ものの数秒で訪れる後悔
コンコン
「……ん?」
俺は部屋の窓を見る。
「朝か……昨日夕方だったよな。あれからずっと寝てたのか……」
コンコン
扉がノックされている。
「は~い、今出ま~す」
俺は玄関の扉を開ける。
すると、そこには立派な鎧に身を包んだ騎士がたっていた。
なんでだよ。
「領主様から館に来るようご命令だ。ご同行願う」
「……え?」
なんでだよ。
一日にこんなに早くなんでだよって思ったの初めてだよ。
「その……絶対ですか?」
「断っても構わんが、その代わり……どうなるかは分からんぞ?」
怖い。
領主様からは何もされないだろうけど、領主の誘いを断ったという事で、街の人たちから変な目で見られるだろう。
下手な制裁よりもたちが悪い。
日常生活に支障が出ちゃうよ……。
「えっと……寝起きなので身だしなみを整えてからでもいいですか?」
「それぐらいなら構わん。ちょっと遅れたくらいで領主様は怒らないからな」
あ、この人領主の側近の一人だ、間違いない。
明らかに領主様を信頼している人のセリフだもん。
この街の騎士の中でも精鋭の人だわ。
なんでこんなところにいるんだよ。
俺は身だしなみを整える為にいったん家に入る。
「やべぇ、鏡とか持ってないや……金あるんだから買っとけよな……」
男だったころは身だしなみとか気を使ったことが無かったので、鏡を買おうともしなかった。
顔を洗って着替えをし……って着れるのないじゃん……また違うローブでいいや。
適当に髪を乾かして外に出る。
「お待たせしました」
「……あまり変わってないな」
余計なお世話だ。
「……家に鏡が無いもので」
「なるほど……それでは最低限の身だしなみしか整える事が出来ないな。まぁいい、早速向かうぞ」
騎士の人について行くと馬車が用意されており、そこに乗せられた。
「……はぁ」
まさかこんなに早くあのお嬢様に再会する事になるとは……。
一人寂しく馬車に揺れ、俺は領主の館に到着した。
「ついてこい」
俺は案内の騎士の人について行く。
……ここに来たのは……何度目かもわからんな。
最初は仕事で来たんだよなぁ。
「ここだ」
案内されたのは、『領主の執務室』。
仕事で案内された時もここだった。
「グラン様、客人をお連れしました」
「入れ」
騎士人は扉を開ける。
「ほぉ?話には聞いていたが、本当に美人さんだなぁ……」
「は、初めまして、アインと申します」
とりあえず自己紹介をしておく。
初めてじゃないけどな!
「おう!知ってるぞ!俺はグラン、この街の領主だ!」
知ってるよ。
「お会いできて光栄です」
「まぁ公の場じゃないんだ。固くしなくていいぞ」
あんたどこでもそういう事言うだろ。
あんたにとってどこが公の場なんだよ。
「さて……まずは礼を言わせてもらう。娘が世話になったな。お礼と言っちゃなんだが、何か欲しいものはあるか?」
は?
……これ絶対なにか裏があるだろ。
「い、いえ。特に何も……」
「鏡が家に無くて困っていると言っていました」
この騎士マジか!?
なんておせっかいな奴だ。
要らん事しやがって。
「はっはっは!そうか!では鏡をやろう!」
「いえ、私は」
「姿見に使える奴を家に送っておいてやろう」
「それがよろしいかと」
俺の意思は!?
正直助かるけど……鏡高いし。
「で、用はこれだけじゃない」
でしょうね。
「ここからが本題なんだが……お前の保証人、ライオットについてだ」
……俺?
「お前には、ライオットの殺人容疑が掛かっている」
「へ?」
なぜ!?どうして!?
俺が行方不明になったとたんに俺が現れたからか!?
……文面がすごい事に。
いや、そんなことはどうでもいい!!
いくら何でもそれは無いんじゃないのか!?
「……というのは冗談でだな」
「冗談かよ!?」
やべっ!!
ついツッコんじゃった。
「はっはっは!今のツッコみはあいつを思い出すな!」
コイツ……。
「そ、その……申し訳ございません。罰はいかようにも……」
「あぁ気にするな気にするな。公の場じゃないといったのは俺だからな」
今回ばかりは助かったな。
「で、ライオットについてなんだが……おそらく死亡している」
「え?」
どうしてそこまで分かった?
行方不明じゃないのか?
