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無能王女と最強勇者伯~無能王女は無能が無能らしく生きていける平和な世界が欲しい~  作者: たけすぃ


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私が貴方にできること3

 *


 ショウ君に、いきなりメフティア王女と呼ばれて、驚くよりもまず最初に身構えた自分が悲しくなる。

 無能でも王女は王女なので、王女と呼ばれるのが普通のはずなのに。


 しかもショウ君、命令しろとまで言ってくる。

 私の無能極まる脳みそでも分かる、これは勇者伯家としての話だ。


 つまり私がショウ君に命令すれば、王家は勇者伯家にまた借金が増える。

 ショウ君は逆に借りを返したいと言っていたので、矛盾するように思えるが。ショウ君も滅茶苦茶なようで、こういう所はちゃんと貴族だった、という事だろう。


 家と個人の貸し借りを別個の物だと考えているのだろう。

 私は思わず反射的に断ってしまう。


 この件を独断でどうにかしようとしているのは、私個人の我儘だ。そんな事で王家に借金を増やさせるわけにはいかない。

 特に、長兄か次兄に相談すれば、この件は王家のみで穏便に解決できるのだ。


 そうしたくないのは、私の我儘だ。自分とは違い優秀で、真に自由であるケミカ先輩が、どこかの派閥に縛られるような事になって欲しくない。

 そう思う無能の我儘だ。


 つまりこの件で私はショウ君に命令できない。こう見えて王族だけど、貴族とはそういう物だ。一方的な主従なぞあり得ない。

 そんな事はショウ君とて承知だろうに、嬉しそうに命令しろと煽ってくる。


 割と酷い扱いのような気がするが、頭痛がする程度で済んでいるのは、ショウ君に悪意の欠片も感じられないからだろう。

 しかしショウ君が煽ってくるように、彼に命令しなければこの件を私一人、もしくは私の派閥を使って解決しなければならない。


 そして現実的にそれは不可能だ。

 なにせ無能な私と、無能を担ぎ上げて自分の栄華を築こうとする連中のタッグである。


 担いでる神輿が何かを言った所で聞き流されるのがオチだ。

 進退窮まった私は、駄目で元々というよりも、殆ど破れかぶれで彼に〝お願い〟した。


 兄や両親に知られたら、それだけでお叱りを受けるような行為。ついでに言えば派閥の人間に知られたら離反を招きかねない暴挙だ。

 それぐらいに王族のお願いは重い。


 良いのか私は? こんな事でお願いなどと口にして。

 しかし一度出てしまった言葉は元に戻せず。そして私はなぜかショウ君の凄い良い笑顔を向けられた。


「え? お願いですよ?」


 自分で言っておいてなんだが、凄まじく間抜けな言葉が出た。


「だから良いんじゃないか」


 ショウ君が奇怪な事を言う。

 なんだコイツ妖怪か? 妖怪勇者か?


 いやしかし、妖怪が人間には分からない理由で喜んでいるのなら、それを逃す手は無能にはない。

 無能が人外と取引して碌な目にあうおとぎ話はないが、おとぎ話の殆どは一度は成功するのだ。


 妖怪と取引する事を決めた私は、できるだけ弱々しい無害な無能を装ってみる。


「その……よろしくお願いします」


 両手を胸の前で組み、上目遣いでショウ君を見上げる。

 声は可憐さをできるだけ絞りだす。ちなみにこの私の顔はかなり男性に対して効果がある。兄上いわく、チワワを見ているような気分になるそうだ。


 実の妹を犬と呼ぶな、兄上。


「え? 気持ち悪い」


 スン……と、ショウ君の上機嫌が消えるのを見て、私は即座にチワワモードを解除した。


「気持ち悪いってなんですか!?」


 そして、それはそれとして私は抗議した。

 お前この妖怪勇者、うら若き乙女を捕まえて気持ち悪いは宣戦布告と同義だぞ?


 こんなもん戦争である。例え相手が次代の勇者であっても関係ない。


「あースマンスマン」


 なぜか私が怒りだすと、再び嬉しそうになるショウ君。何なんだこの男は?

 やっぱりコイツ妖怪とか幽鬼の類だ、きっと。


「そうだよな、女の子に気持ち悪いは駄目だよな」


 ショウ君の中で私は一応は女の子扱いらしい。なので一旦は許す。

 乙女のプライドは夜の静けさと同じくらい繊細なのだ。


「いやあ良いなぁ、こういうやりとり。凄く〝らしい〟」


「いったい何〝らしい〟のか理解できませんが」


 ショウ君がニヤニヤしながら腕を組んで頷いている。

 ショウ君の表情がコロコロ変わるせいで、まったく内心が読めない。


 無能にとって相手の表情を読むのは死活問題なので、割と自信があったのだがショウ君相手にはまったく通用しない。

 男の子の気持ちわかんない。


 そんな思いが自分の口を滑らせる。


「その……本当にいいのですか?」


 自分でお願いをしておいてのこの発言。両親に知られたら勘当されてもおかしくない。


「おう、まかせとけ」


 そんな私の気持ちを知ってか知らずかショウ君は、たとえ知っていても変わらないだろうと思わせる笑顔でそう言った。

 私がそれに安堵し、そしてその事を後悔する事になるのは――ほんの先の事だ。


 具体的には明日の事だ。速いよ!


フラグ回収職人の朝は早い。

この道十六年のベテランフラグ回収職人メフティアさんは、今日も未回収のフラグを見つけては摘み取っていく。

「フラグはね、鮮度が大事なんですよ。建ったらすぐに回収しないと忘れられて腐ってしまうんです」

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