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第7話 龍神の目覚め

2013年7月10日午後11時20分、東京都中野区内。深夜の住宅地で1人の若い女性が怪物に襲われようとしていた。怪物の名はチューラット。両手からは鋭い爪にこちらも鋭い出っ歯とパッと見、小太りなネズミの怪人といった感じだが、背中からは小さな天使の羽が生えた奇妙な容姿をしていた。このチューラットは女性にストーカー行為を繰り返したヲタク風の男性が変身した姿で、自身の求愛を断り続けた彼女に制裁を加えようとしていた。何とも身勝手な話である。


「チューチュッチュッチュッチュッ!もういいもん!ボクちんの愛のメッセージを断わるお前なんか死んじゃいなYO!」


「い、嫌あああっ!」


「チュッチュッチュッ!チューッ⁉」


「えっ?」


へっぴり腰となってしまった女性に対し、右手の爪を振りかざして殺害しようとするチューラットだったが、突如現れた1台の黒いバイクに撥ねられて大きく吹き飛ばされてしまう。そんなチューラットを撥ね飛ばした黒いバイク“DN-01”はすぐさま急停止し、運転していた男が彼女に駆けつけて助けた。その男は我らが魔神様・柳生但馬守宗矩である。


「大丈夫か?」


「は、はい…」


「急いでこの場から離れるといい。後、ここで起きた事はすぐさま忘れるか、誰にも言わない方が賢明だ。無論警察にも言うな」


「わ、わかりました。ありがとうございました‼」


宗矩は女性にこの事を公言しないように釘を刺して彼女を逃がし、女性は全速力でその場から走り去って行った。そこにせっかくのターゲットを逃がされてプンプンに怒るチューラットが戻って来た。怒るといっても元々声が高いのと言い回しがコミカルな事もあって、あんまり真剣に怒っているようには見えないのだが。


「チュー!ボクちんの邪魔してぇ!ボクちん、プンプンだぞぉ!お前、何者だぁ⁉」


「通りすがりの魔神様だ、覚えておくがいい」


「チュー!お前はディケイドかぁ‼」


「ふんっ!」


そういうと宗矩は瞳を赤くさせて前方に魔方陣を展開、魔方陣から鎧を出現させると身体に自動的に装着して本来の姿であるヴォルケニックス・グランドバアルへと変身する。宗矩がヴォルケニックスに変身するのを見てチューラットは驚く。それもそうだろう、ネットやニュースで話題となった悪魔が目の前に現れたのだ。驚かない方がおかしい。


「魔神、再臨せり…!」


「チュー‼お前はネットで話題の悪魔⁉」


「ほぅ、我も有名人になったものだな」


「抹殺するっチュー!チュー‼」


「ふっ、馬鹿め。ぬわあっ!」


「チュー‼」


チューラットは勢い良くジャンプしてヴォルケニックスに襲いかかるが、ヴォルケニックスは漆黒の翼を広げて飛翔し、チューラットのぶよぶよした腹に蹴りを入れる。普通、こういう相手にダメージは与えられないものだが、ヴォルケニックスにはそんなのは関係ない。蹴られたチューラットはサッカーボールみたいに飛んで行った。しかし、そんな戦いを影で見ている人物がいた。


「おぉ~凄い凄い!」


「チュー‼」


「ふんっ!」


「さて、いっぱい撮っちゃうか!」


彼女の名は朝比奈心愛(あさひなここあ)、フリーのカメラマンだ。オレンジ色の髪をツインテールに束ね、オレンジのパーカーにGパンを履いた少し幼い顔つきの美女という外見をしている。勿論、この光景を狙っていたわけではなく、たまたま取材帰りにヴォルケニックスとチューラットの戦闘に出くわし、写真に収めなくてはと思って物陰から戦いを見ているわけである。心愛は愛用のカメラのシャッターを押しまくって行く。


