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20 魔物部屋とお宝


 多少のトラブルはあったが、無事屋敷に帰りついた。

 しっかし王宮側もなかなかのモンだ。

 こちらが監視と付けてもいいよと申し出て、ザッカという諜報員がお目付け役に付いたというのに、不穏な視線をちらほら感じる。


 「スズネ。解かる?」

 「はい。見られてますね。」

 「ザッカさんだけじゃ物足りないみたいだね。」

 「排除しますか?」

 「いいよ。放っておこう。」


 《 (あき)れるね。巻き込まれても知らんよ・・・》




 父は休む間もなく家族を居間に集め、報告を行った。

 「まず紹介しよう。ザッカ・タラギュース殿だ。タラギュース伯爵家の三男だが現在、騎士団に勤めていてな、グレイの護衛を引き受けてくれた。」

 「よろしくい願いします」

 「そこの、グレイの後ろにいるのはメイ。メイド見習いだ。」


 多少、不信感の残る紹介だが、父はそれ以上何も言わず王宮での面談の内容を語った。

 「・・・ということだ。ビートを王宮に献上し、認められれば下級貴族ながら王宮の茶会に呼ばれるやもしれん。そうなれば周辺の貴族からも一目置かれるし、ミレイの罪も不問になる。サルカス、責任重大だぞ。」


