48 エピローグ(※第二部に続きます)
幽霊達は、どこにでもいる。
何十年と使った痕跡のない薄暗いこの地下牢にも、白くて丸い姿が二つ浮かんでいた。どこにでも入り込めるはずなのに、壁をすり抜けようとした幽霊がバチッと弾かれて飛んでいく。
一瞬だけ、壁に星のマークが浮かび、続いて読めない文字が浮かんで消えた。
口髭を生やした幽霊が、男性の声で話し始める。
『ここからも出られないか……。いったい外では、どれくらいの時間が経ったのだろう?』
美しいネックレスをつけた幽霊が、女性の声で返事をした。
『あなた、諦めずに別の場所を調べましょう』
『そうだな』
そのとき、鉄格子の向こうから重い扉を上けるような音がした。地下に誰かが降りてきたようだ。
『ま、また来たわ』
ネックレスをつけている幽霊が怯えるように体を震わせた。足音が近づいてくるので、髭の幽霊は、ネックレスをつけた幽霊を守るように背後に隠す。
鉄格子の向こう側に、燃えるような真っ赤な髪の青年が見えた。隙間からこちらを覗き込んだあと、乱暴に鉄格子を蹴りつける。
小さく悲鳴を上げた幽霊を、髭の幽霊がしっかりと抱きしめた。
「はぁ!? こいつら、まだ闇落ちしてないのかよ! しぶとすぎんだろうが!」
また、鉄格子が蹴られて、青年の怒声が地下牢に響く。
「さっさと諦めろ! 幽霊になったおまえたちは、普通の人間には見えねぇんだからな! 助けなんてぜってぇこねぇんだぞ!」
激しい舌打ちのあと、赤髪の青年の足跡が遠ざかっていく。重い扉が開く音がして、すぐにバンッと乱暴に閉められた。
『行ったか……』
まだ震えている幽霊姿の妻を、夫の幽霊は労わるように撫でた。
『もう大丈夫だよ』
妻の目には、涙が浮かんでいる。
『あなた……。子ども達は、どうしているのかしら?』
『あの子達なら大丈夫さ。きっとうまくやってくれているよ。マックスは頼りになるし、レイも剣術の才能が素晴らしいからな』
『そうね……。そうよね』
溢れる涙を小さな手でぬぐってあげながら、夫は妻に微笑みかける。
『早く帰ろう。じゃないと、娘の社交界デビューを見逃がしてしまうからな』
『そうだわ! あの子のために特注したドレスも、まだ着たところをみていないのに! こんなところで泣いている場合じゃないわ!』
すっかり元気になった妻は、またすり抜けられる場所を探し始めた。
『絶対に諦めるもんですか!』
『そうだ! ここから抜け出せさえすれば、私達の勝ちだ!』
幽霊達は、顔を見合わせでコクリと頷き合う。
『だって、あの子……。私達の娘、ロアンナには、幽霊が見えるのだから』
つづく




