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トンこま!  作者: 根谷司
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12/16

伏線ぜーんぶ回収ですっ

 結構な心力を使ってしまいましたが、過去に戻る事は出来ました。正確に言うと過去へ『私』という人格を送っただけなので、私が元居た時間軸で、今も私が活動しているのですが……もう私には関係の無いことです。


 場所は、私が住んでいるアパートの近くでした。時間は夕方。しかし日にちまでは解りません。そう遠くない公園に日付が解る時計の備わった公園があるので、一旦そこへ向かいました。私が居た時から調度三年前の三月二十日。夕方の四時半。確かこの日は……私がこの街へ来た日!


 しかも時間は、殆どジャストで駅から出たくらい! なんて絶妙なタイミングに来てしまったのでしょう! 準備する時間すらありません!


 過去の私はもうすぐで新居へ到着します。そして新居の近くで生誕の残滓と遭遇してしまう。本当はあの駅員と出会う事からリセットしたかったのですが、もう今更でしょう。きっと今頃過去の私の捜索を始めたでしょうし、こうなったら、過去の私が生誕の残滓と遭遇しないように時間を稼ぎつつ、生誕の残滓を滅さなければなりません。


 私は走って、駅から家へのルートに割り込みました。時間的に、まだここは通っていないはずです。しかしそこで気付きました。


 私は、過去の私が想魔と遭遇しないようにしなければなりません。つまり、変態変人奇人の類から遠ざけなければならないのです。それなのに私が『私』と遭遇してしまったら……タイムパラドックスどころの話ではありません。


 とはいえ今から何かを準備する余裕など無く、程なくして過去の私はここを通るでしょう。自分の姿を変える魔法を使うには膨大な心力を要します。そんな無駄遣いはしたくありません。なら、今から調達出来る何かを極小の魔法にてかき集め、私が私であることを悟られないように変装しないといけないのです。


 時間が無い。なら、なりふりを構っている余裕もありません!


 私は、そこらじゅうを飛んでいる鳩達に目を付けました。


(あれで姿を隠そう!)


 私は鳩が私に集るように魔法を使い、群がってきた鳩で姿を隠しました。はっきり言って、臭かったです。


 調度そのタイミングで、背後から声と足音が聞えました。


 来た。


 そう直感します。


 私はゆっくり振り向いて確認しました。


 鳩が邪魔でよく見えませんが、多分あの人影は、過去の私だと思います。私が今やるべきこと。それは、駅から家へ向かうこのルートから、過去の私を遠ざける事。なら、過去の私にこのルートから外れてもらう必要があります!


「……足りない」


 変態や変人ではなく、ホラーの一種として、この体験をしていただきましょう。私自身怖いのは苦手ですが、変態との遭遇よりは遥かにマシです。


 ジリ、と一歩、私は『私』に近付きます。


 過去の私もなかなかの順応性です。じり、っと一歩身を引きました。


「……鳩が、足りないいいいいぃぃぃっぃぃぃ!」


 なるだけ低くした声で叫んで、私は『私』を追いかけました。


 脱兎が如く逃げ出す過去の『私』。想魔と戦い続けて身に付けた体力がある私は鳩を身に纏いながらも、過去の私と同等の速さで走る事が出来ました。


 しかしふと、とあるミスに気付きます。


 ――これじゃ、私が変態のようではありませんか。


 鳩に固執していたら、過去の『私』は私を変態だと勘違いしてしまいます。そうならないために、私は鳩に固執しているわけではありませんよアピールをすることに。


「小動物ぅぅぅぅぅううううううう!」


 これで私は鳩が好きなのではなく、小動物が好きなのです、と、伝わったでしょう。小動物好きが高じて小動物を身に纏う。その程度なら、変態にはならないはずです。


 過去の『私』を追いかける事数分。駅から自宅へのルートとは異なる場所への誘導も出来ましたし、時間的にそろそろ、次の段階へと移行しなければなりません。


(潮時、ですね……)


 さて、どうやってこの状況に区切りを付けようか、と考えていたら、足元の注意が散漫になったせいでしょう、小石に躓いてしまいました。


「ふぎゃっ!」


 思わず上がる悲鳴。前のめりになって転び行く感覚がスローモーションで流れます。転倒の衝撃を恐れて、身に纏っていた鳩達が私から離れようとしているのが解りました。


 このままでは不味い。そう本能が告げています。


 このまま転んで鳩が私から離れていってしまえば、過去の『私』は私を発見してしまうでしょう。それだけは避けなければなりません。


(仕方ありませんっ!)