 「!・・・はい!」


 《お~ 兄貴ガンバ!♪ア・ニキ・のホ・ンキ・がみってみ・たい♪》


 「それから・・・大分早いが、グレイがダンジョンに潜ることになった、メンバーはグレイの他、スズネとそこにいるメイと護衛のザッカ・タラギュース殿だ。」


 「!!まだ早すぎます!グレイは三歳なのですよ!!」

 母の訴えは悲鳴に近かった。


 サルカス兄は固まっている。

 マリア姉は、母の声に驚いたようだが・・・平常運転っとw


 「決まったことだ。 “不毛の地” に拠点を置くことになるが、心配ない。王都の冒険者ギルドとも話し合いをし、万全な対策を持って・・・」


 「そんなことを言ってるのではありません!!」

 母は逃げるように部屋を出て行った。


 父は大きく溜息をつくと、セバスに目を向けた。

 「王都のギルドから連絡は行ってると思うが、明日コッカスを呼んでくれ。同行する冒険者メンバーのことで話し合いたいとな。」

 「・・・直ちに」


 一通り話し合いが終わると、俺は母の部屋を訪ねた。

 母は窓辺の椅子に腰かけていたが、その目は赤く膨らんでいた。

 「母上、申し訳ございいません。」

 そうとしか言えなかった。


 それから夕飯の時間になるまで、ゆっくりと話し合った。





                          ◆◆





 自室に戻ると、暗器を含む新しい装備が置かれていた。

 苦無(くない)六方手裏剣(ろっぽうしゅりけん)・鉄拳・鎖帷子(くさりかたびら)・仕込み杖・撒菱(まきびし)・膝当て・・


 《テンション上がるね~》


 「手裏剣はまだ早いかと思ったのですが・・・」

 セバスが冷静に意見した。


 「そんなことはないよ。」

 俺は掌に乗せた手裏剣を風魔法で浮かし、くるくると回した。

 「魔法のコントロールが出来るようになったからね。」


 「流石ですな・・・あと御入用なものはございますうか?」


 「そうだね。魔力の通しやすい糸はある?丈夫なヤツ。」

 「糸?・・・でございますか・・・ジャイアントハンティングスパイダーの糸など如何でしょうか?」

 「それでいいよ。お願い」

 「畏まりました。」


 「それからセバス。気付いてる?」

 「隠密の輩でございますか?悪意はないようなので放ってはいますが・・・」


 「多分ザッカさんのお友達。父上には知らせた?」

 「なるほど、では放置ということで・・・。」


 「そうしてくれる?僕がダンジョンに行けばいなくなると思うから。」

 「承知いたしました。旦那様にはそのようにお伝えいたします。」


 セバスが退室した後。俺は椅子に腰かけた。

 「簡単にバレる隠密ねぇ・・・」


 「訓練が足りてないのでしょう。」

 傍付きメイドのスズネが評価する。


 「僕なら若手を同じように配置して、ベテランをその外側に置いておくかな?」

 「あり得ますね。確認しますか?」


 「できる?警戒されないように?」

 「勿論です。」

 スズネは一礼すると、そそくさと出て行った。


 「糸なんか何に使うの?」

 メイスがお茶を煎れながら首を傾げていた。


 「ひ・み・チュ♡」

 俺が人差し指を唇にあて、おどけて見せるが逆効果だったようだ。


 「無駄に可愛いから腹立つわね~この『坊ちゃんサギ』師は。」

 「うっさいっての。」






 夕方

 一人になって、サラフィナ神像に手を合わせる。


 すんなり “白い世界” に入れた。

 「や。おかえり。」

 靄の向こうからサラフィナ様が歩いてきた。


 「ただいま帰りました。」

 「お疲れ様。どうだった?」


 「盗聴してなかったのですか?」

 「ソリアン君から聞いたよ。ただ王宮はノイズが酷くてね。」


 「ああ、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の巣窟ですからね。」

 「そゆこと。」


 「今日はテレパシーは使わないんですか?」

 「使えるよ?君のスタイルに合わせてるだけ。」


 「さすが神様。」

 「えへん。で?教えてくれる?」


 「そうですね。敵対関係にはなりませんでした。ただ、考え方が政治に片寄りすぎて宗教の話になると一歩引いた感じになりますね。」

 「政治家だからね。理想より現実を見るクセが付いてるんだろうね。どんな話をしたの?」


 「ごく簡単な “生死観” と “転生輪廻” の『さわり』の部分だけ・・・あと『原初の経典』は見つけたようです。」

 「ああ、アレか・・・経典というほど大層な物でもないんだけどね。」


 「そうなんですか?」

 「まあね。それでも彼らの宗教観に多少の影響があれば “御の字” というところかな?」


 「あと、もう一人の『勇者』見つけました。近日中に一緒にダンジョンに潜ります。」

 「早いね~ もう少し後になるかと思ってたよ。」


 「多少はソレらしい所を見せておくべきかと思いまして・・・」

 「ま。いきなり踏破(とうは)を目指さなければ問題ないんじゃない?」


 「そういえば、まだ他にも『勇者』がいるようですが?」

 「彼に関しては、気にしなくていいよ。そのうち会えるだろうし。」


 「同業(転生)者じゃないと?」

 「ま、そういうことだね。ノイズの多い子なんだけどやることはキッチリしてくれる子だから。」


 《 放置確定w》


 「ダンジョンについて聞いてもいいですか?」

 「ダ~メ! ソリアン君に怒られちゃうよ。楽しみなさい♪」

 「ダンジョンで遊ぶって・・・」


 サラフィナ様はくすりと笑う。

 「そろそろ時間かな?」


 「あと一つ。サラフィナ様は属性神という捉え方で間違いないですか?」

 「ん~どっちかっていうと・・・まとめ役?みたいな?」 


 《 神格が想像より上だった件について・・・》


 「次回から(おそ)(うやま)うようにします。」

 「勘弁してよ~ じゃあね。」





 それから数日。

 朝の訓練の後に、サルムンド侯爵から届いた中級魔導書を読みふけったり、兄と供に水車小屋の視察に行ったり、装備を買い揃えたり、母とマリア姉に捕まって着せ替え人形にされたりと、そこそこ忙しく過ごした。


 《・・・それにしても・・・》


 中級魔導書を紐解きながら、疑問がよぎる。

 何で魔導書に治癒魔法や解毒魔法が載っているのか・・・


 こういう神聖魔法系は教会側が独占してるモンだと思ってたんだがね?