「おぉ!」


「ふんっ!」


「チュー‼」


「あたしってラッキー!まさかこんな所に出くわしちゃうなんて♫どんどん撮るわよ~!」


心愛は無我夢中でシャッターを押す。実は心愛自身、ヴォルケニックスに対して批判的な意見は持っておらず、むしろ人々を守ってくれた英雄と思っている。しかし、世間のヴォルケニックスに対する評価は散々な物だった。新宿駅周辺での巨大戦や先日起こった新宿第七中学校での戦闘が人々に悪いイメージを与えてしまったので、世間はヴォルケニックスに対して強い敵対心を持つようになってしまったのだ。心愛はそれを遺憾と思っている。


「さ、さっきから酷いじゃないか~!こんなラブリーなネズミのボクちんに攻撃するなんて~‼」


「ラブリーなネズミだと?そんなのはミッキーとミニー、それにピカチュウで充分間に合っている」


「ボクちんはラブリーなんだチュー‼」


その頃、ヴォルケニックスとチューラットとの戦いに終止符が打たれようとしていた。と言っても戦い始めた段階でもう勝敗は決していたようなものだが。チューラットは自らを“ラブリーなネズミ”と称していたが、外見はどう見ても醜いネズミの怪人である。精神に異常をきたしているのか、言ってる事も無茶苦茶だ。とっとと決着をつけるべく、ヴォルケニックスは左手で空間に穴を開けて、中から射抜神命を引き抜き、銃口をチューラットに向ける。


「ボクちんはこれから本気を出すっチュー‼」


「消えてしまえ。ぬわああああっ‼」


「チュー‼」


これから本気を出すと言って飛び上がるチューラットにヴォルケニックスは射抜神命の引き金を引く。その一撃を受けたチューラットは簡単に爆散し、地獄へ墜ちていった。最期の最期までコミカルな奴だったが、結局は人を襲おうとしていた怪物だ。地獄にてそれ相応の罰が待っているだろう。まさにヴォルケニックスの圧勝であった。


「ふん…」


「やった~!さっすがだね♫」


戦いの一部始終を見ていた心愛は自分の事のように喜んだ。とはいえ、本人に見つからないように物陰からこっそり見ていたので、あまり表立って喜ぶ事は出来なかった。チューラットを始末したヴォルケニックスは宗矩の姿に戻ると愛馬のDN-01に跨るとその場を走り去ってしまう。悪魔が人間になる所を見て驚く心愛だった。


「えっ?えっ⁉に、人間になっちゃったけど…なかなかイケメンじゃ~ん!」


「果たして本当にそうなのかな?」


「だ、誰ッ⁉」


そんな心愛に声をかける人物がいた。すぐさま心愛が後ろを振り向くとそこには少年とも少女ともとれる中性的な顔つきの短パンを履いた子供がニッコリ笑顔で立っていた。後ろから誰かが近づく気配は全く感じなかったので、心愛は少々驚く。まるで瞬間移動して来たようなそんな感じがした。しかし、振り返るとそこには自分より遥かに年下の子供がいた。相手が誰かわかれば怖くない、心愛は子供に家に帰るように諭す。


「何よ、ただのガキンチョじゃん。こんな時間まで起きてちゃダメじゃん、ほらほら早く帰ってねんねしなさい♫」


「困ったなぁ、ボクをただの人間の子供と思ったら大間違いだよ」


「はぁ?きゃああっ!」


すると子供は軽く手を前に出し、心愛を大きく吹き飛ばしてしまう。どうやら自分をガキンチョ扱いしたのが軽く癪に障ったらしいが、まずはどうして子供が大の大人を吹き飛ばすだけの力を持っているのかという話になる。一方、吹き飛ばされた心愛はわけがわからなくなっていた。


「な、何よ…今の…」


「君は天使を信じているかい?」


「あ、悪魔がいるんなら…そりゃあ、天使だっているでしょ?」


「その通り、ボクは天使なんだ」


「はぁ?」


心愛は思った、この目の前のガキンチョは一体何を言ってるんだろうと。ちょっとおませなガキンチョが中二病を拗らせて自分の事を天使だと思い込んでいる、そう信じたかった。しかし、それだと自分がいきなり吹き飛ばされた事の説明になっていない。そして、その答えは目の前で明かされる事となる。なんと目の前の子供は淡い光に包まれながら何処からか鎧を出現させて鎧を装着し、変身したのだ。


