カニがなければエビを食べればいい
ホシくんの説明をまとめよう。
まず、神様は天界の流行である人間の異世界トリップをしてみた。趣味で。俺を。
ハイ。
ここ注目するところだよー。突っ込みどころ満載だよー。
趣味ってなんだよ。神様ってそれなりに重みのあるポジションだろ? だったらその職務に責任持てよ。何で職権乱用して人の運命弄んでんだよ。
「っていうか俺の夕飯。5年ぶりのカニをどうしてくれんだよ !!!!」
「カニが食べれなきゃエビ派を食べればいいんだ」
うっせーなホシ!!
エビなんか最悪カッパ寿司行けば食えんだろ!!!
カニのが高級に決まってんだろ!!!
次、神様は恋愛ゲームが好きなので、俺が女の子を攻略すると時間が巻き戻る。
ここも注目。
これ、これだよ。これ、おかしくない!?!?
理不尽じゃね?
って事はあれだろ? ベルちゃんとはアレ以上仲良くなれないって事だろ?
例えなったとしても、また時間が巻き戻っちゃうんだろ!?!?
「神様の奴、バカにしてんだろ、俺も、あの女の子達の事も」
「しょうがないんだ。神様にとって、データでしか管理していない異世界人達は、ゲームやテレビの中身とおんなじなんだ」
ホシくんは申し訳無さそうに両腕?を縮める。
「神様も、結局は普通の子なんだ」
「普通の子って、まさか、ロリ神様!?!?」
これは思いもよらぬ展開がやってきたぞーーーー!
俺達の生活を管理する神様がロリとかマジ萌えだろ、萌え!
子供の悪戯じゃあしょうがないな。むしろ甘んじて受けよう。
現実なんて糞だ。バブとカニと龍が如くぐらいしか楽しみのない現実なんていくらでも投げ捨ててやろう。
宴じゃ、宴の用意だ!!
「30代の男性、独身なんだ」
ハイ、宴撤収!!
燃えるゴミと燃えないごみはちゃんと分けようね。
「神様は実家ぐらしなんだ、未だに母親に高圧的なんだ」
いいよそんな情報!
っていうか月曜日が倒せない30代の実家ぐらしで独身、公務員、そして趣味もなしとかいよいよダメな大人だな。
ホシくんの情報について話を戻そう。
えっと、なんだって?
騎士団員を全員攻略するまで帰れない?
一体何人いるんだかわかんないけどそんな途方もない数の女を相手にするとか、永遠にカニとお預けじゃねーかよ。
大体童貞の俺にそんな事できんのかよ。
カーチャン以外の女の子なんて、さっき触ったのが初めてなんだぞ。
会話したのだって、三ヶ月前にクラスのゴリラ腐女子と話したのが最後なんだかんな。
「とにかく、女の子をいっぱい攻略するんだ!」
「えー、無理だよ。そんな女の子達だって、俺となんか恋愛したくないだろー」
大体、俺のベルちゃんへの気持ちはどうなるんだよ。
ベルちゃんの俺への気持ちはもうどうにもならなくなったけど。
あー、あの手の柔らかさと鳩尾への衝撃、思い出すだけでも鬱になってきた。
ホシくんはくるくると回り出す。
「大丈夫なんだ、キヨシくん。君はこれから会う騎士団員には女の子だって思われてるんだ。話しかけるのはとっても簡単なんだ。きっと勝てるんだ」
「いや、女装男が女の子に話しかけたらますますキモがられるだろ」
俺はがっくりと肩を落とす。
「そんなことないんだ! キヨシくんは俳優の神なんとかなんとか之介に似てる優男だからとっても女装も似合ってるんだ。女の子なんだ」
それ大体正解言っちゃってるだろ。子役出身の声優やったりしてるあの子だろ? いつの間にか大人になっちゃった上に俺より年上だったけど。
「それにキヨシくんだって、さっき女装した自分を見て惚れ惚れしてたんだ」
げ、見てたのかよ。
あれ見られてたのめっちゃ恥ずかしいわ……。
新しい自分に目覚めちゃってるところ見られてたとかやばいわ、穴があったら入りたい。ここではないどこかに行きたい。異世界行きたい。ああ、ここ異世界だし!!
「神様も萌えてるんだ」
それ聞きたくなかった。
「とにかく容姿は問題ないんだ」
「でも声」
「この国の女の子達は皆男性を知らないからちょっとぐらい違ってても気づかないんだ」
かぶせ気味でグイグイ俺に迫るホシくん。
「勝てるんだ! 帰れるんだ!」
……こいつ、ポジティブだなぁ。ホシくんじゃなくてポジくんだよ、これじゃあ。
と、ここでピロリーンとこの場に似つかわしくない電子音が鳴る。
「あ、神様からメールなんだ」
ホシくんにはそういう機能もあるのか。なんか良くわからないが、納得せざるをえない。
「ベルはチョロインどころかチュートリアル系ヒロインな、だそうなんだ」
俺のベルちゃんのことチュートリアルって言うな!!!!!!!!
「おい神様、表出ろ!!!!」
「とにかく、キヨシくん。僕はペンダントになって君と一緒に居るからさみしくないんだ! 一緒に完全攻略を目指そうね、キヨシくん!」
こいつポジティブだけど重くね?
俺はその言葉を軽く聞き流し、ベッドに横になって布団に入らずに天井を見上げた。
ベルちゃん……。
そしてカニちゃん……。
「なあ、ホシくん」
「なになんだ」
「俺って、元の世界に帰ったら、じいさんになってたりとかすんの?」
「そんな事ないんだ。神様は時空や時間のプロだから、お風呂の瞬間に戻れるんだ」
俺は今、失ってしまった恋愛なんかよりも、未来に控えるカニの存在の輝かしさに、完全に心を奪われてしまった。
「切り替えていくんだ!」
これはホシくの言葉じゃない。俺が寝返り際に呟いたひとりごと。