 「ま・・・考えても解らんか・・・」

 俺は考えるのを放棄した。







 「いやぁ助かります。」

 どこにでもひょいひょいと着いてくるザッカさんにこれ幸いと荷物を持たせ、俺達は悠々とドンビシャスの町を歩いていた。


 メイは串焼きに夢中だ。

 スズネは静かに付いてくる。

 人通りは賑わっている。

 馬車もひっきりなしだ。


 方向からして “不毛の地” へ物資を届けるためだろう。

 人が動けばお金も動く。

 良いことだ。


 「まさか荷物持ちをやらされるとはね・・・」

 メイの装備を抱えたザッカが、愚痴る。


 「まさか小さい女の子に荷物を持たせるわけにはいかないでしょう?」

 「そりゃま、そうですが・・・坊ちゃんも持ちますか?半分。」


 「三歳児に荷物を半分持てと?タダ飯食いは気が引けるのでは?」

 「冗談ですよ。」


 他愛ないやり取りをしながら、周囲に視線を走らせた。

 ちらほらと観察するような視線がある。


 《 お疲れ様・・・》


 鬱陶(うっとう)しいが仕方ない。

 有名税だと諦めるか・・・


 《 最終確認だけしとくか・・・あまいな・・・俺も・・・》




 俺達は適当は店に入り、お茶とケーキを頼んだ。


 「単刀直入にお聞きしますが・・・ザッカさん。()()()はダンジョンにも入るつもりですか?」

 「バレてましたか・・・どうでしょう?浅層までなら着いてくるかもしれませんね。」


 「王宮も一枚岩じゃないのでしょう。予想はしてましたから構いません。サルムンド侯爵閣下にも話しましたが、人知れず巻き込まれて死ぬくらいなら最初からパーティーに加わったらどうでしょうか?」


 ザッカは少し上を向いたが、すぐに視線を直した。

 「お気持ちはありがたいですが、なかなかそういう訳にもいかないようで・・・」

 ぼりぼりと頭を掻きながらニヤケているが、その目は笑っていなかった。


 「解りました、好きにしてください。ただし故意に邪魔したり、実家にちょっかいを掛けるようなら全力で排除しますのでと、お伝えください。」

 「・・・伝えましょう。」






 さらに二日後

 俺達はドンビシャスから乗合馬車に乗って “不毛の地” へと向かった。


 ダンジョン周辺は賑わっていた。

 大小の露店が立ち並んでいる。


 「グレイ様。お待ちしておりました。」

 セルア会長が小走りにやってきた。


 「大分賑わってますね。」

 俺は周囲を見渡した。


 大工がいたる所でその腕を振るっている。

 「王都から近いせいもあるのでしょう。都市計画の専門家が派遣されたようで、区画整理とかで皆さん大わらわなようです。」

 「・・・あ~・・・」


 《 スタンピード対策? いや、そこまで考えてないだろうな・・・》


 「コッカスさん・・・冒険者ギルドのギルド長は何か言ってませんでした?」

 「いえ?・・・聞き及んでませんが?」


 《・・・叫んでも聞く耳持たないか・・・お役人だもんな・・・》


 「セルア会長は何処に工場を建設する予定でしょうか?」

 「それが、ダンジョン周辺のほとんどが大手の商会の息が掛かってしまってるようで・・・」


 「それは好都合w」

 「どういうことでしょう?」


 「こちらの話です。オアシス周辺はどうですか?」

 「あの辺りは領主様の御認可が必要になりますので・・・」


 「これですか?」

 俺は父の書いた認可状を見せた。

 セルア商会と父の名がしっかりと書かれてある。


 「おお!ありがとうございます!」

 「発火しやすい素材を使いますからね。オアシスの近くがいいかと思いますよ。それと、外壁は可能な限り頑丈にしてください。」


 「外壁ですか。情報漏洩対策でしょうか?」

 「・・・というよりスタンピード対策です。他の商会はあまり考えてないようですが。」

 ああ、と納得したようだ。


 その後、俺はダンジョンに潜るため工場に拠点を置かせて欲しい旨を伝えると、大層驚き心配してくれたが、会長の心配は俺の身というより頭の中にある幾つかの新商品の心配であることは解っているので適当に流した。