「昨日の衝撃波と爆音については知っているな?」
「は、はい」
この体が生まれたときだ。
「ライオットは、よくとある森に錬金素材の採取に向かう」
その口実で研究所に行っているからな。
「あの衝撃波と爆音について、昨日調査を行ったのだが……原因はライオットがよく行っていた森だと思われる。信じられないと思うが……森が跡形もなく消え去っていたのだ」
「…………」
そういう事かぁ。
門番の人とかに、どちらに向かうんですか?とか聞かれた時に、森に採取に行くんですよ、ってよく言ってたもんなぁ。
「なぜ森が消えたのかは分からない。だが、俺が出した調査隊の話によると、『まるで爆発して更地になったようだ』と、報告が入った。昨日森に行ったっきりライオットは街に戻っていない。これは街の門番の記録から調べたから間違いない。おそらく……その森でライオットは……」
「そう……ですか」
グラン様……そんな悲しそうな顔をするとは思わなかった。
実はこの人とは何度か会っている、というかしょっちゅう会っていた。
最初は仕事で、その後はよく用もないのに呼び出されたものだ。
おそらく気に入られたのだろう。
「俺の友で恩人だ!」と言ってくれるくらいには。
「…………」
「…………」
暫く部屋が重苦しい空気に包まれる。
俺が死んだ……それを悲しんでくれる人は、俺が思っている以上にいるようだ。
……痛い……心が痛い。
すごく苦しい。
俺は……いてもたってもいられず、思わず言ってしまった。
「……『俺が何とかして見せましょう』」
「!?」
「『大丈夫です、俺は天才ですからね。材料さえあれば、作れないものなんてないんです』」
「お……お前……」
「『ほら、俺が言った通りでしょう?もう大丈夫。あなたの病気は完治しました。報酬はしっかりいただきますよ?あと、約束も守ってくださいね?』」
「うそ……だろ?……まさか」
「『また呼び出しですか。俺も暇じゃないんですけど……』」
「そんな……」
「……俺が死ぬはずないでしょう?なんてったって天才ですからね。グラン様」
「ラ……ライオットォォォォオオオ!!!!!!」
領主様……グラン様が書類の乗った机を蹴とばして俺に泣きながら抱き着いてくる。
「よかった……生きてたんだな……」
「抱き着かないで下さいよ。男に抱かれる趣味はないですよ……ご心配おかけしました」
「全くだ!馬鹿者め!」
「ハハ、まさかグラン様に馬鹿と言われる日が来るとは」
俺は正体を明かした。
後悔はない。
少なくとも、グラン様の様子をみて、これでよかったと思っている。
暫くグラン様は泣き続けた。
まさかここまでだったとは……。
「……グラン様、いい加減離れてください。みっともないですよ。というか、絵ずらが大変なことになっていますよ」
騎士の人に言われて気付いた。
こいつ、背は高いし、いい体型してるし、顔もいいしで結構モテるんだよなぁ。
筋肉モリモリマッチョマンという訳ではないしな。
この人に戦い方は剣で打ち合うというよりも、躱して切り込むといった感じだからそこまでデカくない。
因みに、俺がさっき言ったセリフは、俺がここに仕事に来た時に言ったセリフだ。
まだ若かったんだよ……いろいろと。
以前、このグラン様は病気になった事があったのだ。
かなり重い病気で、薬が必要だったのだが手に入らなかった。
薬がないなら作ればいい!と材料を集めたものの、その薬を作れるだけの力を持った錬金術師が居なかった。
あちこちに回って、やがて俺の元にその話がたどり着いたのだ。
そして見事、俺は薬を作り上げ、グラン様の病気を治してみせた。
「別にいいじゃねぇか。相手はライオットなんだし」
「それに関しては驚きましたが……お嬢様が見られたらどうなさるのです」
「その時は新しい家族だって」
「俺は男に抱かれる趣味は無い」
「冗談だよ……半分な(ボソッ」
「は?」
身の危険を感じる。
「グラン様は奥方がいらっしゃるでしょうに」
「第二夫人、もしくは愛人にすればいい。俺は貴族だから問題ない」
「俺が嫌なんですよ」
やっぱり言わなきゃよかった。
思ったより後悔するのが早かった。
「で、真面目な話、何があったんだ?」
まぁ気になるよね。
「俺もよくわからないんですよ。森にいたのは確かです。そして気付いたら森が消し飛んでて、身体はこんなことに……ホント、生きていたのが奇跡ですよ」
「全くだな……何があったのか調べないとな」
どうしてこうなったのか分からないのは本当だ。
森が消し飛んだ原因は俺。
言わないけど。
「まぁしかし本当に良かった。お前が死んだかもしれないと分かった時は、心臓が止まるかと思ったぞ」
「まぁ生きてたんだしいいじゃないですか」
「そりゃあそうなんだけどよ……で、これからどうするんだ?」
「ん~……まだ何も決めてないんですよねぇ。お金も家もあるのでゆっくり考えようかと」
「そうか……お前、この後暇だよな?」
なんだそのどうせ暇でしょ?みたいな言い方。
暇だけど。
「まぁ特に予定はありませんが」
「よし!俺と模擬戦やろうぜ!」
「は?」
は?




