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昼食と友達

 昼休み、私は友人の葵と売店でご飯を買う為に列に並んでいた。買い物かごにはてりやきサンド、ヨーグルト、お茶。いつもより少し量を減らして朝お腹いっぱい食べてしまったカレーの分を調整する。隣の葵のかごを見るとコッペパンと苺ミルクが入っていた。


「葵、その組み合わせ三日連続じゃん。よく飽きないね」

「え? あぁ、一昨日はツナで昨日はジャム、今日はタマゴ」

「結構色んな味あるんだね」


他にも色々あるよー。と葵は私にスマホの画面を見せる。ピーナッツ、焼きそば、ハムマヨ、クッキークリームなんてものまであるらしい。どんな味なんだか。


「なんかあれだね、某カップ焼きそばみたいな種類の多さだね」

「いやいや、そっちの方がヤバい。昔売ってたリンゴのやつとか味の想像つかなかったし」

「宇宙背景で真ん中にリンゴ描いてあったやつか。あれね、思ったよりは悪くなかったよ」

「嘘、あれ食べたの?」

「啜れるタイプのスイーツというか、不味くないけど、美味しいかと言われるとよくわかんない。そんな味」

「びっくりするほど伝わってこない」


 そこから私は過去に食べた、意外と美味しかったランキングを買った経緯から味の感想まで事細かに話し始めた。パクチー、にんにく、激辛、そば、etc…。葵は全く興味のない顔をしながらちょこちょこ反応してくれていた。優しい。いつの間にか列は進んでいたらしく、私達の番がくる。


「次の方どーぞー」

「お、あっという間だったな」

「マジ長かった」


◇◇◇◇◇


 教室に戻り、向かい合わせに座って食事をとる。葵はちっちゃい口でコッペパンを頬張って食べている。葵の頬が膨らむくらいなのにコッペパンは全然減ってない。ぱっちりしたつり目や小さくて整った顔も相まって、リスが一生懸命ご飯を食べてるみたいだ。可愛いね。私がニッコニコで葵を観察していると、葵の眉間がどんどん寄っていき、苺ミルクでコッペパンを飲み込んで口を開く。


「ねぇ、顔キモい。ジロジロ見ないで」

「ひどっ!私はただ葵がリスみたいで可愛いなって、愛でていただけなのに!」

「キモ……気持ち悪い」

「なんでひどい方に言い直した!?」


わざとらしくショックを受けてしょんぼりした私を見て、毒吐きリスは満足したのかまたコッペパンにかぶりつく。もきゅもきゅと音が聞こえてきそうだ。

 葵は可愛い。顔も可愛いし、身長もちっちゃくて可愛い。小動物を擬人化したような人間だ。何故私のようなどこのグループにも属さないぼっちと一緒にいるのか、何となく察しはついている。

 私は人間観察が好きだ。だから、私が好きなくだらない会話の他にも、誰と誰が仲がよいとか、あのグループは仲良さそうに見えて、二人きりにしてはいけない組み合わせがあるとか、誰は誰と同じ中学出身だとか。そういうのも盗み聞……勝手に耳に届く。そうやって手に入った情報の中には葵の情報ももちろんある。

 葵は中学まで女子グループカーストでも上の方に属していたらしい。当時は毒も吐かず、女子には可愛がられ、男子には何度か告白されたこともあるみたいだ。そうやってみんなに可愛い可愛いと言われ続け、疲れてしまったんだろう。高校に上がって早々に葵は私に寄ってきた。

 当時の私は、中学での噂が高校生活一週間たたない内に広まっており、変態、常に尻を狙っているなどひどい言われようだった。私はみんなの何気ない笑顔や会話を愛しているだけだというのに。そんな私に葵は話しかけ、友達になろうよと言ってきた。多分人除けとして使いたかっただけだろうが、私としても高校も三年間ぼっちは寂しかったのでありがたかった。

 そうして私と友達になった葵には、男子はおろか、女子も近寄ってこなかった。私達はいつも一緒だし、葵の可愛らしい一挙手一投足は全て私の眼球に刻み込まれている。そしてそれを私は葵に伝え……あれ?