 私は魔法を発動させ、テレポートしました。姿を見られるよりは遥かにマシでしょう。自分の家の前まで飛んでから鳩達も一緒にテレポートさせてしまった事に気付きましたが、そんなのは些細な事です。大した問題でも無いなら気にせず、次の段階へと進みましょう。


 その場で待ち構える事数十秒。調度良いタイミングで、遥か昔と同じ声が聞えてきました。


「貴女様が、この枯れ果てた大地に舞い降りた合法ロリ様で間違いないでしょうか」


「死にさらせぇぇぇぇえええええええ!」


「な、なにをするのですか合ほ――やめ、いきなり殴らないで! 痛い! ちょっと待ってなにそれメリケンサック!?」


 違いますよ。私の拳に着いているのはメリケンサックなんていう物騒なものではなく、昔、某通販で買った痴漢悪漢悪寒撃退用防犯グッズという名称の心強いお供ですよ? 想魔と戦う私が絶対の信頼を寄せているパートナーです。


「さて、まず一匹、始末完了です」


 いやはやなんと清清しい事でしょう。過去のトラウマを打ち破る、というのはこれほどまでに気持ち良いものなのですね。


 さて、憂さ晴らし兼心力補充も完了したことですし、作戦の本丸へ移行しますか。私は自宅(この時は未だ新居なのですが、私もこの家の鍵を持っているので入れる)にお邪魔し、水を組んできて――気を失っている『生誕の残滓』ナンバー2さんに思いっきりぶっかけてあげました。


「ぶほっ! な、何事!?」


 目を覚ますナンバー2さん。


 私は拳に宿した心強いパートナーを彼に見せつけながら、にこりと微笑みます。


「生誕の残滓さんでしたっけ? お仲間さんと連絡が取れると思うんですよね。ちょっと携帯電話を貸して欲しいのと、仲間の連絡先を吐いてくれます?」


「ば、ばかな事を言わないで頂きたい……我々生誕の残滓は誇り高きチームなのだ。そうほいほいと仲間の情報を売るわけが――」


「私の写真を撮ってあげましょうか?」


「一枚につき一人の情報という条件でいかがだろうか。――我々生誕の残滓は誇り高きグループなのだ」


 前半のコメントと後半のコメントのギャップが相変わらず変態さんです。


 とりあえず約束を守るために、まずは変態さんから携帯電話を奪って十枚程自分で撮影したのを見せてあげたら、変態さんは歓喜しながら全員分の名前を教えてくれました。電話帳を確認したら、確かに全員名前があります。


「それで、生誕の残滓のリーダーさんはどなたですか?」


「くっ……情報を漏洩してしまうとは一生の不覚……だが、我々が最も信頼し、我々を引っ張ってきてくれたリーダーの情報だけは守ってみせ――」


「私とツーショット」


「――我々を引っ張ってきてくれた角田枡褌つのだますみつ氏の情報だけは守ってみせる!」


 情報漏洩が出会い系サイト並ですね。噂でしか知りませんが。


 とりあえず必要な情報は全て手に入ったため、あいうえお順に電話をかけて行きました。電話に出た人には全て同じ文句を言います。


『駅の近くで貴方を待っています。恥ずかしいので隠れちゃうと思うのですが、どうか見つけ出して下さい』


 出来るだけ可愛い声を作って差し上げたら、電話の向こうの皆様は揃って発狂。これで無事、彼らを一箇所に集める事が出来るでしょう。


 ちなみにリーダーたる角田なんちゃら氏には『私達が出会った場所の近くで待っています。隠れているとは思うのですが、探して下さい。あと、恥ずかしいので私の名前は絶対に誰にも言わないで下さい。他の記号で私だと解るように呼んで下さい』と、ちょっと運命ちっくに囁いてみました。多分、これで彼らは引っかかる。まさに一網打尽。変態ざまぁ。


 なんだか愉しくなってにやけていたら、なにやら物欲しそうな顔でこっちを見ている情報提供者兼変態さんが居たので、とりあえず横に並んでツーショット写真を撮ってあげました。そしたら「もう死んでも悔いは無い!」と喜んでくれたので、嬉しくなった私は当人の目の前で写真フォルダにあった全てのデータを削除してあげました。いや、だってほら、撮影は許可しても保存して良いとは言ってませんし。


