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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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星見祭二日目 3.半端なもの

 

 「なにあれ」

「待て。視覚の暴力で思考が追いつかない」

「他を当たりましょうか。たぶん幻覚です」


 三人が協力してドアを閉めたから凄い音を立ててしまったのは申し訳ない。


でも中から「あ、今の佐藤じゃねぇか?」とか

「待て待て、逃げるな!」とか。

「いや〜ん!なんかかわいい初な男の子見えたんだけど〜」とか聞こえるから。

少しホラーゲームの逃走する主人公の気持ちが分かってきてしまった。


ーーーあれ。鬼ごっこの時より怖いかもしれない。


りんは岸と澪とプルプル震えた。

背後から花の匂いが迫る。


「待て待て」

「りん様?お待ちになって?」

「「「「お待ちになって〜↗↗↗↗」」」」


「「「ひぎゃあ!!?」」」


もう声と香りだけで恐怖が背中を駆け上がる。

思わず逃げてしまっても仕方がないと思う。


「悪い。驚かせたな」

「いえいえ………。反射で逃げて申し訳ありません………」


りんは持ち前の「周りがパニックだと逆に冷静になる能力」でいち早く正気に戻った。


でも岸と澪とははぐれてしまった。

後で合流しよう。

ひとまずりんは無事なことを魔導端末でメッセージを送った。

返事はまだない。

二人はたぶん大丈夫だろう。


今りんは一人でオネェ様方に囲まれている。

対面にはピンクエプロンスレア団長とふわふわワンピースにモデルチェンジした制服を着るイーテディ団長だ。


かわいいとかわいいが合わさるとこうも暴力的になるのかと愕然とした。


「あの………この方々は?」 


りんはチラりと隣の肉の熱を感じるオネェ様方を見る。

りんには性差別的思想はないはずだった。

なんせジェンダーが昨今頻繁に叫ばれる日本出身だ。

りん自身も性別《無》として男と女の狭間にいる身だ。


でも何故彼女達を本能的に怖いと思ってしまったのか。


クオリティが壊滅的に荒いオネェ様方だったからだ。

生理的な違和感がずっとゾワゾワと感じてしまうのだ。


髭は青々と茂っている。

剃ってすらいない。

肌はガサガサ。なのに厚い化粧。

どぎつい口紅。

ムキムキの腕を曝け出す肩出しワンピース。

その下は勿論すね毛あり膝が割れている逞しいの三コンボ。


思わずプルプル震えてしまう美意識とクオリティなのだ。


何故髭を剃らないのか。

何故少し薄めのナチュラルメイクにしないのか。

せめてドレスはロングにするとか黒タイツを履くとか。

やりようがあるはずなのだ。


「ね………。りん様。彼等。

凄く似合わない化粧にひどい見た目をしているとは思わなくて?」


まさかそのまま同意していいものか分からない詰問まで受けている。

これはなんの拷問なんだろうか。


決めかねて無言で冷や汗タラタラのりんをチラりと見て優雅に紅茶を置いたイーテディはそっとため息をついた。



「りん様は優しいのね」


クスクスと部屋に笑い声が木霊する。


「控えめに化け物よね〜?私達」

「それな〜↗↗」


クスクスを超えてゲラ。

笑い声が怖い。

プルプル震えているとイーテディにそっと手を握られた。


「ごめんなさいね。意地悪な質問をしたわ。

貴女に見せたかったのよ。

私とスレアが守ってあげたかった《半端な思想》を抱えた彼等の存在を」


空気が変わった。

りんはキョトンとする。

スレア団長は目を背け、イーテディ団長も首を振る。

オネェ様方(すね毛付き)もハンカチで涙をふきだした。


りんは居住まいを正した。

凄く繊細な香りがしたからだ。



「彼等はね。

日頃の騎士である己を誇っているし男なの。

女になりたいわけでもないの。


でもね。

時にはかわいいものに囲まれ好きなメイクをして。

好きなフリフリの服を着る衝動に耐えきれなくなる時があるのよ。


