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×1 十二時半の魔物  作者: 有栖川優悟
3/8

*参

紗江さえ

 私は野村のむら紗江。とある事故で下半身を欠損けっそんしている幽霊ゆうれい、いわゆる「テケテケ」である。

 生前、女子中学生だった私は、下校途中に通学路の途中にある踏切の線路の溝に足がはまって、くじいて動けなくなってしまった。そのまま人身事故にって、胴体を真っ二つにかれた。数分間の激痛げきつうもだえ苦しみながら、自分の下半身を探していたら、いつの間にか意識がなくなっていた。花子はなこさんによると、私はその後死んで、霊として第二の人生を始めることになったらしい。

猿夢さるゆめさんが殺されたって、本当ですか?」

「らしいわね…メリー、何か聞いているかしら」

 答える少女は花子さん。私を拾ってくれた異形で、普段はどこかの学校の校舎3階のトイレの3番目の個室にこもっているのだとか。

「それを収録したビデオがあるのー…」

 ビデオを持っているのはメリーさん。他の異形や人間に電話をかける、ビデオをる…などで情報収集をしてくれている。

「マジか!それ、見せてくれよ!」

 いかにも興味ありげな顔をしているのはパティーさん――パトリシア・ファーレンハイトさん。“アクロバティックサラサラ”と呼ばれており、その名の通り非常に活発な挙動きょどうをする、私達の中でも実戦向きな異形である。

「私も、見たいです」

牽引けんいんしているツインテールの奴は…どうやらただの人間のようだな。特殊能力を使った様子は見られなかったぞ」

「だよね。私もおかしいと思った。異形じゃない奴に異形が殺されるって珍しいよねー」

 映像を分析したのは真那まなさん、同調するのは佳那かなさん。双子の形をとっているが、実際は二人で一つの“両面宿儺りょうめんすくな”という種族だ。真那さんは剣を、佳那さんは弓を使っている。

「普通の人間だったら、是非ともその方を殺したいです」

「サッちゃんは人間が嫌いなんだっけ?」

 一応言っておくが私は人間が嫌いだ――嫌い、どころではない。生前に苦しんでいた私を見捨てた人間がうらめしく、霊になった日から人間の殺戮さつりくを目的として行動することに決めた。だから花子さんやメリーさんが人間ではないと知った時、安心したのを強く覚えている。

 ちなみにサッちゃん、とは私の生前からのあだ名である。私の事故を面白がったどこかの学校の生徒が、童謡『サッちゃん』の4番を作って周りに言いふらした時は、この生徒を殺すと即決した。――それぐらい、人間が憎かった。

 だが、ここ最近はどういうわけか人間ではないものが増えており、私にとって恨めしいものが減っていくのは本当に嬉しかった。だから、映像とはいえ久しぶりに“ただの人間”を見た刹那せつな、殺意がこみ上げてきたのだ。

「…はい、私は人間が嫌いです」

「そっか…うん。でも、“そいつ”とは面識ないんだろ?」

「いえ、これを見るまでないですね」

「…ならさ、」

「え、どうしたのよパティー」


「――そいつをさ、私と戦わせてくれねェか?」


 パティーさんの一言で、周りは水を打ったように静まり返った。

「なんでそうなるのよ。そいつに恨みでもあるんなら先に言ってよ」

「いや何も?映像見てて、ただ強そうだったから、戦ったら面白そうだなあと」

「まったく、パティーは強い人を見かけたらいつもこうなるんだから…」

「パティーさん…一回映像で見たっきりの人と戦うつもりですか…」

「何も知らないやつなんだろう?大丈夫なのか?追い込まれたら私と佳那が、」

「真那ちゃん達も、行くの?」

「…いい。あくまでそいつを確かめてェのは私だけだろうしな」

 “そいつ”って…やはり、名前を聞かされていないのだろうか。

「名前も知らない人に戦いを挑みに行くって…どうなんですか…」

「そうだよ、仮のあだ名だけでもつけといたら?」

 佳那さん、違う。そっちじゃない。

「仮のあだ名かぁ…呼びやすいのがいいわね」

「…あ!なんか聞いたことある!」

「何をだ?」

「なんかねー…瞬間的に通り過ぎて、それに出会った人に災害を与える、っていう魔物がいるんだって。それを人間の間では“とお”って呼ぶって誰かが言ってた」

 確かに通り魔の原義は、メリーさんが言っていた意味である。転じて通りすがりに人に不意に危害きがいを加える者のこともいう。通り魔殺人事件とは、人の自由に出入りできる場所において、確たる動機がなく通りすがりに不特定のものに対し、凶器を使用するなどして、殺傷さっしょう等の危害を加える事件をいう。

 猿夢さんは…“不特定の者”なのか?


『――だから私は、異形きみたちが嫌いなんだ』


 ビデオの音声を回想する。

 もしかしたら、そいつは“異形そのもの”であれば誰であろうと最初から殺すつもりで、たまたま殺したのが猿夢さんだったのかもしれない。それならば、“不特定の者に対し、凶器を使用するなどして、殺傷等の危害を加える事件”という定義にもしっくりくる。

「そうみたいですね。では、これからは“先程のビデオで二人の異形を牽引していた、ツインテールの人間”のことを“通り魔”と呼びましょうか」

「…他の通り魔と区別するときはどうすんだよ?」

「確かビデオでは、あの女のことを他の仲間が“ベル”って呼んでいたわね」

「では、区別する必要があるならば“ベル”、ないならば“通り魔”とでも呼ぼうか」

 ――通り魔さんか…強そうだなあ。

 さて、私はあの女のことを殺せるのだろうか。あの女は人間だから殺したくて殺したくてたまらないのだが、私が殺す前にパティーさんが先に殺してしまうのではなかろうか。やはり憎い相手は他の誰でもなく、この手で殺したいものなのだ。

 それならば、あれほど憎かった人間が他の者の手で殺されてしまう前に、私はどうすればいい?

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