第26話 狼と陛下1
宰相様は、何も言わない。
グレッド様も、何も言わない。
狼は諦めたように俯き、ボンと音がして人型になった。
狼がいた場所には…
褐色の肌をした、精悍な顔つきをした男性が1人立っていた。銀色の髪を後ろで1つに縛り、ターバンを巻いた体格のいい、この国の王様ファルークだ。
陛下と呼ばれた男性が近づいてくる。
私は、一歩後ずさる。隣に立つグレッド様から手を離し、一歩、また1歩下がる。
「つ、っ」
最後は、回れ右をして全力で走った。貴族として恥ずべき行動だが、今は奴隷だから良しとしよう。
後ろから陛下も追いかけてくる。
(ど、どうしましょう!まさか、狼が陛下だなんて……確かに、特殊な能力を持つと聞いてましたが…!)
「_____!___!」
声が追いかけてくる。
「待ってくれ!アシャラ!」
屈強な男性と、鍛えていたとはいえ女性の、ましてや奴隷で体力が落ちている彼女とでは脚力に違いがありすぎた。
直ぐに追いつかれ腕を捕まれた。そのまま引き寄せられ抱き締められる。
ドクドクと、心臓が煩いぐらいに騒いでる。
(な、何で……)
軽く息を吐き、呼吸を整え、陛下は話し出す。
「待ってくれ、アシャラ、頼む」
「……へいか……」
陛下の後ろには、ルーカス様とグレッド様が追いつき控えている。2人とも心配そうな顔をしているものの近づく事なく、陛下の動向を気にしていた。
「……」
陛下は黙り込む。
私は恥ずかしくなり、陛下の胸の中で身動ぎ離れようとした。しかし、彼の抱きしめる手は、離れるどころか更に強く抱き竦められた。
「……ルーカス!」
陛下は急に宰相様を呼んだ。
後ろに控えていたルーカス様が、急ぎ足で駆けてくる。
「な、何ですか?」
「俺は、彼女に話がある!あっちはお前に任せるから頼んだぞ!」
ルーカス様は一瞬呆気に取られ、眼鏡を押し上げ了承の構えを取った。
「畏まりました。では御前失礼します」
一礼し去っていくルーカス様を、陛下の胸の中で見送る。
(いつまで、この姿勢なの……!)
ドキドキする心を落ち着けられずに、真っ赤に染まった頬を俯き隠す。
「グレッド!」
「はっ!」
敬礼する軍団長様。
「俺達はガゼボで話すから、お前は少し離れた所で待機してろ!」
「了解しました!」
ルーカス様とグレッド様に指示を出すと、陛下は屈み私の背中と膝裏に手を回すと一瞬で抱き上げた。
突然の事で動揺した私は、足をバタつかせ暴れた。
「アシャラ、大人しくしてろ、まだ熱が下がりきってないだろう」
「……つっ」
(だって……)
ただでさえ、恥ずかしくて死にそうなのに、抱き上げられるなんて……
ガゼボに着くまでの短い時間が、とても長く感じられた。
ガゼボに着くと、陛下は私を静かに下ろし話し始めた。
念の為、アシャラはシルフィアです。