男の自分も、女装したい自分も捨てられない。

見目が悪いとか手入れするのが面倒くさいとかそれすら考えることが苦痛なのよ。


好きなら超えなくてはならないしがらみが多すぎて、好きを楽しめない。


そんな………。迷子の子羊を守りたくて私とスレアはこの同好会を作ったのよ」


「子羊………」


目の前のムキムキの子羊を見つめた。

目がうるうるとしている。


りんは視界が開けたような気がした。

天啓を受けたのだ。

頭の上で鐘が鳴る。

それはりんも日頃から感じていたことだったから。


「わかります。

たまたま見目美しく生まれただけなのに。

女なのは自覚はありますけど。


「髪伸ばせば?」とか。「もっとケアしないともったいない」とか。

「その美しさの冒涜だ」とか。

「男の格好なんてかわいいのに勿体ない」とか。

「それじゃお嫁の貰い手ないよ?」とか。


ズボラで駄目な自分を責めてしまう気持ち。

わかります。

アドバイス欲しい時もあるんです。

ありがたい時もある。


実際着飾ると楽しいし。


でもそれを四六時中?毎日?寝る時まで?

求めてない瞬間にも美しくあらねばならない。

それを嫌がると《怠惰》とされる。嫌味に聞こえる。

美意識高い家族もいるので………」


ここで高笑いするリリスを思い浮かべた。

「あ………………」と皆が想像出来たらしい。

彼女がここの教室の光景を見たら大改造を始めそうである。


「美意識に強迫観念を抱き出していたことに気付きました………。私も染まっていたんですね。


そっか………。

好きは。辛いほど頑張らなくてもいいんだ………。

軽い好きも好きと言ってもいい。

極めてないからと馬鹿にするのもおかしい。


好きなら突き進めと強要しがちですが、それも周りが勝手に嵌める枠ですよね………」


「そうなの」


しばらく、沈黙が続いた。

すこし空気が緩んだ匂いがした。



「この口紅かわいいのにキスしたらバレるから淡い色にしたり」


うんうん。りんは頷く。

似合う色と実用的な色は違う。

美女も苦労するのだ。

なんでも似合うなどもはや幻想だ。


「奇抜な服を着たいのにスレアとの並びを意識しなきゃいけなかったり」


うんうん。

凄くわかる。

りんは逆にリリスが奇抜だから奇抜な格好を合わせるべきか?とか。 

寧ろ添え物か?とか。

悩み過ぎて白哉に投げたことがある。


「スレアが脱がせやすいかしらとーーーー」


「イーテ!!やめろ。赤裸々すぎる」

「あら………!ごめんなさい。もう隠さなくていいと思うとなんだかタガが………」

「イーテ………。密やかさも二人で楽しもう?」

「す〜君………」



必死に頷いていたら何やら甘い甘い匂いが立ち込めた。

急に始まる《甘い蜂蜜の熊さんと妖精さん劇場》をポカンと見守る。


「この二人。ここにいる時イチャイチャが加速するのよ。

お気をつけなさい」


「はあ………」


オネェ様方は慣れっこみたいだ。

荒々しい見た目に反してオネェ様方の茶器を扱う手つきは繊細だ。

剣ダコのある太い指で小さな繊細な茶器を扱う。

それだけでも相当な努力が必要だったはずだ。

イーテディの最後の悩みは違うベクトルな気がしたが黙っていた。


「ただね。TPOと他者を不快にさせない最低限は考えなきゃでしょう?

だからここで「ありのままでも誰も馬鹿にしない空間」を作ったの。


このどちらにもなりきれなくて選べない。

優柔不断で皆に表では繕っている。

だからって。

この中途半端な自分達の市民権を主張するほどの大義もない。勇気もない。

 

そんな《半端物》の私達の安息の地をね。


守りたかったの。

生徒会長になったら出来ると思ったのよ。

この………中途半端な自由を守る力が欲しかったの。


未来の生徒会長の貴女に見てほしかったのよ。

弱くとも。人権があるの。

弱肉強食の坩堝学園では異端よね。


エリート学園よ。

表では強く正しく美しくいなきゃでも。

裏でも完璧じゃなくてもいい。


息抜きにルールはないの。

家庭に息抜きがない場合もあるわ。

親の期待もあるでしょう?