 さらりと分かれてダンジョンへ足を向ける。





 ドンビシャス冒険者ギルドの出張所はダンジョンのすぐ近くに大きなテントを張り、冒険者の入場を管理しているようだ。


 受付で名前を告げると。テントの奥に通された。

 「コッカスさん。お久しぶりです。」

 ギルマスは俺達のメンツをしげしげと見ると、大きく溜息をついた。


 《 オイオイ ”幸せ” が逃げちゃうよw》


 「王都のギルドと領主様からのお手紙を拝見いたしました・・・何を考えているのやら・・・」

 「ご配慮痛み入ります。」


 「正直、俺は反対です。規約違反も甚だしい。いくら領主様の御曹司とはいえ、ダンジョンは遊び場じゃないですよ?」


 《 でもどっかの神様は楽しんで来いってさw》


 「父の手紙には何と書かれてありましたか?」

 「・・・全ての責任は領主様が取るそうです。」

 ギルマスはぶっきら棒にそう言った。


 「ならば、そういう事で。大丈夫ですよ。次男坊ですしw」

 「そういう問題じゃねぇんだ!」

 ギルマスはテーブルを激しく叩いた。


 《 やっさしいね~♪ 惚れちゃいそうw》


 「いや、失礼しました。今回、同行する冒険者チームを紹介します。B級冒険者『金糸鳥』のメンバーです。」

 「金糸鳥リーダーのアッサムだ。よろしく頼む。そこにいるのがタンクのゼアル。魔法使いのリピット。神官のリサ。シーフのコゼス。」


《 金糸鳥・・・カナリアかな?》


 「それから、ザッカ・タラギュース殿。あなたはこのメンバーには同行できません。」

 「へ?何でです?」

 ギルマスは一枚の紙をザッカさんに手渡した。


 「王宮からの命令書です。ダンジョンには同行させるなと、異議申し立ては王宮へどうぞ。」

 「・・・え~と・・・解りました・・・」

 がっくりと肩を落としたザッカは、渋々と退場した。


 《 荷物持ち早々に脱落・・・誰か他の諜報員捕まえるかな?》


 何とかなるだろうと、俺は金糸鳥メンバーに目を向けた。

 「ちなみに金糸鳥の皆さんは、ここのダンジョンの何階まで潜られましたか?」

 「15階層だな。この依頼が無ければさらに下の階層に行く予定だったが・・・」

 アッサムは冷たく俺を見下ろした。


 無理もない。

 新設のダンジョンだ。

 まだ見ぬ “お宝” が “そこ” にあるのかもしれないからな。


 「お手を煩わせて申し訳ございません。今日、さっそく潜ってみるつもりですが様子見なので1階層の行ける所までで良いですか?」

 「問題ない。」


 「罠はありました?」

 「いや、罠は3階層からだな。」


 「ちなみに変動はありました?」

 「変動?・・・とは何だ?」

 おんや?

 ギルマスもご存じない?


 メイが不思議そうな顔をしながら口を開いた。

 「変動。ダンジョンの内容が変わることよ。環境が急変したり、罠の位置が変わったり、出現するモンスターが変わることもあるんだけど・・・知らないの?」


 メイの “ダンジョンあるある” w


 「いや・・・聞いたことがないな。」

 「他のダンジョンではどうですか?」


 シーフのコゼスが呟いた。

 「そういえば・・・風の噂で西のラッテルのダンジョンが変わったとか言ってたな。」


 「本当か!」

 ギルマスもビックリの情報出たw


 「変動なんて、初めて聞いたぞ!」

 他の金糸鳥のメンバーもざわついている、


 《 今まで無かったのかね? 活性化したかな?》


 とかくダンジョンは謎が多い。


 「確認した方がいいかもしれませんね。予兆が判れば退避勧告も出せるでしょうから。」

 「・・・そうだな。貴重な情報感謝する。」


 「お役に立てれば何よりです。ではもう一つ。月の位置に気を付けて下さい。」

 「月の位置?」


 「何かの本に、月の満ち欠けとダンジョンの変動に関係がある様な事が書いてあったと思うので・・・杞憂かもしれませんが・・・・」


 《 “ダンジョンあるある” その2 じゃがねw》


 「いや、全くの手探りよりはいい。重ね重ね感謝する。」

 ギルマスは頭を下げた。




 「これから潜るのか?」

 リーダーのアッサムが面倒臭げに俺を見下ろした。


 《 まあ実際『ダンジョンで子守り』なんて『貧乏くじ』引いた気分なんだろうがね・・・チームカナリアって読んじゃうよ?》


 「はい。行きましょう。」






 俺達は行列を作る冒険者らを横目で見ながらダンジョンに向かった。

 冒険者達は何か言いたげだが、同行するギルマスを見ると押し黙った。


 《・・・なんかスマンネ・・・》



 「・・・まんまモノリスね~」

 初めて、アストラス領のダンジョンを見たメイが呆れたように呟いた。


 《・・・激しく同意!》


 「?モノリスとは?」

 スズネが首を傾げる。


 「物語に出てくる壁だよ。不思議な力を持ってるんだって。」

 端折(はしょ)った言い方だが、間違ってはいない・・・と思う・・・




 「ここが入口です。出る時もここから出ます。」

 ギルマスが壁に振れると、ズブリとめり込んだ。

 そのまま歩みを進めて中に入る。




 中は広々としたホールだった。

 冒険者が ”わちゃわちゃ” している。

 新米冒険者らしいのも、ちらほらしていた。


 「このホールの中央にある柱が “帰還門” になります。ここで登録すると、各階層の ”帰還門” から1階まで戻ることができます。ただし帰還する際は必ず魔法円に入り、そこから出ないように気を付けて下さい。」