「な、何よ…何なのよ、アンタは!」


「ボクの名はルーチェ・キューブライド、正真正銘本物の天使さ」


「天使…?ホントにいたんだ…」


「当たり前じゃないか、ボク達は常に君達人間の事を見守って来たんだからね。感謝してほしいよ、少なくともあの忌々しいヴォルケニックス・グランドバアルよりかね」


心愛に接触して来た子供は目の前で変身し、本来の姿である“ルーチェ・キューブライド”になった。背中からは純白の翼を生やし、純白の軽装の鎧を纏ったその姿は正に天使の名に恥じない外見である。とはいえ、本来の姿でも子供のようだが。天使らしく常に笑みを浮かべているが、心愛にはそれが酷く冷たく感じられた。何処かで人間の事を見下している、そんな感じがするのだ。


「ヴォルケニックス・グランドバアル?」


「君がさっきまで隠し撮りしていたあの醜い悪魔の名前さ。そういえば、彼の名前はまだ世間に広まっていなかったね」


「ねぇ、そのヴォルケニックスって悪魔はそんなに醜いかなぁ?あたしにはね、ヒーローに見えたんだ。あたし達を陰から守ってくれるヒーローにね」


「ヒーロー?わけがわからないよ。どうしてあんな悪魔が賞賛されるんだい?彼は今までボク達の仲間を数えきれない位殺し、今なおこの人間界に勝手に居座り続ける愚かな魔神なんだよ?」


ヴォルケニックスが天使達を忌み嫌うようにルーチェもまたヴォルケニックスを忌み嫌っていた。天使と悪魔の禍根はかなり根深いようだ。それに心愛がヴォルケニックスの事を擁護しているのが全く理解出来ないようであった。世間一般ではヴォルケニックスは人々を恐怖のどん底に陥れた最悪の魔神というレッテルを貼られているが、中には心愛みたいにヴォルケニックスを英雄視する人々もいる。ルーチェはそんな少数派の事が全く理解出来ないらしい。


「いいじゃない、そういう少数派がいてさ」


「困るんだよね、そういう少数派がいてさ。ねぇ、朝比奈心愛…」


「な、何?」


「ボクと契約して天使になってよ!」


まるで何処かで聞いたような台詞でルーチェはゆっくりと心愛に近づいた。対する心愛は当然ながらルーチェが言った事の意味が全くわからなかった。そもそも天使って契約したら誰でもなれるような物なんだろうか?あまりに現実離れした話に心愛は恐怖心を抱き、一歩また一歩と下がって行く。しかし、ルーチェはそんな心愛を逃がすつもりはなかった。電信柱まで追い詰めるとルーチェは問答無用とばかりに恐怖に震える心愛にゆっくり顔を近付ける…


「い、嫌よ!」


「どうしてだい?」


「あたしはまだ人間でいたいの‼」


「全くわけがわからないよ。でも、見逃してあげるわけにも行かないんだよね。何せ君には素質があるからね…」


「や、やだ…嫌アアアアアアアッ‼」


7月12日午後5時25分、東京都新宿区・レストラン“フライングデビル”。ヴォルケニックス・グランドバアルこと柳生但馬守宗矩は長髪を束ねてバンダナにエプロン姿でフライングデビルの厨房に立っていた。今日は普通に営業しているが客は1人しかおらず、閑古鳥が鳴いていた。まだ時間も夕飯前なのであまり客がいないのだろう。むしろ、今は他の客がいない方が都合が良かったりする。何故なら、今いる客はお互い正体が人間ではない警視庁超常犯罪捜査課課長・神楽坂葵警視しかいないのだから。