周りの期待に応えるのも上に立つものの義務だわ。

この学園でも美しいものは目立つ義務があるようにね。


上に立つものの心持ちと遊び心と慈愛を忘れないでね。


友のために規定を変えた貴女なら大丈夫だと思うのだけど。


お節介な先輩の小話だと思って?」


「俺はピンクが大好きなんだ!!

お菓子作りも好きだ!!


でも我が家は生粋の騎士の家系。堅物一家だ。

屋敷も服も全てがいぶし銀か黒だ。


親を幻滅させるわけにもいかない。

こんなピンクのエプロンを着てお菓子を作るのが好きな俺を愛してくれる彼女を愛しているんだ!!」


「私も男勝りの跳ねっ返りのヒステリック。

剣術が好きなのにぶきっちょな私を愛してくれる貴方を愛してるわ」


りんは軽々しく返事が出来なかった。

でも。

幸せそうなイーテディとスレアと微笑み合いながら頷いた。


良かった。心からそう思えた。

りんは規定を崩した瞬間。

彼等の安住を脅かしてしまうことを一番危惧していた。

彼等は決して弱くない。

やはり尊敬すべき手本にすべき素晴らしい先輩方だった。

胸が熱くなる思いがした。


 話は深まった所で明日の後夜祭の式典の打ち合わせ。

正式な授与式などの細かい打ち合わせをする。

やはり二人は昨夜は寝ていないらしい。

それすら《報われる仕事は喜び》と語られ尊敬しかなかった。

大量の書類が入る小さなポーチも引き継がれた。

生徒会幹部に支給される《無限収納ポーチ》というらしい。


「四次元ポケット?!」

「?時間迄は遡れないはずよ?」


ここに岸が居ないことが悔やまれた。

現し世ジョークでクスリの笑いがない。

でも本来の目的も果たせて落ち着いて紅茶を楽しめるようになった。


 最初の嫌悪感すら超えてしまえば彼女達が少し大きめの子猫ちゃんに見えてきた。

所作だけは立派なお嬢様だった。

イーテディ団長も最低限は教育したらしい。

さすがに大股で脚が開いたオネェ様方はツライ。

目のやり場に困る。


でも気になることがあった。


「そこの青ざめた騎士の先輩方はなぜここに?」


女装の騎士はまあ。よい。

その間に挟まれた青ざめて震える、身体が小さめの騎士。

その騎士達がここにいる理由がわからなかったから。



「ん?

イーテディの剣術を醜いと嘲笑ったのだ。

賢明に励むものを嘲笑うのは騎士道精神から外れる。

真の醜さと共に過ごせばもう笑えまいとな。

その醜き怪物に蹂躙されても致し方ないと。


因みにここにいる怪物にこいつらは剣で勝ててない。

美しさと学力、魔術でもイーテディに劣るのに嘲笑った。


高みのやつが下を嘲笑うのと格が違う。


半端なやつは半端なものを嘲笑ってはいけないのだと。


わからせている。

教育だ」


スレア団長はさも当たり前のように焼き上がったクッキーにアイシングしながら答えた。


「教育………」


オネェ様方とのお茶会は罰ゲームである。

その自覚があることがさらにこの空間の狂いを際立たせていた。


「りん様!りん様はいずこ〜?!」 

「りん!!りん?!」


廊下から叫び声が近づいてきた。

連絡はなかったのに岸と澪が来たみたいだ。

何やら騒がしい。


「お迎えだな。またすぐ会うがな」

「ここにもまたいらしてね?生徒会業務の狭間にはいるのよ」

「「「「私達も隔週で出没しますわ〜」」」」


絵面はまだまだ強烈だけど。

ここは確かに守りたい安住の地だった。


「お邪魔しました!また来ます!!」


りんは岸と澪の叫び声のする廊下へ足を踏み出したのだ。

何かのバトンを託された気がして背中がうずうずした。


「出ました」

「見たんだよ」


岸と澪の青ざめた顔。

更なるワクワクが始まる予感がした。

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