 「親切設計ね。」


 《 それも同意w》


 「助けてくれ!」

 いきなり帰還門のサークルが光り、冒険者チームらしい人影た出現した。

 見る間に四人の男女が現れる。


 その内の一人の女性が、男性の背中におんぶされていた。

 「ポイズンワームにやられた!誰かポーションと毒消しを!金なら払う!!」

 「ポイズンワームだと!何階層だ!?」

 「八階だ!誰でもいい!早くポーションを!!」


 《 ありゃ、がっちり食い千切られてるね。腓骨(ひこつ)見えてるし・・・》


 仕方ないのでテクテクと進み出た。

 「グレイ様!?」

 「なんだ坊主!?」


 「誰でもいいんでしょ?ちょっと見せて。」

 と話しかけつつ『並列思考』『多重思考』。


 右手にミドルヒール。

 左手にミドルキュア。

 魔力コントロールで徐々に魔力を強めていく。


 貰っててよかった中級魔導書。

 サルムンド侯爵に感謝。


 白と紫の光に挟まれた傷口は、ゆっくりと肉が盛り上がった。

 顔色もよくなり、浅かった呼吸も正常に戻ったようだ。


 「・・・すごい・・・ですな・・・」

 ギルマスもビックリw


 「サルムンド侯爵閣下から下賜された魔導書が役に立ったようです。」

 「サルムンド侯爵・・・」


 「このまま寝かせておいてください。起きても具合が悪そうなら解毒薬を。」

 「あ・・・ありがとうございます!」


 「んじゃ、登録して行きましょうか。」

 呆然と見守られる中、しれっと立ち上がった俺は登録に向かった。


 ありがとうを繰り返す男性から逃げるように歩みを進める。


 「・・・照れてんじゃん。」

 メイが揶揄(からか)うように覗き込む。

 自分の顔が赤くなってるのが判った。


 「うっさいな。打算だよ。冒険者は貸し借りを重んじるヤツが多いらしいから。」

 「・・・ふーん・・・」


 「何だよ。」

 「べ~つにぃ。」


 「それにしても見事な治癒魔法でしたね」

 金糸鳥の女性の神官が話しかけてきた。

 確かリサとか言ったか?


