第35話 家族達の涙
ガタン
「シルフィア!?」
国王も立ち上がり駆け寄る。ローザ様とライラ様が顔を見合わせ『私達にお任せ下さい』
と言った。
「カレン!」
「ルージュ!」
白薔薇と紅薔薇の花精霊が出てくる。
「もし本当に、この方が青薔薇様ならば、助けぬ訳にはいくまい」
「ええ、何があっても……!」
「行って……下さいますわね」
『はい、主様』
2人の花精霊は、音もなく消えていく……花弁を残して。
花精霊が消えると、気配も消えた。何時も、どこにいても、その存在を感じられたのに……シルフィアと名乗った少女の中に入った途端、精霊の気配も消えたのだ。
「カレン……」
「ローザ、信じよう、私達の精霊を」
「……はい、ライラ様」
シルフィアの顔色は相も変わらず悪かったが、2人の精霊を迎えた事により一命は取り留めた。夢の中で……
「カレン、ルージュ、ありがとう」
『シア様、主様の願い、叶えます』
執務室では、シルフィアをナタリーに任せ話し合いが行われていた。シルフィアによって齎された情報は、彼らにとって僥倖で今後の指針に影響するものだった。
セレスティナの事、帝国、裏切り、アシャラ(シルフィア)の事、考えねばならん事は山ほどある。だが、アシャラがシルフィアだと言うことは希望の光になった。
俺にとって……
(…………?俺にとって?)
ふと、頭をよぎった何かを思い出そうとしたが、ダメだった。
今は、彼女が与えてくれた情報を元に今後の方針を決めていくべきだろう。
「……ミュゼット公爵、戦争はなるべく避けたい。力をお借り出来ないか?」
先程から黙ったままの公爵に、問いかける。
静かに上げる彼の顔は、今までに見たことがない程に険しいものだった。
抑えることも出来ない怒りや悲しみが、苦しみ、悔しさが全身から滲み出ていた。
「公爵様?」
「父上?」
この場にいた他の者も戸惑いの表情を浮かべている。
落ち着いて、彼女の話を振り返れば、怒りが湧いてくるのは当然だろう。俺だって、そうなのだから。ここにいる皆にとっても、同じ気持ちだろう。公爵ほどでは無いにしろ、顔が強ばっている者ばかりだ。
ガァン!
公爵が机に拳を叩き付けた、ヒビが入った事には気にもとめず怒りのこもった声ではなしだした。
「申し訳ない。我が国が行った非道な行いに腹が立ち……テーブルは、後々弁償させて頂きます」
「構わん。公爵殿の気持ちが分からないほど、愚かではないぞ」
「ありがとうございます。我が娘が、シルフィアが、何故、奴隷などと……」
その瞳から、雫が零れ落ちる。
「……つっ、申し訳……ない」
改めて、彼女の話を思い返すと涙が止まらなくなる。想いは、皆同じだろう。ルーカスも、ヴィムクもグレッドも瞳に光る雫が見えるから。そう言う俺も……
この先の話し合いは、後日改めて行う事になった。
気丈に振舞っていたローザ様、ライラ様も、涙を流し話など出来る状態では無かったためだ。落ち着きたくも、止めどなく溢れる涙に為す術なく、みな部屋に戻った。
ベッドに横になり、涙を拭う。
(明日……彼女に……シルフィア……に会いに……)
睡魔に抗えず、考えながら眠りに落ちていった。
(……お…れは、彼女を…あ…)
そこで意識は、睡魔の闇に呑まれていった。