プロローグ
―プロローグ―
姉に勧められて入った会社で出逢ったのは、明るくかわいい女の子だった。
「願ノ幸です」
祈りのすべてを名前に詰めたようなその女の子――願ノ幸は、同じ経理課に配属された同期で。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
隣の席に配置されて、正直なところ、こんなかわいい子の隣なんてラッキーとすら思っていた。
映画の割引券が毎月もらえるという福利厚生が決定打になって入ったこの会社。姉には少し忙しいと聞いていたが、好きな映画が今よりも観れるようになるならと二つ返事で承諾したのが半年前。そこでこんなかわいい子にまで逢えるとは。これは毎日会社に来るのが楽しみになる。つくづく姉には感謝だと心の中で浮かれていれば、ふと目に留まるのはその子のバッグ。そこについている、これまたおしゃれなマスコット。さらに見てみると毛糸で編まれているものらしく、よくまぁこんな細かく毛糸でできるものだとその職人のことは知らないが考えて見ていたら。
「? あの」
視線がわかったらしく、その子が不思議そうに首をかしげる。それに、素直に言った。
「おしゃれなマスコットだと思って」
そう、言えば。
「本当っ?」
ぱっと、嬉しそうに笑う。それに今度はこちらが不思議になった。そんな俺に、彼女が紡ぐ。
「これ、私が作ったの」
「へ」
「そう言ってもらえてうれしい」
ありがとう、と敬語も抜けて話す彼女の笑顔に。
あぁこれは、とすぐにわかった。
これはもう、ひとめぼれだと。
そりゃあんなかわいい子が嬉しそうに笑ったらときめくだろう。
けれど焦ってはいけない、と。その日の夜、映画を観つつぼんやりとあの子のことを考える。
まだどんな子かもわからない。それに気持ちだけでいっては失敗する。
子供のころから好きな子に無自覚で意地悪してしまうタイプだったらしく、よく好きな子を泣かせていたくらいだ。姉にこっぴどく叱られて治ったが。
だから気持ちだけではいかない。そして価値観というのも大事だからそこをきちんと見極めていく。
そうして相手を知る。
入社当日に決意したのは、役職でもなんでもなく、そんな恋愛事だった。




