔を覗き込む。


「・・・あの」


 返事はなかった。

 もう一度、


「あの」


 と、声をかけるが答えが返ってこない。

 壱与は困った表情をして卑弥呼を見るが、女王は目を閉じたままじっとしている。

 壱与は十六夜に視線を移す。

 彼女は采乎の無事を祈って、看病していたが、壱与の視線に気づく。

 今にも泣きそうな表情の壱与を見ると、采乎を膝枕からそっと降ろし、


「彌眞」


 と呼びかけるが、やはり返事はない。

 十六夜は彼の元へ寄ると、肩を揺さぶった。


「彌眞!」


 大きな声で、十六夜が呼びかけると、彌眞は我に返りゆっくりと彼女を見る。

 十六夜は、壱与を見て頷く。

 

「あの鏡を」


 壱与は消え入りそうな声で言うと、彌眞は静かに頷き、胸元に光る鏡片を彼女に託した。


 壱与は蘇邑の屍に近づく。

 首元には二つの鏡片が提げられていたが、蘇邑から流れた大量の血で鏡片は真紅に染まっている。

 壱与は生々しい惨状に、貧血で倒れそうになる自分を堪えながら、その場にしゃがみ込み、鏡片を取ろうと手を伸ばす。


 その時、十六夜が壱与の手をとり、自分が取ろうとする。

 その手を彌眞はそっと抑え、真紅に染まった鏡片を手に掴む。


「私がする」


 彌眞はそう言うと、死者をいたわるように、ゆっくりと丁寧に、二つの鏡片を取り上げると、血塗られた鏡片を自分の服で無造作に拭い、壱与へと手渡した。


 壱与は深く頭を下げると、四つの鏡片を胸にしっかり抱きしめて卑弥呼の元へ駆け寄る。




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