少女を保護しました
「チェリー」を召喚してから3ヶ月、あれ以降も特に大きな動きはなく、只管毎日魚(時々クジラ)とったり、それを加工したり、近くの村や町で売りさばいて情報や現地通貨を手に入れる毎日。
ここファーストハーバーは内陸からは険しい崖に阻まれて侵入不可能なので、地元民がやってくる気配もない。もちろん、この地を治める領主(ルーズベルト子爵というらしい。なんだか嫌な名だ)が徴税に来ることもない。
本当、毎日が平和。
しかし、こうも代わり映えしないと、また隊員の士気に響きそうなので、偶にはということで実弾演習に同行することにした。
実弾演習は、定期的に行っている。乗員の練度向上が主な目的なので、僕が同行することは稀だが、偶には提督らしいこともしないとね。
沖合50海里まで来たところで、まずは艦首側に搭載している4インチ砲を発砲。
「撃て!」
コリンズ艦長の指揮の下で4インチ砲が、海に浮かべた標的目がけて発射された。
うん、小口径とはやはり大砲の発射は凄まじい迫力がある。ちなみに、発射した弾は1日経てば補充されるので、撃ち尽くしても問題ないけど、万が一ということもあるので、予備弾は残す。
主砲につづいて、後部の機関砲も発射する。
この「チェリー」の武装は前部に4インチ砲1門、艦橋を挟んだ後部にヴィッカーズ40ミリ単装砲(いわゆるポンポン砲だね)が1門に、ブローニングの12,7ミリ機関銃2挺に爆雷40個になっている。
ブローニング銃は、召喚したときはエリコンの20ミリ機銃だったのを、ファースト・ハーバーの工場で、陸上部隊用に召喚した武器と交換したものだ。
20ミリは威力は大きいけど、発射速度は12,7ミリの方が上だ。今のところ遭遇した敵はクラーケンくらいだし、この世界の艦船は帆船と聞くから、威力じゃなく手数を優先した。
砲ほどではないけど、機関銃の発射シーンも迫力がある。
で、最後に爆雷を4発だけ深度を変えて落とし、爆発を見届けたところで実弾演習はお終い。
「さてと、帰ろうか」
とコリンズ艇長に僕が言ったとき。
「提督に艇長、電探に反応があります。30度方向!距離は30キロから40キロ。反応は一つ。電探員の話では、おそらく木造の中型船舶ではないかとのことです」
この「チェリー」には対水上電探(この場合レーダーだね)が搭載されている。そのレーダーが反応を捉えたらしい。
「この海域に船?・・・艇長、確か航路とは外れる場所を選んだよね?」
「ええ、提督。沿岸航路から離れていますし、大きさからして漁船とも考えられません」
今日の演習は、わざと商業航路を外した海域を選んでやっている。そんな海域に2隻も入り込むか?
「遭難船とかかな?」
「どうします?」
助ける義務はないけど、見つけた以上見捨てるのもな・・・
「とりあえず、様子を見に行こう。助ける必要があるなら助ければ良いし、必要ならトンズラだ」
「アイ・サー。不明船に針路をとります」
そして、走ること2時間。
「おう」
「こいつは・・・」
見つけた船は・・・幽霊船だった。いやだって、船体も帆もボロボロだし、甲板上に人影ないし。完全に漂流しているし。浸水しているのか、気持ち右に傾いてるし。
綺麗な時は優美な白の帆船だったみたいだけど、ここまでくるとやっぱり幽霊船だ。
もしかしてあれか、風を掴めなくなって漂流して、水も食料も尽きて乗員全滅のパターンか?
「生存者がいるようには思えませんが」
「そうだね・・・とりあえず、調査班送って調べて見よう」
「了解であります」
腕っ節に自信があるトーマス砲術長(少尉)以下、下士官、兵合わせて6名を選抜し、武装させて、マスクと手袋という最低限の衛生対策をさせて送り出した。
もちろん、万が一に備えてこちらも戦闘配置として、いつでも砲や機銃を撃てるようにした。
2時間後、一同が帰ってきた。
トーマス少尉から報告を受ける。
「中もヒドイもんです。そこら中死体だらけでした。生存者はあの娘だけです。船の一番船尾側の、船室に女性に抱かれていました」
彼が持ち帰ったものは、船の航海日誌と宝石や貴金属類の入った小袋、そして弱り切った10歳いくかいかないかの女の子が1人。
もちろん、その子はただちに医務室に収容した。
「抱いていた女性は?」
「亡くなって、まだ日が浅い感じでしたね」
「ふむ・・・艦長、事故だと思う?」
「船体や帆はボロボロですが、戦闘によるものには見えないので、恐らく事故かと。航海日誌を読み込めばわかるかと・・・それよりもどうします?あの船曳航して持ち帰りますか?それとも、自沈処分しますか?」
「可哀想だけど、持ち帰っても仕方が無いし、遺体の処理なんかの問題もあるから、砲と機銃で自沈処分にしよう」
「了解です」
曳航する手間や、船体や死体の処理を考えると、持ち帰る余裕はない。船を墓標に、中の死体もろとも水葬に伏すことにした。
4インチ砲とブローニング機銃が放たれて、喫水線下に穴を開ける。
元々の浸水もあったのだろう。帆船は右に横転して転覆し、それから程なくして沈んでいった。
「敬礼!」
葬送のラッパが鳴り、僕たち全員敬礼をして見送った。
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