 ついでに彼の携帯の電話帳から仲間のアドレス及び電話番号を全て抹消して、


「これから貴方の仲間が駅前に集合するのですが、貴方は行かなくて良いのですか? 私、彼らと待ち合わせをしたので、今からそちらに向かおうと思うのですが」


「すぐに向かおう」


 私に殴られた事などなんでもないかのように立ち上がった彼は、言葉の通りすぐに、駅へ向かって駆け出しました。


 私はその後ろ姿が遠のくのを確認してから、借りたままだった彼の携帯電話を再度利用します。


「――もしもし、警察ですか?」


 これで彼らは、私が手を下すまでもなく一網打尽です。


 どうでも良いのですがさっきの変態さん、心力を奪ったはずなのに、どうして未だに変態行動を取るのでしょうか。謎ではありますが、私にはもう関係無い事でしょう。






 その後私は、『私』を守るために『私』の監視を続けていました。勿論どこかに家を借りるお金など持ってきていなかったので野宿です。汚れた体は銭湯で流しました。銭湯に行ける程度のお金は持ってきていたので。あと、どうしても野宿できない日はネットカフェに入り浸りました。あそこ、中々に居心地が良いんですよ。もしかしたら自分の家より居心地が良いかもしれません。


 監視対象である『私』は平和な日々を送り、私が居た時間軸では友達になるのに時間が掛かった友香さんともすぐに友達になっていました。といっても、友香さんは私の居た時間軸でも頻繁に声を掛けてきてくれていたのですが、如何せん私は魔法少女であり想魔と戦う身。周りを警戒し過ぎて、誰かと打ち解けるのに時間を要してしまっていたのですが……。


 と、私の話はどうでも良いのです。監視対象たる『私』の話をしましょう。


 監視対象の『私』は某日、駅前のデパートへ、友香さんと共に入っていきました。私はその後を着けていたのですが、エスカレーターに乗った彼女達を追って私もエレベーターに乗る、なんて馬鹿な事はしません。彼女達に見つからないため、私は階段を使って『私』を追いました。


 それが失敗でした。


 私はそのデパートに何度か来た事があったのですが、本屋以外に用が無かったこともあり、本屋がある五階より下になにがあるのか知らなかったのです。階段を使って初めて気付いた事。それは……三階にある鞄のお店に、とても可愛いリュックサックがあった、という事です。淡い青のラインが入って少しかっこよくなりながら、基調となっているピンクの可愛らしさを削らない絶妙なデザイン。


 そうか、これが運命か。


 私はその時初めて、運命という言葉を信じました。


 吸い寄せられるようにしてそのリュックサックを見てみるとなんと、シーズンダウンでとってもお買い得価格になっているではありませんか。


「はぁぁぁぁあああ…………」


 見ているだけでも癒される。これを実際に背負ったらどれだけ良い気分になれるのでしょうか。ああ、想像するだけでも涎が……。


 ふむ、ネットカフェ五泊分のお値段。これを買うためなら五日程度の野宿は苦じゃない。でもでも、私は魔力が尽きたら消えなければならない身。このリュックサックを買ったところで使えて数週間。一ヶ月は使えないでしょう。


 でもでも……。


「お客様? よろしければ試しに背負ってみますか?」


 ふと女の店員さんに声を掛けられたのですが、それがまるで天使の囁きのようでした。


「良いんですか!?」


「はい、是非」


 こう言われたら背負うしかありません。買うか買わないかは背負ってから決めれば良いのです。実際に背負ってその軽さを実感しつつ、店員さんに案内された鏡で見た目を確認します。


 ……あぁ、良い……。


「このバックパック、可愛いですよね」


 と店員さんは言います。


「バックパック? これはリュックサックでは?」


 バックパックという言葉に聞き覚えがある気がするのですが、はて、どこで聞いたのでしたっけ。


「まぁリュックサックでも間違いは無いのですが」店員さんは苦笑を浮かべました「バックパック、と言ったほうが、大人っぽい響きになりますよ? バックパックもリュックサックも、大雑把に見ると同じなので」


 成る程成る程。バックパックのほうが大人なのですね。理解しました。これからはバックパックと……でも、リュックサックって呼んだほうが可愛いですし……。


 呼び名なんてどうでも良いのです! 三年も使ってぼろぼろになってしまったリュックサックはもう限界です。あれをくれた父には申し訳ないですが、ここは変え時ということで!


「これ、下さい!」


「ありがとうございます」


 というわけでお会計を済ませた私は、ふと、どうしてこのデパートのこの階で足を止めたのかを考えました。何か大事なことを忘れているような気がするのですが……確か私は『私』を追って…………。


「お客様!? どうしたのですか急に倒れて! 気分が優れないのですか!?」


 ……どうして、私はここに居るんでしょうね。


 私を心配してくれた店員さんに平気ですよと伝えて、急いで上の階へ向かいました。しかし、五階への入り口にたどり着いた所で、自分のタイミングの悪さを呪いました。その入り口はなんと、ピンクと黒のモザイクによって覆われていたのです。


 ……これ、魔法の結界じゃん……。


 過去の『私』ってば、今頃なにかに巻き込まれてる事間違い無しですよね。これもう私ヲワタでは?


