聖女見習いと副神官長と聖騎士副団長――次期〇〇談合その一
聖女見習いミコの一日がはじまります。
「「ミコ様、起床の時間ですぅ!」」
頭に響くアニメ声が聞こえた。
「う〜ん、もう?」
まだ薄暗いじゃない。勘弁してぇ。そういえばガランゴロン鐘が鳴っている。起床の合図? 教会みたい、よく知らないけど。
「お顔を洗ってお着替えですぅ、そしたら朝食ですぅ」
「……分かりました」
双子の巫女ちゃんによって洗顔・丁寧なブラッシング(わたしもロン毛です、背中まであります)が済むと聖女服の着付けをされ、ダイニングルームに運ばれた朝食を三人で食べる。
出されたのはベリーたっぷり蒸しパンとゆで卵とチーズ、はちみつ入りハーブティーでした。
聖女服は何枚もの衣服を重ねる仕様で、下着はノースリーブチュニックとゆったりしたパンツ、その上に白地のロングスカート、さらにミディ丈の紺色チュニック、さらに床を引きずる白いマント。頭には薄絹のヴェール。靴は革の編み上げサンダル。生足です。
ローマというよりは、ギリシャっぽい?
それに、床暖があるのか足元は暖かいのだけど。
「ミコ様が着ていたお服とお荷物はクローゼットにしまいましたぁ」
「ありがとうございます」
「珍しいお服とカバンなんですぅ!」
「そうですか?」
スマホは……ここにいる限り使えないだろうな。
宿舎は神殿裏をコの字に囲んでいて、左側が神官棟、右側が巫女棟。真ん中は上級神官・上級巫女・聖女棟、双子ちゃんは特別にココ。聖騎士は別棟らしい。
妻帯者は自分の家を持っているとか。
中庭に出て驚いた。
中世的な丸屋根付き巨大神殿 ドォーン!
フードをかぶったグレーローブ姿の修道士 ドォーン!
バケツ兜とロングチュニック、防弾チョッキ(ラメ入り?)姿の聖騎士団 ドォーン!
謎の彫刻だらけの噴水付き中庭 ドォーン!
す、すごい、圧巻!
昨日は夜も更けていたから、外の様子なんて分からなかったわ。権威の高さがうかがえる。
「おはようございます、ミコ様。副神官長のアンドレアス・パパスです」
「お、おはようございます?」
「副神官長様、まさか朝っぱらから待ち伏せですかぁ? 前の彼女さんとはどうなったんですかぁ?」
「人聞きの悪いことを言わないでください。あなたがたはもう下がりなさい!」
「「はぁ~い」」
爆弾発言でうろたえているのは副神官長様ですね、覚えていますよ。グレーのローブ姿がデフォなのね。優しそうな微笑みがまぶしいわ。女性関係が派手なの? 待ち伏せではないわよね?
「まずは神官と巫女に挨拶、それから祈祷です。わたしが説明いたしますので、安心してください」
案内ということですね、わたしったら自意識過剰。反省。
祈祷は大広間で。大きな壺を肩で担ぎ、ウッカリ水をこぼしている『温泉の女神像』に向かって両手を組む。わたしは……[異世界で殺されませんように、悪者はダークマターで消滅しますように]と祈った。
祈祷が終わると神殿関係のお勉強。中年の巫女さん(巫女の教育係らしい)から、礼儀や儀礼について習う。そしてシンプルなランチ。これは何だろう、雑穀がゆ?
