031
(TENMA‘S EYES)
この中で、一番疑われても仕方がない。
鵤 うねには、柚乃との結婚を反対された。
恨む理由は、はっきりと俺には存在していた。
それこそ、俺が一番疑われる理由、動機だ。
だからこそ、俺は犯人を捜さないといけない。
柚乃と話をしていた砂川は、店を閉めるからと再びカフェに戻っていた。
時刻は22:10、すでに閉館時間は過ぎていた。
彼女は、最後の店じまいをして俺と柚乃の前に来ていた。
「印南さん、そういえば明日のことですけど」
「ああ、今日のこともありますし」
「マニュアル通りだと……」
砂川は印南に話を始めた。
ここを仕事場にしている二人は、そのまま仕事モードで話を続けていた。
警備員の彼もまた、本来の業務に戻っていく。
彼もまた、この神戸タワーの展望室は職場なのだ。
「ああ、こらちょっと」
「柚乃、まだあの二人が犯人だと決まったわけじゃない」
離れる二人をよそに、俺は柚乃といた。
そばには、眠っている鵤の婆さんをそばで見ていた。
近くでは、ベンチに座ってスマホ片手に薬栗が仕事をしていた。
そのそばで、鵤は青白い顔で眠っていた。
苦しそうな顔で、そのままベンチのそばで寝ていた。
だけど、俺はさっきからずっと俺の背中越しに視線を感じていた。
「だが、俺を遠くから見ている女がいる」
俺が指さした先には、一人の人間。そこには背の低いOLだ。
出てきたのは水色のスーツ。
険しい顔で、俺を睨んでいた。
「やっぱり、あなたが一番怪しいから」
「俺が殺したわけじゃない」
「あなたは、瀬奈とも関係を持っていた。
本当に、若い娘が好きなのね」
「そうじゃない、そうじゃないんだ」
背の低いOLは、俺に冷たい言葉を投げかけた。
彼女は伊丹、二人組のOLの一人。
若杉と一緒にいた伊丹は先輩だが、俺の知り合いでもあった。
だが、何より俺と若杉 瀬奈との関係を彼女は知っていた。
瀬奈は忘れていたが、伊丹はしっかりと俺のことを監視していた。
後輩を振った男。それこそ、この俺だ。
しかも、若い子好きのヒモ男性。
印象は最悪で、反対していた祖母も殺された。
「ちょっと何を言っているの、おばさん!」
俺をかばうように、柚乃が前に出てきた。
柚乃は顔を赤くして、伊丹に迫っていた。
だけど、勝気の柚乃に対して伊丹もひるまない。
「おばさんじゃないわよ、このガキ!」
「柚乃はガキじゃない!」
「うるさいわね、あんたとそのヒモ彼氏がどうせ殺したんでしょ」
「違うわよ、大体どうやって?」
「生物兵器」遠くから聞こえた声。
その声は、男の声だ。
渋い声で聞こえたそれは、一人の会社員の声だった。
「お前は、波多野?」
グレーのスーツを着た男性が、右手をポケットに突っ込んで歩いてきた。
その様子は、どこか怪しさを感じさせていた。




