アマーダン
出発から約7時間後、2回ほど休憩をはさみつつ、すっかりと目が覚めた大河内らは、アマーダンハウスへと到着した。
正門は、肩くらいまでの乱雑に積まれた石垣で、その向こうはひたすら続いている草原のようなところだった。
「着きました」
門番が立つことができる小さな小屋があるが、中には誰もいない。
ジェームズがまず降りて、それから大河内と従者が降りた。
馬車はそのままどこかへと歩いていった。
「入りましょう。あらかじめ連絡していますので、大丈夫です」
勝手に入っているジェームズを心配そうな顔をしていたからだろう。
大河内へとジェームズが言った。
「分かりました」
それを聞いて、大河内は荷物を持ちつつ、従者とともにアマーダンハウスの敷地へと足を踏み入れた。
木々は好き放題にうねっており、生垣からは縦横無尽に枝が伸びている。
あきらかに手入れがなされていない。
「……やはり、人がいないのでしょうか」
「そうです、あなた方にですから正直に話しましょう」
ジェームズは、ここにきて、ようやく大河内らを信用したらしく、正門から5分ほどかかる建物までの歩く間に、いろいろと説明をしてくれる。
「鉄道を敷設するためには、莫大な現金が必要でした。それまで周辺含めて広大な土地を持っていましたが、一つ、また一つと切り売りしてそして、とうとうここだけになってしまいました。しかし、それでもさらに足りず、ここも売ることに」
「前の説明の通り、といったところですか」
大河内が話す。
「おそらくですが、今回商談がまとまらない場合には、土地どころか、石材の一つ一つまで売払うことになるでしょう。生活費や、爵位に付随する諸々も必要となるので」
「なるほど、子爵殿の状況はよく分かりました。ともあれば、足元を見ることも、大切でしょう」
できるだけ安く、ということも、必要な交渉だ。
相手側が弱っているのであれば、それに付けこむということも、一つの手である。
だが、大河内がそれを認めるかどうかは、全く別の問題だ。
建物では、執事らしき服装の人が、メイド長とともに待っていた。
「お待ちしておりました、ジェームズ・スチュワート様、大河内家重様、剛東穣様」
深々と最敬礼のお辞儀で出迎えてくれ、建物へと案内してくれる。
「こちらへとどうぞ、主人がお待ちしております」
「どうも」
といいつつ、来ている上着をメイド長へと渡していく。
ジェームズ、大河内、そして従者の順番でいくと、建物の扉は閉められた。
2階へと上がり、そのまままるで書庫のようなところで少し待つこととなった。
「すごい量の本ですね……」
大河内がその背表紙の一つ一つを眺めている。
聖書の解説本や、宗教に関するものの他にも、たくさんの古い物語や、土地の歴史の本が並んでいるのが分かる。
「これらは全て、家の歴史ですから」
声をかけられて、そちらを向く。
「お待たせいたしました、当主であられます、第28代グッディ子爵閣下です」
執事が、初老の男性をそう紹介した。