「ミコ様、午後は参拝者の治癒に当たっていただきます。やり方を説明いたしますので、参拝廊の先にある聖女塔へどうぞ」
副神官長様に案内されたのは、大神殿の門と大広間をつなぐ外廊下。その先に丸い建物があって、普段聖女様はここで参拝者とお話するらしい。
中央の台座に大きな女神像付き椅子。ここに座るの? 恥ずかしい。参拝者を見下ろす感じじゃない。しかも何人もの巫女さんがいる。
大会社のメンタルヘルスカウンセラーかな。社会福祉士や臨床心理士の専門知識や実務経験はないんだけど。
「わたしにできるんでしょうか?」
「はい。ミコ様には癒しの力がありますので」
「……???」
「試してみましょうか。そこの神官、副団長を呼んでもらえますか」
「はい」
やって来たのは……とりわけ背が高くイカツイ聖騎士さん。この人が副団長様らしい。バケツ兜を取ったら……おおぅ、メチャたくましい格闘技系イケメンさん。今まで稽古でもしていたのかしら、カールした茶髪が汗で濡れているわ。お風呂に入れて全身をタオルで拭いてあげたい。
「何か御用か、副神官長」
「ミコ様がお呼びだ。ちょっとそのごつい手を切ってくれ」
「ごついだと?」
「いいから切ってくれ」
待って待って。手を切るって!?
ガシッ、ブシャー!
「キャ〜〜〜ッ!!」
副団長様が左手の甲を自分の剣で切った!
血がドクドク流れている!
頭おかしいの? 信じらんない!
「どうぞミコ様、こいつの手を治療してください。できなければできないで構いませんので」
「いいえ、ミコ様。ぜひ治していただけませんか」
エエエ〜。この二人って……。
「でも、どうすればいいのか分かりません……」
「傷口をその可愛らしい手で撫でてくださればよいのです」と、副団長様。
エエエ〜!
仕方なくわたしは副団長様の傷口を、泣きそうになりながら撫でた。
うわぁ~、大きな手。撫でがいがあるわ。わたしの二倍はありそう……スリスリ。
すると――。
驚いたことに、次第に血が止まり、傷がふさがったのだ。
エエエ〜!
「さすがでございます、ミコ様。俺はイアソン・クセナキス、聖騎士団の副団長、ど・く・し・ん、三十歳です。これからずっとミコ様をお守りいたします、守らせてください」
副団長様がわたしの前で膝をつき、にこやかにわたしの両手を握りしめた。
「ええと……」
な、何だか恥ずかしい。
「副団長、ミコ様が困ってらっしゃる。手を離せ」
「フン! ではミコ様、また俺の傷を癒してください」
「はぁ……」
副神官長様の方が副団長様よりも上なのかしら。上下関係はちゃんと把握しないと。人間関係を円滑にするためにも。
❖ ❖ ❖
参拝者の訴えを聞き流し(何を訴えているのかよく分かりません)、傷や火傷なんかを撫でていたら、あっという間に夕方になった。聖女塔へ参拝に来る人たちは体にダメージがあるのね。外科医になった気分。巫女さんたちはナース。
新しい職業は外科医兼メンタルヘルスカウンセラー。勘弁してぇ。理解と心と治癒力が追い付かないの。
「お疲れ様でした。ミコ様、明日もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします、副神官長様」
「顔色が優れないようですが……大丈夫ですか? こちらにいらしたばかりですし」
「それは……はい。でも仕方ないですから」
「ミコ様の前の聖女様もそうおっしゃってらしたと聞いております」
「前の聖女様?」
はて?
「何かありましたらわたしにご相談ください。すぐにでもミコ様のお部屋へ飛んでいきましょう。同じ上級者棟なので」
「いえ、そこまでは……」
とびきり優しい微笑みに隠された真意は?
神官が聖女部屋に来るのは風紀的にマズいのでは。この国の神殿はゆるゆるなの?
ヘトヘトになって自室に戻り、双子の巫女ちゃんと夕食。夕食だけは豪華。ベリーたっぷり蒸しパンに加え、野菜シチューと蒸し謎肉ソース添えと果物があったから。
もう立っていられません、お風呂(温泉!)でゆっくりしたらベッドへダイブ!
二年前に新入社員になって研修したばかりだったのに、また新入社員研修。しかも訳の分からない世界と経験のない仕事。続けられる気がしない……。
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「あsdfghjkl;:!」
「オイ、マテ!」
「あsdfghjkl;:!」
「オイ、オマエ! オマエだよ!」
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※次回、第一王子様が現れ、談合は続きます。




