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#2 夏(2)

しかしね、別にストーリー上、妹を出す必要は無かったのですよ。

でも、妹は必要かなぁ、と啓示を受けたような気がしまして・・・思わず・・・


初めて入る尚也の部屋を小春と亜季は興味深そうに歩き回った。

小春は窓の桟に両手を着いて外を見ると感嘆の声をあげる。

「うわぁ、海、海が見えるよ」

尚也の家は高台にあり、バス停から歩いて来た時は気づかなかったが二階から見下ろすと雑木林の向こうに真青な海原が広がり陽の光を反射していた。大きく息を吸い込むと心なしか潮の匂いがした。

小春に吊られて他の二人も暫くその風景を見ていたが徐に良介が振り返って尚也を問い詰めようとした。

「ところで、ユキちゃんって誰だよ」

尚也は先ほど投げ捨てた漫画本を見て返事はしない。

「ユキちゃぁ~ん・・・・」

「うるせぇな、なんでもねぇよ」

「ほんとかしらね」

小春と亜季の眼差しが尚也を刺した。

「ま、詮索は後にして、折角こんな遠いところまで来たんだからさ、海行こうぜ」

「ああ、行って来いよ。海水浴場は歩いて行くには遠いけどな。バスかタクシー使え」

良介は少し苛ついて尚也に絡みついた。

「ホントにつれないよな。お前も行くんだよ」

「お前らだけで行けよ。めんどくせぇ」

尚也は仰向けになって寝返えると部屋の扉が開いた。

「お兄ちゃん・・・お母さん、どこ行ったの・・・?」

大きめのTシャツに短パン姿の少女が寝ぼけ眼でそこに立っていた。

「買い物行ったよ」

「買い物?だったら買ってきて欲しいものがあったのに・・・」

「もしかして柴田君の妹さん?」

亜季の言葉に反応し部屋の中の様子をやっと理解できると途端に目を覚ました。

「あ、あの、美緒です。妹です・・・、こんな格好で、ごめんなさい・・・」

「柴田君には似ても似つかないというか・・・」

小春は美緒を部屋の中に招きいれ更に質問した。

「何歳?」

「14です。中学2年です」

「こんな兄貴持つといろいろ苦労するでしょう」

「いえ、そんな・・・・」

尚也は苦々しくそのやり取りを見ながら「美緒、あっちいけよ」と言った。

「なに?この偉そうな人は!やぁーねぇー」

「小春、ケンカ売ってんのかよ」

小春は尚也に向かって舌を出した。

「美緒ちゃんも海に行かない?」

「お、いいねぇ。こんな馬鹿兄貴ほっといて一緒に行こう」

良介が荷物を持って立ち上がった。

「お兄ちゃん行かないの?」

「ああ、こいつ行きたくないんだってさ。あ、そういえばあれだ、水泳の授業もいつもサボってたよな。もしかしてお前、海の近くに住んでいながら泳げないんじゃねぇの」

良介の言葉で更に脱力感を覚えた尚也は「そうそう」といい加減んに返事をして寝転んだ。

「お兄ちゃん泳げるよ。去年の、町の遠泳大会で優勝したんだから」

三人は一様にきょとんとした顔つきで寝そべっている尚也を見詰めた。

「ほんとかよ、お前」

「嘘じゃねぇよ」

「じゃぁなんで水泳の授業いつもさぼってるの」

小春が問う。

「・・・、気分の、問題」

「まぁいいや、とにかく海いくぜ」

尚也は身を起こし頭を掻き毟った。

「海水浴場、遠いしさ、人多いし・・・・」

「何言ってんだよお前ほら!」

と良介は窓の外に手を差し向け仰々しく言い放つ。

「そこに海があるじゃないあか!わざわざ海水浴場に行かなくても直ぐそこに!」

「ばかやろう。そこは遊泳禁止だ」

しかし良介は引かなかった。

「いいだろ?スキューバーダイビングするわけじゃないし、岸辺でパチャパチャするくらいなんだからよ」

そうして半ば強引に尚也は家から連れ出された。

「いいの?お兄ちゃん・・・・」

歩きながら美緒が話しかける。

「日光浴するくらいなら心配ないだろ」

家から五分ほど歩き国道を横切り、雑木林を抜けると狭い入り江に出た。

そこは砂浜が広がっており海水も透明で良介と小春は思わず歓声を上げた。

「最高じゃない。人もいないしプライベートビーチみたい」

小春は早速シートを引き服を脱ぎ始めた。

「・・・?亜季、どうしたの」

一人雑木林の手前で佇んでいる。

「うん、何でもない」

尚也も少し怪訝に思ったが直ぐにみんなとはしゃぎだしたので気にせずその場に寝転んだ。

目を閉じても太陽の日差しが瞼を通り抜ける。

海から時折吹く風と波音が眠りを誘う。

そういえば、彼女と最初に会ったのもこの浜辺だった。

夏になるといつも彼女の事を思い出す。

(ユキ・・・)


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