 「リサさん・・・でしたね。魔導書を下さったサルムンド侯爵閣下には感謝しかありませんよ。」

 「私もミドルヒールを使うことはありますが、ミドルキュアとの同時併用はあり得ません。まず、魔力枯渇で倒れますし、さらに無詠唱など・・・どなたの師事を?」


 《・・・初っ端から悪目立ちしたってことね・・・》


 「別に師事は受けていません。独学です。」

 「独学であんな高等技術を!?」


 「鏡文字ってご存じです?」

 「・・・聞いたことはあります。鏡に映して初めて文字が読めるとか?」


 「それを両手でやるんです。つまり右手で文字を掻きながら、左手で鏡文字を書く。慣れたら、右手と左手で別々な文章を書くんです。」

 「・・・そんなこと・・・」


 「格闘家・・・モンクの上級者にも似たようなことをやる人がいますよ?八方目とか言うそうですが・・・」

 「そ・・・そうですか・・・」

 リサはそれっきり口を閉ざした。


 《 もっとも俺の場合、最初からスキル付いてたけどね・・・ゴメン・・・》





 「アッサムさん。この道で合ってます?」

 「ああ。間違いない」

 相変わらずの仏頂面。


 《 笑ってた方が楽しいのにねぇ。(くすぐ)ってやろうかw》


 「それにしても魔物いませんね~」

 「1階層はゴブリンとスライムだからな。ほぼ狩られてると思っていいかもな。」


 「そうですか・・・そういえば『魔物部屋』はどうなりました?」

 「そんなことも知ってるのか・・・アソコは近寄らないように全冒険者に通達されている。数が多すぎるんでな。」


 「ほうほう・・・メイ。判る?」

 「OK。アッチね。」


 メイと俺は分岐を折れて進んだ。


 「お、おい!待て!!」

 慌てたアッサムが俺の腕を掴もうとしたが、スズネがそれを止めた。


 「失礼。貴族様の身体には触れないようお願いいたします。」

 「し、しかしだな!」

 「ご心配なく。ゴブリンの20や30坊ちゃまの敵ではありませんので。」


 《 スズネさん?期待が重いんですが?》


 「しかしそれではギルドの命令違反になる!」

 「それもご心配なく。私達は冒険者ではありませんし。私達の身に何があってもその責は領主様が負うことになっています。貴方方(あなたがた)が罪に問われることはありません。」


 《 貴族様のワガママざんす。貴族って恐いのネンw》


 吹き出しそうになるのを堪え、半ば走るように『魔物部屋』を探した。

 「・・・嬉しそうね。」

 「ちょっとね。」


 しばらく進むと、袋小路だった。

 右側の壁の向こうから、ワサワサと気配がする。

 まるでGだ。


 「ここね。」

 「ここだね~」

 鑑定・・・

 スイッチ発見!


