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×1 十二時半の魔物  作者: 有栖川優悟
1/8

*壱

加藤かとう かなめ/岸波きしなみ おうぎ

この作品の主人公。平凡な少女だったが、異形のクラスメイト達を見返すためにアヴァロンへ入り、“破壊の狂戦士”ベルセルクとして異形を抹殺する行動に出始める。

願い:異形のクラスメイト達を見返したい

すめらぎ 昏羽くらは

アヴァロン本部長(長官)。かなめに手を貸し、「岸波扇」の偽名と「“破壊の狂戦士”ベルセルク」の称号、一対の銃「ミセリコルデ」を与える。

日笠ひかさ しきみ

かなめの仕事仲間の、雪女の少女。コードネームは「エンジェル」。

願い:不明

能前のうまえ 菊里くくり

かなめの仕事仲間の、妖狐ようこの少女。コードネームは「エクスカリバー」。

願い:不明

駿河するが 東香とうか

かなめのクラスメイトで、ハスターの少女。基本的に何でもできるので、かなめに劣等感を持たれている。

 異形が集う電気街、朝葉原ともはばら。その町に住む、ある一人の少女――加藤かとうかなめは何も持ち合わせてはいなかった。異形の血筋も、能力も、何も。彼女はこの異形社会では珍しいくらいの“普通の人間”だった。そんな彼女に両親はある程度の期待をしていたが、伸びたのは成績や運動能力の類であり、両親が期待していたような異能力が目覚めたわけではなかった。大人にとって都合のいいだけの人格を作ることにしかならなかった。周りのようにはいつまでもなれず、『デキソコナイ』と呼ばれる日々はそう簡単には過ぎ去らない。

 眩しかった。自分の周りを取り囲む異形達は、少女にはあまりにも眩しすぎた。だから、誰にも頼らず一人で生きることにしたのだ。その中でもハスターの少女、駿河東香するがとうかが一番眩しかった。何でも出来る彼女を見るたびに、少女の中には怒りだけが渦巻いてゆく。駿河は私に手を差し伸べてくれるけれど、それは憐情れんじょうから来るものでしかない。駿河の取り巻きである少女たちに向けられたものとは明らかに異質なのだ。

 八尺様はっしゃくさま末裔まつえいである高身長の少女、瀬田礼麻せたれいま。実家が皿屋敷の通称「おきく」、菊川真弓きくかわまゆみ眼鏡めがねを掛けた腐女子のグール、湯元千秋ゆもとちあき。紫ババアの孫、和泉鈴菜いずみすずな。常に駿河のかたわらにいる彼女らは異形としての能力も、人間としてのステータスも高かった。

 ――なぜ、私には何もないのか。

 梅雨に入りだした通学路。今日は午前中の授業だけしかなく、自分の身を隠してくれるような都合のいい夕闇はなかった。なぜ自分には何もないのだろうかと、今考えても仕方のないような疑問が湧き出る。けれど、私はデキソコナイだから仕方がないとかき消した。だが、彼女はやり返すことを諦めたわけではなかった。

 どこからか、声がした。

「――さあ、君は何を望む?」

「何を、って…」

 振り返ると長い銀髪の女性がいた。

「その前に…貴方、どなたですか」

「私の名は皇昏羽すめらぎくらはだ。アヴァロンという団体の長官をしている。君は?」

「…加藤。加藤かなめです」

「かなめか。…願いは?」

「願い…?」

「あるんだろう?願いのない者の前には私は姿を現さないからな」

「…あります!私には見返したい人がいるんです!」

「そうか。そいつは異形か?」

「はい、彼女を含めて私以外のクラスメイトはほとんど異形です」

「君は異形じゃないのか…珍しいなあ」

「そうなんです。親も期待しているけれど、答えられなくて…。それでも…それでも貴方は私を救ってくれますか?」

「ああ。だから救うんじゃないか。…ほら、」

 皇が、かなめに手を差し伸べる。

「私に付いて来い!」

「え、でも私、家に帰らなければ…」

「帰らなくていいさ。普通の人間だというだけで過度な期待を押し付けるような奴の家には」

 二一〇三年六月八日。かつてデキソコナイだった平凡な少女の、復讐が始まる。



 ***



「今日からこの近くの学校に通ってもらう。届けは出した。――これからは“岸波扇きしなみおうぎ”、そう名乗れ。組織の人間にもそう呼ばせる」

 それからの日々は、静岡のアヴァロン本部と本部近くの学校を行き来して過ごすことになった。アヴァロンには多くの人が属していて、それもやはり異形だったり、特殊な趣味を持っていたりする者だった。あるいは雪女の日笠ひかさしきみであり、あるいは死体愛好家ネクロフィリアの女性の水谷みずたにであり、あるいはいつも皇に付き従うアンドロイドの女性のニアであり――他にも数多くの異形がいた。

 ある日、水谷がアヴァロンを降りることになった。

「私は抜けるので、私のコードネームは扇ちゃんに引き継がせてあげてください」

 “ベルセルク”。北欧神話・伝承に登場する、異能の戦士の名である。古ノルド語やアイスランド語ではベルセルクル、英語ではバーサーカーと言い、日本語ではしばしば狂戦士と訳される。それが、水谷のコードネームだった。

「わかった。…現場では“ベルセルク”というコードネームで動いてもらう」

「“ベルセルク”…ですか?」

「ああ。あと、この一対の扇子“ミセリコルデ”を与える。これは一つずつがそれぞれ銃に変化する。これを銃に変化させると同時に任務の服に着替えることができるから、任務の前に試してみろ」