「オイ、まだか?まだ私の飯は出来ないのか?」


「待て。今、真姫が作っているからな」


「そっか、じゃあ待ってやる」


「あの、葵さん待たせてますよね?」


「気にするな。奴は暇人だ、時間なら腐る程ある」


葵が宗矩に注文しているのはフライングデビルで1番高いメニュー“ヴォルケニックス・スペシャル”である。何せ、チャーハンやハンバーグ、唐揚げ等といったフライングデビルのメニューを全て食べられるてんこ盛りなのだ。とても1人で食べきれるような量ではないが、葵ならばこれ位楽勝らしい。しかし、それだけの物を作るにはかなり時間がかかるもの、宗矩もすぐには出来ない代物だ。そして、今それを作っているのはこのフライングデビルでのアルバイト経験が1番浅い新宿総合高等学校の生徒会長を務める稲川真姫である。


「出来ました、店長」


「ほう、上手くなったな。花梨、葵に出してやれ」


「は~い!葵たん、お待たせ♫」


「ヴォルケニックス・スペシャル、キタ~‼」


待つ事20分、ようやくお望みのヴォルケニックス・スペシャルが葵の目の前に並べられた。葵はすかさずナイフとフォークを手に取ると出来たて熱々のヴォルケニックス・スペシャルを食べ始める。一口食べただけで葵の表情は蕩け、この世の幸せを味わったような感覚に陥る。そんな様子を見て真姫はホッと一息ついて安堵の表情を浮かべる。


「いただきま~す!うん、美味い‼幸せだ~!」


「良かったです!」


「よくやった、真姫。今まで努力して来た甲斐が報われたようだぞ?」


「はい!嬉しいです!」


真姫は親友の藤沢美鈴と同時期にフライングデビルで働き始めたのだが、生徒会長の仕事の他に弓道部の部長でもあった為に殆どシフトに入れず、同時期に働き始めた美鈴と経験の差が大きく開いてしまっていた。まだ勤務数も片手で数えられる程度しかなかったが、真姫は宗矩に無理言って閉店後の夜遅くまでコーチをして貰い、ようやくここまで来たのである。宗矩としてヴォルケニックス・スペシャルを作れるようになれればもう大丈夫らしい。因みに真姫は意外と料理が苦手だったので、最初の頃は失敗ばかりしていたそうな。


「おぉ、これは美味いぞ!後はここのシフトにたくさん入れればいいな」


「はい、弓道部もそろそろ引退ですし、生徒会長も後輩に引き継げば皆と一緒に働けます!」


「良かったね、真姫お姉ちゃん♫」


「えぇ♫ところで花梨ちゃん、最近学校はどうかな?楽しい?」


「学校?行ってないよ」


「えっ?」


真姫はあまりに花梨がストレートに不登校である事を明かしたので驚いてしまった。そもそも真姫は久しぶりにフライングデビルに来たので、何があったのか殆ど知らなかったりする。そして、それは花梨だけではなく葵にも変化はあった。何の事か全くわからない真姫に宗矩は語り始める。


「先日、花梨が通う新宿第七中学校で我が公衆の面前で戦った事は知っているな?」


「はい、ニュースにもなっていましたよね?正直、酷いと思いました。店長は何も悪い事していないのにあんなに罵倒されて…」


「我がそこで罵倒された事がよほど悔しかったのか、或いは憎かったのだろうな、花梨はその日を境に不登校になってしまったのだ」


「そんな……」


「そして、あの場で警察から我を庇った葵は1ヶ月間の謹慎処分を食らったのだが…」


先日、宗矩ことヴォルケニックスが稀代の女装殺人鬼・河上彦斎こと殺翔鳥神・天零と花梨の通う新宿第七中学校で激しい戦いを繰り広げた。この事はニュースで大きく取り上げられ、世間は子供が多い中学校で戦ったヴォルケニックスを批判した。先に仕掛けたのは天零だが、悪魔というだけでヴォルケニックスに批判や罵倒が集中してしまったのだ。しかも、ヴォルケニックスを現場で罵倒したのは花梨の友達やお世話になっている教師達だった。そんな現実に深く絶望し、そんな人々に憎悪を抱いた花梨はその日を境に不登校になってしまったのだ。そして、あの場で出動していた機動隊員達からヴォルケニックスを庇った葵は上層部から1ヶ月間の謹慎処分を受け、現在絶賛謹慎中となっている。


