表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~  作者: 一ノ瀬麻紀
番外編 1(本編を先にお読みください)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/81

やり直しバーレル

「明日の夕飯は、おれに任せて!」


 料理はからっきし駄目なおれの代わりに、いつもは蒼人が食事を作ってくれる。でも明日はおれが用意するんだ。


「……え? 麻琴が作ってくれるの?」


 蒼人がこっちを振り返り、期待に満ちた眼差しで、おれを見た。


 ご、ごめん、蒼人。違うんだ……。


「……いや……作るんじゃなくて、準備するって意味で……」


 おれは、僅かに開いた間を誤魔化すように、急いで返事をする。

 蒼人の期待通りに作ってあげられない申し訳無さと、不甲斐なさが混ざって、語尾が窄まってしまう。


 そんなおれを見て、蒼人はくすくすと笑い出した。


「大丈夫、分かってるから。……バーレルだろ?」

「ええっ?! なんで知ってるの?!」


 蒼人には話をせずに、黙って買ってきて驚かせようと思っていた。だから、知らないはずなのに。


 蒼人は、もう一度楽しそうにくすくすと笑いを漏らすと、おれの頭をポンポンっと撫でた。


「寝言で、バーレル買いに行くぞーって言ってたから」


 おれ、寝言でそんな事言ったんだ……。

 顔がぼんっと熱くなる。


「麻琴らしくて、可愛いよ」


 言葉足らずであんな事が起きてしまった経緯から、蒼人は恥ずかしいくらいに、気持ちを言葉にしてくれるようになった。

 めちゃくちゃ照れてるのはおれだけだろうか? 蒼人は照れる様子もなく涼しい顔でおれを溺愛する。


「お前さ、よく恥ずかしくもなくそんなセリフぽんぽん出てくるよなぁ?」

「恥ずかしくない。麻琴が可愛いのは事実だから」


 蒼人曰く、今まではずっと心の中に留めていた思いを、口に出しているだけだそうだ。昔から、おれに対してずっと思っていたことを、言葉にして伝えているだけだから、恥ずかしいことは何もないのだと。


「そ、そっか……」

 

 問いかけたおれが逆に恥ずかしくなってしまって、照れ隠しをするように、「ありがとな」と小さくつぶやくと、蒼人の頬にチュッと素早くキスをした。





 次の日。

 七夕の日のやり直しのつもりで、バーレルをこっそり買ってきて驚かすつもりだったけど、蒼人にはバレバレだったので、一緒に買いに行くことにした。


 帰り道、袋ごとバーレルを抱え、おれは満足そうに漏れ出るチキンの香りを大きく吸い込んだ。


「あ! 今日は見たい試合があったんだ! 早く帰ろう!」


 先日、映画やテレビ番組やスポーツまで見れちゃうという、サブスクリプションに加入した。

 今まではスポーツ観戦というものにあまり興味をもつことがなかったんだけど、サブスクを機に見てみたら、選手達の懸命なプレーにすっかり魅了されてしまった。


 帰宅してすぐテレビを付ける。タイミング良く、試合が始まったところだった。


 「頑張れ、日本!!」


 手際よくお皿や買ってきたサラダを並べ……たのは蒼人で、おれは手洗いうがい後さっさと特等席へ腰を下ろしていた。

 今日は、たまにはいいよねってビールも一緒に買ってきた。しっかりと冷えたビールを片手に「蒼人まだぁ~?」なんて言うおれは、いい気なもんだ。


「お待たせ」

「やり直しバーレルにかんぱーい!」


 準備を済ませて蒼人も隣に座り、おれの音頭で乾杯した。

 何に乾杯するんだろう?って考えた時に、浮かんできたのは七夕の日のリベンジという思いだった。……だから、やり直しバーレルなんだ。


 白熱する試合に、おれは「頑張れ!」と必死になって応援をしていた。手にしたチキンはひとくちかじったまま、ビールも一度口を付けたままで。


 試合も勝敗がつきやっとひと息つけると思った時に、ふと視線を感じてそちらを見ると、蒼人がニコニコしながらこちらを見ていた。


「何を見てるんだよ?」

「もちろん、麻琴だ。俺には麻琴しか見えていない」


 蒼人はおれの問いかけに対して当然と言わんばかりの返答をしたあと、不意打ちに頬へキスを落とした。


 「あっ……」


 不意打ちのキスに驚き手から逃げたチキンを、蒼人はすかさずキャッチすると「はい」と手際良くおれの口へと運んだ。


 観戦に夢中になって忘れ去られてしまっていたチキンが、急に存在感を増す。蒼人の手によって運ばれたチキンを咀嚼すると、口中に旨味が広がってきた。


「蒼人も食べろよ」


 不意打ちのキスで頬だけではなく顔全体に熱を帯びてきたのを隠すように、おれの食べかけのそれを蒼人の口元に押し付けた。

 照れ隠しだなんて思われたくなくて、少しぶっきらぼうな口調になるものの、自分の食べかけを押し付けてしまったことに気付き、また恥ずかしくなってしまう。

 そのうえ、これって間接キス……? そう考えてしまってまた顔が赤くなる。


「美味しいな」


 ますます熱くなるおれに気付かない様子で、蒼人は笑いながらそう言った。

 だからおれも、素知らぬ顔で「だろ?」とにっこり笑いかけた。


 少し油のついた口元がなんだか色っぽく見えて、このまま蒼人を押し倒したいだなんて、おれが思っているとは夢にも思わないだろう。


 蒼人の中では、おれはまだまだ無知で純粋なままの麻琴なんだから。


「チキン、美味しかったな。またバーレル買おうな!」


 湧き上がる欲望は心の奥に仕舞い込んで、おれは蒼人に向かって満面の笑みを見せた。



(終)

こちらのサイトには載せていないのですが、お友達のめーぷるさんからファンSSを頂きました。

そのお話の麻琴視点です。七夕のやり直しバーレルです。

ファンSSやいただいたイラストなどは、アルファポリスさんでご覧いただけます。

(一ノ瀬麻紀で登録しています)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