「…はい」

「だが、いきなり任務に行けと言っても無理だろうから少し練習が必要だな」

「ですよね」

「とりあえず“ミセリコルデ”を上に放り投げて、銃に変化したら受け取れ」

「はいっ!」

 “ミセリコルデ”を上に放り投げる。銃に変化して落ちてゆく。受け取ったその時には、かなめの身体にも変化が起きていた。

「鏡、見てみろ」

 目の前にある鏡に映されていたのは、精神を置き去りにして身体だけが成長した自分の姿だった。もともと短かった髪は伸びてリボンで二つ結びにされ、かけていた眼鏡は外され、それと引き換えるように視力は矯正され、身長が伸びたその身体には黒い半袖のワンピースが纏われていた。

「――これが、私…?」

「そうだ。これが“ベルセルク”としての戦闘服になる。今のところ全身にリボンが八つ付いているだろう?それがリミッターだ。リミッターを解除していく度に自分の力が一割ずつ解放されていく。今の状態は二割、つまり二十パーセントの状態ということだな」

「…ということは、リボンを全て外せば百パーセントの状態になるということですね」

「その通りだ。だが、解放したら解放した分、消耗が激しくなる。基本は二割の状態で任務に当たり、がたくなったら解放しろ」

「なるほど。戦いにくい相手もるでしょうからね」

「だが、解放した状態のことは知っておいて損はないだろう。自分のことだからな。まずは五十パーセントの状態になる方法を教えよう。銃を持ったまま、『“ミセリコルデ”半解放ハーフ』だ」

「えっと…“ミセリコルデ”・半解放ハーフ

 “ミセリコルデ”の半分の力を解放した彼女は、先程とは少しばかり姿を変えていた。髪に二つ付いていたリボンは解かれ、一本のリボンがカチューシャのように巻かれる形となった。

「この状態になると、“ミセリコルデ”だけを片方ずつではあるが扇子に戻すことができるようになる。それをなぞれ」

 左手にあった“ミセリコルデ”の片方を置き、もう片方を右手で持ったまま左手でなぞる。すると銃は元々持っていた扇子の状態に戻っていた。

「…もう一回」

 再びなぞると、扇子だったそれは鉄扇へと変化を遂げた。

「鉄扇に変化させるのは片方にしておけ。両方やると時間を消費して隙を与えかねないからな。もう一度なぞると銃に戻るぞ」

わかりました…結構“ミセリコルデ”ってハイスペックなんですね」

「特殊能力を持たない戦闘員に向けたものだからな」

「百パーセントモードもあるんですよね?」

「ああ。その前に結界を張っておけ。上に向けて銃を撃てば結界が張れるが、この建物でやると天井が割れるから外に行こう」

「…ですよね」


 ある廃墟


「ここなら天井は抜かれているから問題ない。だが、結界は強すぎるから私は遠くで見ている」

「なるほど。では」

 銃を上に向けて、撃つ。瞬間、高さ三十~五十センチメートルの無数の花茎が地上に生える。それは枝も葉も節もなく、先端に苞に包まれた花序が一つ付くのみであった。

「この結界は、それを踏んでいるものの生命力を一時的に吸い取る。特に全解放フルは他人の力を吸い取らなければ、持続時間は極めて短い。だから必須といえる」

「そう、なんですね…」

「試しに私の生命力を吸い取ってみろ。解除するにはもう一度上に向けて撃て」

「え…あ、はい。…なんかすみません…………」

 皇が結界を踏む。生命力を吸い取ったそれは苞が破れ、真紅の花が顔を出す。美しくも禍々しいそれはまさしく彼岸花であった。

「…ちょっと色々聞きたいので解除しますね」

 もう一度上に向けて撃てば、結界は全て跡形もなく消えた。

「で、聞きたいことってなんだ?」

「この彼岸花みたいなものが咲く数って、生命力に比例しますか?」

「ああ。吸い取る人数が多ければそれだけ多く咲くが、生命力の強さにもよるな。生命力の強い人から吸い取ればそれだけ多くなるということだな」

「なるほどー…………」

「…戻るぞ、扇」

「はーい」



***



▼扇

「今日から一人、新しい人材がアヴァロン本部に入ることになったから、紹介する」

能前のうまえ菊里くくり妖狐ようこの十二歳です」

 目の前で自己紹介をしている少女は能前さんというらしい。これもコードネームだろうか。それに合わせるようにして自分も名乗る。

「岸波扇。普通の人間。私も十二歳だから対等に話していいよ」

「私もー!私は日笠しきみ、雪女なんだ!よろしくね!」

「扇と、しきみだね?よろしく」

「菊里、戦場では“エクスカリバー”と名乗ってもらう」

「それが私の新しい名前かい?」

 能前さんの素の口調は姉御口調のようだ。少しきつめで、ストレートさを感じる。能前さんだけの癖なのだろうか、それとも妖狐全体がこういう口調なのか。

「そうだな。戦わない時は“能前菊里”、戦う時は“エクスカリバー”だ」

「なるほど…………」

「それと、扇、しきみ、菊里の三人にはチームとして任務に当たってもらう。もちろん一人で向かわせる時もあるが、基本的にはこの三人だ」

「…はい!よろしくね、二人共」

「うん!」

「まあ、私で良けりゃ協力するよ。菊里って呼んでいいからね」

「私もしきみでいいよ!」

「わかった。私も扇でいいからね」

 そういうと少しずつ距離を縮めてくる日笠さんと能前さん――いや、しきみと菊里。

「ニア…アヴァロン三幹部結成、だな」

「ですね、長官」

 この三人なら、どんな異形でも対処できる気がしていた。もう、どんな状況だって怖くはない。だって、一人で戦っているわけではないのだから。しきみも菊里も異形だが、アヴァロンの関係者なら、と平気になっていた。

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