「まぁ、私はいつも暇だからな。謹慎だろうが何だろうがあまり関係ないさ」


「でも、花梨ちゃんが…!」


「いいんだよ、花梨はもう二度と学校なんて行かない。今はパパのお手伝いが出来れば、花梨はそれで充分だよ」


「……この話はそれで終わりだ」


何だか店内がしみったれた雰囲気になってしまったので、宗矩はその話を中断させる。あの一件で花梨は不登校に陥り、葵は1ヶ月間の謹慎処分をくらった。結果的に自分が中学校で戦わなければこんな事にはならなかったのである。宗矩もあの一件で心に深い傷を負ってしまったのだ。


「パパ…」


「ほら、早く食え」


「ん?あぁ…」


7月13日午前7時2分、東京都新宿区・コーポドラゴン201号室。ここは朝比奈心愛の自宅である。あれから数日が経過したが、心愛の身体に何の変化もなかった。何もなくて良かったは良かったが、それでも心愛は不安を拭い去れずにいた。ルーチェが言ってた事が全く嘘に聞こえなかったからだ。今、心愛は起きたばかりで就寝する時は下着姿のようである。実は意外とスタイルは良かったりする。胸も大きく、背も高い、ちょっと子供っぽい顔つきも可愛い。しかし、それでも心愛に彼氏はいなかった。


「はぁ…あれから数日経ったけど、結局何にも起きないじゃん!」


『ボクと契約して天使になってよ!』


「でも、嘘にも聞こえなかったのよね…あたし、どうなっちゃうんだろ……ダメダメ!あたしはポジティブに行かなきゃ!」


得体のしれない不安に包まれるが、心愛は何とか持ち前のポジティブさで気持ちを持ち直し、着替えて取材に出掛ける事にした。ここでビクビク不安に怯えるよりはよっぽどマシな選択である。それにまだ自分が変貌してしまうとは限らない、もしかしたら何も起きないかもしれないのだから。愛用のカメラとバッグを持って心愛は街に繰り出して行った。


「はぁ……何か面白い事ないかな~」


「いけいけ~!」


「はぁ…ガキンチョは元気でいいなぁ…」


午後18時11分、東京都新宿区内。結果を言えば、心愛は撮りたい物を見つける事が出来ずに一日中彷徨ってしまった。そもそも心愛は特定の会社に所属していないフリーのカメラマンである。仕事は自分で探すしかないのだ。何か撮りたい物が見つかれば良かったのだが、生憎今日は何も見つからなかったわけである。現在、心愛は1人で公園のベンチに座ってボーッとしていた。公園では子供達がサッカーをして遊んでおり、微笑ましい光景がそこにはあったが、子供が蹴ったボールがあらぬ方向に飛んで行ってしまい、あろう事か歩いている人の頭にぶつかってしまう。


「痛ッ‼誰だ⁉」


「ご、ごめんなさい…」


「本当に反省してるのか?これは没収だ!」


「そんな!ごめんなさい!返して下さい!」


「ダメだ!」


「ちょっと何やってんよ…」


会社員の男性は自分にサッカーボールがぶつかった事に酷く激怒しており、謝罪しに来た少年の言葉に聞く耳を持たないどころか、ぶつかったサッカーボールを返さずに取り上げようとする。他の少年達も集まって一生懸命謝罪するが、会社員は語気を荒くして謝罪の言葉を突っぱねて頭ごなしに怒鳴りつけていた。そんな光景を見て心愛は我慢できなくなってしまい、会社員の前に現れる。


「アンタねぇ、許してあげてもいいじゃん!」


「ダメだ!そいつ等は俺の頭にボールをぶつけた、つまり罪人だ!俺は絶対に許さん!」


「確かにこの子達が悪いかもしれないけど、一生懸命謝ってんじゃん。許してあげるのが大人ってもんじゃないの?」


「ダメだダメだ!お前も俺に指図するなら、この俺が正義の鉄槌を下してやる!ウオオオオオオッ‼」


「えっ⁉な、何⁉」


子供達を守る為に会社員と言い争う心愛。元々、正義感は強い方なので理不尽な事や弱い者イジメは見過ごせない質なのだ。会社員に怒鳴られて泣き出した子供達を見て口を出さずにいられなかった。しかし、心愛の話にも耳を貸さないどころか会社員の言動は更にエスカレートし、正義の鉄槌とかわけのわからない言動に発展していく。それどころか会社員はいきなり雄叫びを上げると異形へと変貌する。