 今すぐ助けに行かなければ取り返しの着かない事にもなりかねません。しかし今魔法を使ってしまうのは勿体無い気もします。如何せん過去にはこんな事なかったので、中がどうなっているのかは予想だに出来ません。


 最小の魔法で現状を見るために、私は魔法のひとつ『ソナー』を発動させました。ソナーは言葉の通りソナーでして、付近にある心力を察知する魔法です。一定以上に大きな心力があったら想魔。色の違う心力を感じたら魔法少女。と言った具合で。


 そして発動したソナーによりますと……。


 この中に居る想魔は一匹。そして、この結界に近付いてくる魔法少女が一人。


 成る程成る程。つまり今、黒槻さんがこの場に急行しているわけですね。


 ……なら安心です。任せましょう。


 私は先程購入したバックパックを吟味するため、行き着けのネットカフェへ向かいました。






 結界の中で起きた事を黒槻さんに任せてしまったとはいえ、想魔と同じように黒槻さんの動向にも気を着けなければなりません。彼は魔法少女なのですから当然です。それに『私』への手紙も残してしまいましたしね。黒槻蓮には近付くな、と。当時はまだ純情だった『私』のことですから、差出人不明のあんな手紙でもしっかりと守ってくれることでしょう。


 というわけで、翌日からは黒槻蓮の動向にも気を配りました。そんなある日の事です。二人の動向を調べる日々は思った以上に過酷で、体にはすぐに限界が来てしまいました。疲れた体を癒すため銭湯へ行った私は思いました。銭湯って実は、この乾ききった変態だらけの世界で唯一と言えるオアシスなのでは、と。きっとそうです。そうに違いありません。


 今頃『私』のほうは学校でしょうし、学校には変な想魔は居ないはずなので放置してしまっても大丈夫でしょう。ゆったりゆっくり極楽の時間を満喫していたら、どうやら満喫し過ぎたようです。気付いたら夕方になっていました。


「あ、やばっ」


 もうそろそろ『私』が下校を始める時間です。もしかしたらもう下校中かもしれません。


 私は急いで銭湯から出ました。勿論、番頭さんとの挨拶も欠かしません。


 至急『私』を見つけるためにソナーを使うと、『私』の反応の近くに友香さんらしき反応と、想魔の反応、そしてそこに接近する私ではない誰か――おそらく黒槻蓮であろう――魔法少女の反応がありました。


「やっばっ!」


 これはピンチです。まずいです。とにかく状況を順番に解消するため、私はまず黒槻さんの所へ向かいました。


 そして視認した彼の横顔。


 さらに気付かれないように接近。


「またあいつか……」と、黒槻さんが呟きます。「この短期間で二回も想魔に遭遇するなんて普通では有り得ん。誰かが想魔を呼び寄せてるのか?」


 今現在、想魔に襲われているであろう『私』の元へ向かいながら、彼はそう仮定していました。そして導き出された結論。


「……なんにせよ、あいつを魔法少女にしたほうが色々と捗――」


「――さぁぁせるかぁぁぁぁああああああ!」


「なっ!?」


 彼の頭にドロップキーーック! グッバイゴーイング空の彼方!


 黒い魔法少女のコスプレをした変態が頭のおかしい事をほざいてやがりましたので処理しておきました。まぁ私ってば有能。


 そういうわけで過去の『私』を助けに行った私ですが…………。


 ――三角木馬という単語を連呼する変態に巻き込まれているようです。


「……きも……」


 そりゃまぁ背筋も凍りますよ。というかやる気が失せます。ああいうドMを攻撃すると逆に喜ぶ場合が多いんですよね。一軒家の上から眺めていたら、変態の奇行に堪えかねたらしい『私』は泣き出していました。まぁ、普通泣きますよね。


「…………仕方ありません」


 ああいう変態は、感情を込めずに無心で殴打してあげたほうが効果的です。敵意であろうと好意であろうとなんらかの感情が込められた暴行の全てを喜ぶ傾向にありますからね。でも、無関心な暴力は有効だったりします。


「やりますか」


 私は屋上から飛び降り――


「どっせぇぇぇぇえい!」


 ――おっと、感情を込めてしまいました。失敗失敗。


 というわけでそんな具合で、私は想魔の駆除を終えた後、『私』と友香さんから記憶を消しました。

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