第19話 兄と王
「お嬢さん、私の顔に何かついてますか?」
「あ、あの、宰相様がどうして…」
ルーカス様が、ポンと手を叩き「ああ」と頷く。ここは、伯爵が用意した奴隷を閉じ込め拷問するための小屋。
国の宰相がいる所ではないのだ。
「こちらのローゼスは、私と繋がりがあるのです。貴方が倒れた、と連絡を受け医者を手配したのですよ」
「ローゼス様が……」
ローゼス様に視線を移すと、静かに頷くのが見えた。
「さっ、アシャラ様、お薬ですよ」
トレイに乗せられた薬に、見覚えがある。
昔、精霊達が作ってくれた……
「この薬……せいれ」
(ううん、たとえそうだとして、言ってどうするの?今の私に精霊は…)
「どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもないわ」
緩く首を振り、薬を受け取る。とても、とても、苦そうだ。
「…………」
「苦いですが、お飲みになって下さい」
「わ、分かってるわ」
ゴクッ、唾を飲み込み覚悟を決め、一気に飲み干す。瞬間、口の中に広がる、独特な苦味に吐き出しそうになる。
悶絶してる時、ルーカス様がローゼス様に話しかける。
「私たちは用事が出来ましたので、王宮に戻りますが、何かあれば連絡下さい」
「ガァフッ!」
『必ずだぞ!』
そう言って、狼さんと一緒に、ルーカス様は小屋を出ていった。
「ローゼス様」
「なんでございましょうか?」
「あの銀狼様は、王宮住まいなのですか?」
「ふふ、いいえ、違いますよ。でも、今は内緒です」
含みを持たせ言うローゼス様。
小屋を出たファルークは、狼から人型に戻った。無言のまま屋敷を出て、王宮に向かう途中で足を止め、屋敷の方を振り返る。
「彼女は、貴族の出だな」
「ええ、セレスティナの貴族でしょうね。それも、高位かと思われます」
はぁと溜息をつき、再び歩き出す。
(嫌な予感がするな)
王宮に戻った2人は、客人を迎える準備に入った。
馬に乗った青年が2人、王都ファイサルに入った。
「アル、着いたな」
「はい、兄上。これで手がかりが掴めると良いのですが」
シルフィアは、まだ知らない。
この日、王宮に訪れたのが大切な家族だという事を。レンフォードと、アルベルトが妹を探しに砂漠の国まで来た事を。
「感謝します、砂漠の国ソルファレナの王ファルーク陛下」
「我らを迎え入れて下さった事、感謝の念に堪えません」
金の髪をした青年が2人、謁見の間で王を前にし口上を述べる。
「構わん」
「シルフィアは、この国にいる事が確定しているのか?」
国王の威厳を放ち、2人の青年に呼びかける。
「残念ながら、確定はありません。ですが、魔の森に向かった事は確実の為、帝国に行くよりはこの国かと思いました」
「俺達は、身分を明かしません。ですので、この国での捜索許可を頂けませんか!」
「「お願いします」」
ファルークは、考える仕草をした後
「分かっている。お前達が自由に動けるよう、既に手配しているから」
隣にいるルーカスに目配せし、ルーカスは、それに応える。
「レンフォード様、アルベルト様、取り敢えず部屋に案内させますので、旅の疲れを取って下さい」
「ありがとうございます」
「待て」
謁見の間を出ようとする2人を呼び止め、ファルークは隣国の様子を聞く。
…が、あまり良くはないようだ。2人の顔が曇った。
「恐らくですが…私達の父、ジェラルドも国外追放になるかと」
(なん……だと)
「ロズの称号を持った、残り2人も遠くない未来に…」
流石に空いた口が閉じなくなった。
(あの国は、馬鹿なのか)
「分かった、下がって良い。また後日詳しく聞かせてくれ」
今度こそ、謁見室を出た2人を見送り、ファルークはルーカスに問いかけた。
「ルーカス、セレスティナは大丈夫なのか?シルフィアだけでなく、ロズ・ロゼリア、ミュゼット公爵まで追い出すとは、正気の沙汰とは思えん」
「襲って下さい、と言ってるようなもんだぞ」
謁見室で話をして、執務室に向かう。