「うわああっ!」


「に、逃げて‼」


「う、うん!」


「な、何なのよ!その姿は一体⁉」


「俺か?俺は天使だ」


会社員は雄叫びを上げると青い二足歩行の馬の怪人“グランボース”へと変貌する。しかも自分を天使だと自称する辺り、背中には小さいながら天使の羽が生えていた。心愛が怪人を目撃したのはこれで二度目となる。会社員がグランボースに変貌すると心愛はすぐに子供達を避難させるとグランボースを食い止めようとする。


「天使?アンタ、何言ってんの?」


「お前に天使の裁きを下してやる。ハアアッ!」


「うわっ!このぉ!」


「ふっ、馬鹿め。ハアアッ‼」


「きゃあああっ!くぅ…」


実は心愛には格闘技の心得があり、プロ顔負けのパンチやキックをグランボースにぶつける。しかし、相手がただの人間だったらどうにかなっていたかもしれないが、目の前の相手は天使を自称する怪物だ。心愛の攻撃は全く通じていない。逆に心愛はグランボースの攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。


「ハッハッハッ、これが正義の天使の力だ。思い知ったか!」


「はぁ…はぁ…何が天使よ、何が正義よ!アンタ、子供泣かして正義を名乗るわけ⁉」


「俺は正義の天使だ。罪を犯した者はたとえ子供でも容赦しない」


「アンタ、もう人間らしい心はないわけね…」


心愛はグランボースに訴えかけるが、グランボースは自身を正義の天使と自称してはばからない。元々、人として問題がありそうな人格だったが、グランボースに変貌した事で完全に人間としての心を失ったらしい。もしかして自分もこうなってしまうのか?そう思うと心愛は自分にわけのわからない事をしたルーチェに怒りを覚えると同時に決意を固める。もし、自分にも力が芽生えているなら、その力は弱い者を守る為に使うのだ。


「あたしは…アンタみたいにはならない」


「はぁ?何を言っている?」


「あたしは…あたし、朝比奈心愛よ‼あたしは絶対にアンタ達みたいにはならない!」


「だから、何を言っている⁉」


「うわあああああっ‼」


心愛が戦う決意を固めた瞬間、心愛の瞳はエメラルドに変色し、その場にしゃがみ込んで円を描くように回る。すると地面が円状に光り出して地面から勢い良く鎧が出現し、次々と瞬時に心愛の身体に装着されていき、装着が完了すると心愛は立ち上がる。燃え上がる炎と龍を彷彿させる緋色と金の荒々しい形状の鎧を身に纏った戦神“煉天龍神(れんてんりゅうじん)焔楽(ほむら)”がここに誕生した。


「な、何だ⁉その姿は一体⁉」


「はぁ…はぁ…あたし、変身出来た?」


「こんなバカな事が…ハアアッ!」


「しゃあっ!行くわよ~!でりゃあっ!」


「ガアアアッ!」


まさか目の前の女が自分と同じように変身した事に驚いたグランボースはすぐさま心愛が変身した煉天龍神・焔楽に襲いかかる。しかし、グランボースの接近を察知した焔楽に先手を打たれてパンチを浴びてしまい、逆に吹っ飛ばされる羽目になってしまった。一方、焔楽は全身に燃え上がるように湧き立つ力を感じていた。これなら戦える。拳を強く握り締めた焔楽はグランボースに向かって走り出す。