「そういえば葵って、私に可愛いとか言われるのはそんな嫌がらないよね」

「なんか変な顔して考えてるなと思ったら……トモちゃんだから嫌じゃないってだけ」

「葵っっ。一生私が守るね」

「本当に気持ち悪いですね、口を開かないでくれませんか清水さん」

「今いい感じの距離感だったじゃん!何で遠くなんの!?」


うわーん、と泣き真似をすると、あろう事かこいつ鼻で笑いやがった。覚えてろよ。


◆◆◆◆◆


 目の前のデカブツは嘘泣きを始めた。見るに耐えない。私は嘘泣きを無視してパンを口に運ぶ。うん、美味しい。タマゴも結構いい感じ。明日は焼きそばにしようかな。

 デカブツが何か反応が欲しそうに嘘泣きのあいまあいまでこちらをチラッと見てくるけど、なんかウザいのでそれも無視する。そのまま無視しているとデカブツの耳が少し赤くなり、嘘泣きの声もさっきより小さくなる。恥ずかしくなるくらいなら最初からやらなきゃいいのに。


「フッ」


あまりに哀れで鼻で笑っちゃった。デカブツが不服そうにこっちを睨むけど、私が睨み返すと途端に目をそらしてブツブツと何か言っている。あまりにも弱い。

 トモちゃん……清水巴は、私を心の底から可愛いと言って賛美する変態だ。確かに私は有象無象に比べれば可愛いけど、一番可愛いってわけじゃない。でも多分、トモちゃんの中では私が一番可愛いんだと思う。だから私はトモちゃんの側を離れない。浮気しないように。


 私は中学の頃、一緒に行動してる人たちが苦手だった。みんな私の事を可愛いって言ってくれたけど、それは自分も可愛いって言われたくて言ってるだけなのが見え透いてたから。見返りなく私を可愛いと言う人はいなかった。その点男子はまだ良かった。私の事を本当に可愛いと思って寄ってきて、告白してきたから。でも、全員タイプじゃなかったし、なんならその内一人は私をキープして同じグループの他の子狙おうとしてたカスだった。

 そんな毎日に辟易していた頃、トモちゃんに出会った。中学は学校も違ったし、電車で一度会っただけだから、トモちゃんは覚えてないだろうけど。

 私が車窓から夕日を眺めて黄昏てた時、通路を挟んで反対側の席からブツブツ声が聞こえた。私が横目でその方向を見ると、女子にしては体のおっきい人、トモちゃんが私をじっと見ていた。目が合った気がしてドキッとしたけど、逆光で私の顔はちゃんと見えてなかったみたい。


「……うへ、真っ赤な夕焼けに美少女。へへ……映える」


 当時からトモちゃんは変態だった。はっきり言って第一印象は最悪。鳥肌が凄くて、他の席に逃げようかと思ってた。でも電車は混んでるわけでもなかったし、降りる駅もまだ先だった。下手に移動すれば何か良くない目に合うような気がして怖くて立てなかった。

 その後もトモちゃんの無自覚の呟きは続く。私は最初こそ怖かったものの、段々『こいつ私の事好き過ぎだろ』と思うくらい褒めてるのが聞こえてきた。私が校則に引っかからない範囲でこだわってオシャレしてる所を全部褒めてくれた。

 私の緊張も少しずつほどけて、チラチラとトモちゃんを観察する余裕も出てきた。そこでようやく、トモちゃんが近くの中学校の生徒だという事がわかった。他の学校にまで私の可愛さが届いてるのか、有名になったな……とか自惚れたことを考えながら、降りる駅まで私はトモちゃんから漏れ出てる褒め言葉を聞き続けた。

 高校に上がって、寄ってくる男子と、薄っぺらい言葉で褒めてくる女子を避けていたら、私は一人になってた。流石に一人は寂しいなと思ってたら、トモちゃんを見つけた。でも本当に電車で会った本人か確証が持てなくて、ちょうど言い寄って来てた男子に聞いた。


「ねぇ、あれ何?」

「へ?……あぁ、あれは清水ってやつ。あいつヤバい奴だから近寄らない方がいいよ。人の事見て気持ち悪く笑うんだよ、マジでこえぇから」


間違いなく本人だった。というか私以外にもあれやってるんだ。そっか。


「じゃあ、私にも近寄らない方がいいね」

「え、どゆこと?」


困惑してる男子を無視して、私はトモちゃんの所へ行き、話しかけた。目の前に立ち、可愛い私が来て緊張し始めてるトモちゃんに声をかける。


「ねぇ、私可愛い?」

「はへぇ?!……あ、はい。とっても」

「そっか、じゃあ友達になってよ」

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