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「夜は冷えるな」
ランプを片手に警備をしていた兵士は、広い庭を巡回しています。パーティーが屋敷で行われているため、いつもより人員が多く配置されているのです。
「まだ寒いからな。これが終わったら1杯やろう」
「そうだな」
巡回中とはいえ、その目的は迷った貴族が居た時の対処となっていたため警戒はそこまでしていませんでした。それ故に茂みの向こうにある何かに気づくのが遅れたのです。
「おい、あそこなにか居ないか?」
「ん?おいそこに誰かいるのか」
ランプを向けた先には何がいました。人とも動物とも見える影です。2人の呼び掛けに返答はなく、不審に思った兵士は警戒をしつつ近ずいて行ったのです。
「おい!来てくれ、人が倒れている!」
茂みの奥で見たのは、身ぐるみを剥がれた男でした。胸が上下していることから息はあると判断した二人は、一人は男を運び一人は報告に向かいました。
「おい、倒れた男は」
「隊長、こちらです」
運ばれた男は、体温が低くなっており布をかけられていました。
「話は聞けそうなのか」
「途切れ途切れではありますが聞けます」
「分かった。私はクオーク侯爵家の警備隊長をしている、オルディアだ。話を聞きたい、まずどこの誰で何があった」
「ヴェルン……ティース子爵の……御者です」
オルディアを含め部屋にいた兵士は驚きと同時に警戒を深めました。
「入口の警備を呼んでこい、御者の確認をしていたやつだ」
「はいっ!」
「何があった詳しく話してほしい」
「奥様と……旦那様を下ろして……馬車で待っていたら……後ろから」
「分かった。人を集めろ、これが本当ならすぐにでも動かなければならん。念の為奥様達に報告を」
「はっ!」
兵士から方向を受けた侍女は直ぐにセレスティーナの元へと急ぎました。
「それは本当ですの?」
「身元の確認は終わってませんが、可能性は高いと警備隊長から報告が」
「分かりました。もう少し話していたいところですが私はこれで」
「ええ、クオーク夫人もお忙しいでしょうからまた後で」
「パーティーの途中ですがセレスティーナ夫人がお疲れのため一旦下がらせていただきます。
皆様はどうかパーティーをお楽しみください」
「ジャック、すいません後をお願いします」
「こっちは任せて、セレスはセレスの事をやって」
セレスティーナは、一旦奥の部屋に下がり警備隊長に話を聞いていました。
「御者の身元は分かりましたの?」
「ヴェルンティース家の御者で間違いないようです」
「早く人を出さなくては、レティアに何かあったら私はどうやって」
「既に集めています、しかしながら我々だけではなかなか」
「大丈夫ですわ。私も出ます」
部屋にいたもの達は驚きます。警備隊長も執事も侍女もです。それはセレスティーナが無謀なことをしようとしているからではありません。
セレスティーナは王女宮侍女頭。王城に務める全ての者には少なからずの戦闘技術が求られます。それは王女宮の侍女であっても同じです。侍女頭ともなれば騎士団の中でも副隊長と同等の戦闘技術を求められます。
つまり皆セレスティーナが戦闘できることを知り、実行に移す力があるから驚いているのです
「お嬢様!?しかしながら」
ここに居るものを代表し、執事が止めようとしますが。セレスティーナは制止の声を聞かず。
「私以外にももう一人連れていきます。リーア様を呼んでください、彼女なら戦力になりますわ」
お祝いに来ていた、リーアをも巻き込んでしまいました。ここまで来れば皆止めることは無駄だと悟り、侍女はドレスから戦闘しやすい服に着替える準備をすすめていました。
「分かりました。馬は裏門に集めております」
「お嬢様どうかご無理をなさらぬよう」
「わかってますわ」
裏門に集まったのは、警備とは別に配置されていたクオーク家の私兵10名とリーア、セレスティーナの十二名でした。
私兵の装備は所々に鉄板の仕込まれた革鎧にショートソード。リーアは武器がロングソードという点以外は私兵と同じく、セレスティーナも武器がランスであること以外は変わりません。
「セレス聞くがどこからランスを持ってきたんだ?」
「元から家に置いてありますわ」
「そうか、見るからに特注品なのは分かるが重くないのか?」
セレスティーナが持つランスは片手で持つには大きすぎるものでした。男性でも片手で持てるのは苦労する大きさです。それをセレスティーナは軽々と片手で扱っています。
「魔術式を組み込んであるので、持っている私には実際よりも軽く扱えるんですの」
「そんな魔術式が存在したのか、私でも知らなかったぞ」
「レティアとアルビーネ教授の合作ですもの。論文も存在しないので知らなくて当然です」
「レティアとアルビーネ教授か。たしかに二人ならばおかしくは無いが」
「準備は出来ましたね?」
『は!』
「さほど距離は離れては居ません。急ぎますよ!」
レティアを載せた馬車は人知れず外壁の外へ向かうため、そして気づかれないためにあまり速度を出してはいません。
もし偽の御者が気づかれても構わないと速度を上げたいたのなら、セレスティーナ達は間に合わなかったでしょう。馬車が外壁を超えてしまっては探しようがないのですから
誤字脱字は下の方からお願いします。
次回は話の流れからわかるようにレティアが襲われてしまいます。
伏線は貼ったような記憶もあるのですが、無い時は手直しをしながら追加するかもしれません。
とはいえ修正作業はなかなか進んでないですけどね、パソコンがあれば……