「はっ!やあっ!」


「ぐっ!ぐはっ!」


「たあっ!おおおりゃっ!」


「ぐふっ!ぐわああっ!畜生‼」


グランボースに接近した焔楽は素早く流れるようにカンフーを駆使して反撃させる隙を与える事なくパンチやキックをグランボースに叩き込む。格闘技の心得があると言ったが、実際はかのジャッキー・チェンに憧れてカンフーやボクシング、テコンドーをやっていたらしい。そこまでやるとアクション女優なり格闘技の選手になれそうなものだが、惜しい事に彼女はフリーのカメラマンである。一方、焔楽にやられっぱなしのグランボースは身体の細胞を使って剣を精製し、焔楽に斬りかかる。


「ハアアッ!ダアアッ!」


「よっと、当たんないわよ!」


「クソガアッ!」


「とおっ!」


「な、何ッ⁉」


グランボースの剣の一撃を回避した焔楽はジャンプしてグランボースの剣の上に乗り、そのままグランボースの顔に蹴りを入れる。グランボースは思わず剣を手放してしまい、焔楽は着地するとグランボースの剣を手にして剣の表面に緋色の炎を纏わせ、そのままグランボースを斬りつける。


「へへっ♫とりゃ!」


「ぐはっ!」


「ゲット♫ふっ、せいっ!」


「ぐおっ、ぐわああっ!」


まさか自分の武器で攻撃されるとは思っていなかったグランボース。彼の剣は今は焔楽の手にあり、炎を纏って本来の持ち主であるグランボースの身体を切り裂く。火花を散らして地面を転がって行くグランボース、一方の焔楽はグランボースから奪った剣を適当に放り投げて捨てる。グランボースにとどめを刺すべく、焔楽は必殺技を繰り出そうとするが、今までの人生で必殺技を使う機会なんてなかった、というより必殺技なんてないので考えてしまう。


「とどめよ!ってアレ、どうしよっか?」


「く、クソオッ!」


「よぅし、決めたぞっ♫たああっ‼」


「な、何っ⁉」


しかし、必殺技に関してはすぐに思いついたらしく、焔楽は遥か上空に大きくジャンプして空中で回転し、ライダーキックやレオキックみたいに右脚を伸ばす。飛び上がる際には背中から緋色の炎の翼が出現し、夜の闇を彩るように右脚からは業火が燃え盛り、猛スピードでグランボースめがけて焔楽の必殺技が迫り来る。対するグランボースは恐怖の余りに逃げ出そうとする。


「いいやああぁっ‼」


「ひっ、ひいいっ!」


「おりゃあああああっ‼」


「グワアアアアアアッ‼」


焔楽の必殺技“龍煉昇華(りゅうれんしょうか)は逃げ出そうとするグランボースに避ける間すら与えず、高速で命中して彼を追い抜き焔楽は着地する。龍煉昇華を食らったグランボースは全身が炎に包まれ、膝をついた瞬間に派手に大爆発して果てて逝った。こうして煉天龍神・焔楽のデビュー戦は幕を下ろす事になった。見事なまでの圧勝である。


「はぁ…はぁ…か、勝った?や、やったぁ…!」


「な、何だ何だ?」


「今、何かドカンて?」


「ヤバッ!早く逃げなきゃ!」


しかし、龍煉昇華の威力が強すぎるせいで大爆発が起こってしまい、爆発音を聞いた人々が現場に駆けつけて来た。さすがにヤバイと思ったのか、焔楽は背中から緋色の炎の翼を生み出して飛翔し、その場から飛び去って行った。飛翔した焔楽は新宿御苑まで飛行して着地、そこでようやく身に纏った鎧を解除して元の朝比奈心愛の姿に戻った。


「ふぅ…ここならいいわね」


『おりゃあああああっ‼』


「ホントにあたし、やっちゃったんだ…あたし、これからどうなっちゃうかなぁ?」


勝利の喜びも束の間、心愛は自分がもう普通の人間でなくなってしまった事に気付く。一応、今までごく普通の生活をして来ただけにこれは大きなショックでもある。力を得た事で心愛にはその力を使う責任が課せられるのだ。このあまりにも強大な力を得てしまった心愛はこれからどんな人生を歩んで行くのか、それはまだ考えられずにいた。そんな心愛を遠巻きから見ている人物がいた。結果的に心愛にそんな力を与えてしまったルーチェ・キューブライト、そしてマリアフォキナ・エンジェルミナス、2人の天使だ。