 「いい?開けるよ?」

 メイはショートソードを抜いた。

 「いつでもどうぞ。」


 バン!と壁を叩く。

 勢いよく開いた扉に俺達は突貫した。

 ヒャッハ~であるw




 スズネたちが到着した頃には、ほぼ全てのゴブリンとスライムが魔石に変わっていた。


 「ホイ!終了っと」

 振り下ろされたこん棒を外に流し、ゴブリンの喉元を突く。

 魔力が込められた杖は、喉元を突き破った。


 「お疲れ~って疲れてないけどw」

 「そだね~ とりあえず魔石拾っておこうか。」

 俺は真上の天井から垂れ落ちて来るスライムの核を、苦無(くない)で砕きながらメイの倒したゴブリンを見た。


 ほどんどが魔石に変わっているが、吸収されてない固体の切り口は『はぼ一刀両断』。

 さすがは『勇者』。


 「お小遣い~♪」

 流石の元OLw


 俺は呆然とする金糸鳥の面々を無視し、壁に囲まれた部屋を見渡した。


 《 休憩したり、避難所には使えそうだが・・・1階層じゃね~・・・ん?》


 なんか引っかかる・

 再度、入念に見渡す。


 「何か?」

 スズネが近付いてきた。

 メイは魔石拾いに夢中だ。


 「スズネ・・・あそこの出っ張り?」

 俺は奥の壁の隅に僅かにレンガが出ていることに気付いた。

 「不自然ですね・・・罠でしょうか。」


 《 魔物部屋に?罠・・・二重罠・・・一階層に?》


 「考えにくいけどね。スズネ。メイ。一応警戒。ノワール、あのレンガ押せる?」


 足元からにゅっと出てきた黒猫が「にゃ!」っと一声鳴くとタタタと壁を走った。

 重力を無視し、壁に張り付いて、カチリとレンガを押す。


 小窓程度の扉が開いた。


 「あ!宝箱!?・・・ミミック?」

 「・・・いや、大丈夫みたい。」


 俺は金糸鳥の面々の視線を気にしながら、ノワールに箱を開けさせた。

 普通に宝箱だ。


 「ナニコレ?バッグ?」

 「・・・みたいだね。」

 宝箱から出てきたのは、何ら変哲のないバッグ1つだけだった。


 「ちょうどいいや。魔導書入れて運ぶバッグが欲しかったんだ。」

 「なんだ、宝石とかじゃないんだ。」


 「宝石なら、ダンジョン発見されてすぐに誰かが見つけたらしいよ?」

 「いいなぁ・・・私も欲しい・・・」

 「女の子だもんね~」


 駄弁(だべ)りながら肩にかけてみる。

 身体の小さい俺にぴったりのサイズ感だ。

 「お待たせしました。」


 俺は明るく金糸鳥のメンバーに呼びかけた。

 「あ・・・大丈夫か?」

 「何がです?」

 「その・・・バッグ?」


 「普通のバッグみたいですよ。ほら、噛みついたりしませんし。」

 俺はバックの口を開け、手を突っ込んで見せた。


 「・・・そうか・・・それと、その魔物は従魔か?」

 「そうですね。契約してます。カワイイでしょ?」


 「・・・そうか。」

 笑いましょうよw


 「じゃ、行きましょうか。」





 俺達は元のルートに戻り、最奥のボス部屋の前にたどり着いた。

 「結局、あそこ以外、魔物に出会えませんでしたね。」


 「そうだな・・・」

 「アレが帰還門ですか?」


 「そうだ。」

 「明日も潜るつもりですが、お付き合い願えます?」


 「・・・どうだろうな。とりあえず今日のことは報告するつもりだ。後の判断はギルマスがするだろう。」

 「解りました。明日またギルマスに会いに行きます。」


 「そうしてくれ。」





 ダンジョンを出て別れた俺達は、宿屋を探した。


 まだ解禁されて間もないダンジョンであり、ついこの間まで人っ子一人居ない ”不毛の地” であった場所だ。

 ダンジョンに潜る冒険者達はテント生活を余儀なくされるか、長い道程を歩くか乗合馬車でドンビシャスに戻ることになる。


 耳の早い連中は早々と大工を雇い、借金をしてでも宿と食堂を構えたようだが輸送費も相まって他所より高い値段設定になってしまっている。


 落ち着くにはもうしばらく時間が掛かりそうだ。




 幸いにも日暮れには早い時間だったので、あっさりと見つかった。


 部屋に入りバッグを外して、鑑定。


 《 いきなり “当たり” だもんな》


 鑑定には『マジックバッグ』と出ていた。

 通常、ダンジョン産のアイテムは再現不可能とされている。


 《 不可能・・・ねぇ・・・》


 バックの中身には何もなく、黒々とした空間のみが広がっていた。


 鑑定・・・何もない。

 再度鑑定・・・出てこない。

 も一度鑑定・・・スカ。


 鑑定・・・鑑定・・・鑑定・・・鑑定・・・鑑定・・・鑑定・・・鑑定・・・




 「何してらっしゃるんです?」

 スズネとメイが俺の部屋の扉を開けて、不思議そうに眺めていた。

 集中しすぎてドアのノックが聞こえなかったようだ。


 「何でもないよ?どうしたの?」

 「買出しに出ようかと思いまして・・・・」


 「まかせるよ。何か買って来てくれる?」

 「畏まりました、」


 その後も鑑定を試み、三人で夕食を済ませた後も二人を自室に戻し、バックの中を覗き続けた。






 「・・・見えた!うわぉ・・・複雑怪奇・・・」


 見えたモノを忘れないうちに、受付で紙とペンを借りて書き写す。


 《 基本、ルーン文字なんだよな・・・》


 一見デタラメとも見える魔法式を書き写し、再度鑑定で間違いがないかを確認。


 幼児の脳ミソは優秀でした。



 《これが・・・こう?ここで切れて、この括りが・・・時間遅延?・・・んで?・・・これは空間拡張か?・・・いや、ここで切れるのか?そうなると?》





 結局、明け方になっても解析は終わらなかった。


 「大丈夫ですか」

 少しフラフラしながら、朝食を食べる。

 三歳児に徹夜は少し厳しいらしい。


 「スズネ。メイと一緒にギルマスの所に行って、メンバー単独で潜れるか聞いてくれる?できれば許可証も書いてもらって?ついでに紙とペンも買って来て。出来るだけ沢山。」

 「畏まりました。何をなさるおつもりですか?」


 「ちょっとした発見があってね、解析してるんだけどまだ終わらない。」

 「なに?昨日のヤツ?」

 「後のお楽しみ。僕は少し寝るよ。」


 部屋に戻ると、文字通り倒れるように眠りについた。




 昼過ぎごろ起きると、机の上には許可証と大量の紙とペンが置いてあった。


 頭の中を整理しながら、チマチマと一枚の紙に書いていた魔法式を大きく書き写す。


 「ここが・・・こう・・・あ、そか!これXYZの三次式か!・・・したらここで切れて・・・これ結界魔法?歪めた空間を結界で閉じ込めてんだ!アッタマ良いねぇ!」


 ぴろ~ん♪と頭の中で何かがなった。

 ステータスを開いてみると、スキルに時間魔法と結界魔法が表記されていた。


 《 なるほど・・・楽しめ・・・ね・・・てか、何気にレベルが15になってるんですが?》


 なんにせよ、楽しむにも金が必要だ。

 俺はスズネとメイを連れだってダンジョンに潜ることにした。


次回 3月14日更新予定です。

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