「全く朝比奈心愛は理解に苦しむよ。どうして折角与えた力を無駄にしちゃうかな?わけがわからないよ」


「彼女は河上彦斎と同じ紛い物になってしまいました。素質があったのに残念ですわ」


「結局、あの2人は与えた力を無駄にするような愚かな人間だったというさ。そんな事よりボク達はボク達の使命を果たそう」


「そうですわね、わたくし達はあくまでもヴォルケニックス・グランドバアルを葬り、人々を導くのが使命。これからも頑張りましょう」


「うん、そうだね」


一体、どういう判断基準なのだろうか。2人の天使は朝比奈心愛こと煉天龍神・焔楽、そして河上彦斎こと殺翔鳥神・天零を何とハッキリと紛い物呼ばわりした。そんな力を与えたのはそちら側だというにも関わらず。どたうやら彼女達の目的はヴォルケニックス・グランドバアルの排除、そして人々を導く事のようだ。こうして天使達の暗躍によって普通の人間ではなくなってしまった朝比奈心愛、果たしてこれから彼女にはどんな運命が待ち受けているのだろうか。

こんばんわ、エンジェビルですo(^▽^)o


今回は煉天龍神・焔楽こと朝比奈心愛の初登場回となりました(^-^)/かつては版権キャラでしたが、そもそもこっちで出す際に設定を大きく変えたりしてあんまり版権キャラらしい事を殆どしてなかったので、今回復活するに当たって名前を変えたりしての登場なら大丈夫だと思って登場させました(^-^)/


前回のヴォルケニックスと天零との戦いがきっかけで花梨は何と不登校、葵は謹慎1ヶ月に(>_<)葵たんはまだしも花梨のショックは計り知れません。危うく人間不信になるところでしたからf^_^;)因みに真姫ちゃんは初登場以来の再登場でしたf^_^;)そういえば、拓海と文乃の出番が全然ないですな(>_<)


彦斎と違って心愛は初変身を描きました(^-^)/初変身ってこんな感じで大丈夫でしょうか、いつも既に力を持っている前提で話を書くので、こういうパターンは珍しいです(^^)



○朝比奈心愛/煉天龍神・焔楽(ICV:斎藤千和)

今回から復活しました心愛ちゃんです(^^)なかなかシリアスになりがちな今作で貴重な明るいキャラになってくれたらいいですね(^-^)/こちらもそう書きたいんですが、頑張りますf^_^;)焔楽は名前からしてアレですが、仮面ライダー龍騎やリュウレンジャー、ウルトラマンレオが裏モチーフです(^^)つまりガンガン格闘しますよ(^-^)/


○ルーチェ・キューブライト(ICV:加藤英美里)

今作からの新キャラで天使2人目です(^^)コイツのせいで心愛は変身する羽目になったので罪深いわけですが、本人は何とも思ってないでしょうねf^_^;)イメージキャストの加藤英美里さんは説明不要ですね(^^)まんまアイツですもん…f^_^;)


○チューラット(ICV:高戸靖広)

冒頭で哀れヴォルケニックスに倒されたザコですねf^_^;)コイツはあんまり言う事ないですf^_^;)イメージキャストの高戸さんは特撮でゲスト怪人をよく演じてますね(^^)レギュラーだとマジレンジャーのメーミイ、Wのスミロドンとかありますね(^-^)/


○会社員/グランボース(ICV:安元洋貴)

心愛こと焔楽のデビュー戦の相手でした。馬の怪人というのは焔楽が龍なので、龍馬…って事でしょうかf^_^;)イメージキャストの安元さんはBLEACHのチャドやロックマンエグゼのカーネルがパッと浮かびますね(^^)特撮だとゴーバスターズやゴセイジャーにゲスト出演しましたね(^^)



次回は焔楽とヴォルケニックスの初共闘でございます(^^)


ではではm(_ _)m

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