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王の鈴(旧)  作者: うず
4章 王の鈴
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33

王子エルンストの王太子の地位を剥奪する。そして、マティアス侯爵令嬢との婚約破棄も許す。

国王の言葉はその夜のうちに貴族社会を駆け巡った。

結局、中断されてしまった卒業パーティーに参加した卒業生達は自身らの学術院生活を惜しむ間もなく、実家に戻るなり手紙を書き起こすなりし、いち早く実家に一報をもたらした。

貴族内の上下関係など関係はない。

下位貴族、平民であってとしても、これは激震となる。

彼らに連なるより上位、それより上位の貴族の動向が自身らの立ち位置を決めるからだ。

会場内で一番落ち着いていたのはこの国の議会の議長を務めるリッカ公爵であり、宰相のマティアス侯爵であった。

彼らはこの事態をまったく想定していなかったわけではない。

いや、想定したありとあらゆる可能性の中で、最も醜いものが現実となったのだが、さりとて、為された決定はある程度予想されていたものだった。

が、この決定が最善であるかどうかはまだ分からない。

彼らがエルンストに求めたのはさして大それたものではなかった。アーデルベルトほどに豪胆な国王になることまでを要求したわけではない。そこそこに無難であれば、アーデルベルトの威光の元、臣下は十分に補佐出来ると考えていた。

名君の子が凡庸であることなどよくあることだった。

ただ、暗愚でされなければよかった。

エルンストに王宮内での謹慎を申し付け踵を返したアーデルベルトの背を追うリッカ公爵ギュンターは、更に後ろを歩くフェルディナンドにちらりと視線を向け、どうするつもりかと問う。

残された選択肢は二つである。

1つは、おそらく多くの卒業生が書き送っただろう、王弟ジークヴェルトが王太弟して立つこと。

もう1つは、アーデルベルトが第2王子をもうけ、その子を王とすること。

アーデルベルトは後者の可能性を捨てていない。だからこそシェイラに継妃になるよう告げた。

確かに、国民の人気の高いアーデルベルトの子が次代の王になった方がうまくいく。だからこそ5年前、ギュンターはフェルディナンドの意見を否定しなかった。

王はエルンストでよかった。国王エルンストに、王妃としてシェイラ、または誰もが認める他の令嬢がつき、2人の子がその先の王となればリッカとしても異存はなかったのだ。

英雄王の次代は難しい。

リッカの血筋もこの時ばかりは不利だった。

外祖父であるギュンターは、自身のかわいい孫に、歩まずといい険しい道を歩ませたくなかった。

そんな口惜しさを含んだギュンターに視線に、フェルディナンドは肩をすくめる。

私はシェイラを我が娘を継妃にするつもりはありませんよ。

そう、告げる。

ギュンターはほんの少しだが眉を跳ねさせ、言葉の意図を正しく理解する。

エルンストの暴挙が始まりとは言え、賽は投げられた。

皆が等しく覚悟を決めなければならない。

「儂は孫の幸せを願っておるのだがね」

「偶然ですね、私も娘の幸せは願っていますよ、これでも」

フェルディナンドは苦笑する。

エルンストがまともであれば、彼が選んだがアリアでなければ、婚約を白紙とすることもできた。王妃としてふさわしい女性でさえあれば、身分など、後から付ければよかったことだ。

エルンストが王となり、シェイラではない娘が王妃となる。

ジークヴァルトは臣下に降り、シェイラは公爵夫人となる。

そんな、ギュンターやフェルディナンド、多くの者が望んだ最善はこの日、絶たれた。

絶たれてしまったのだ。



その夜、フェルディナンドは屋敷には戻らなかった。

ジークヴァルトとヴィリーに支えられ屋敷へと戻ったシェイラは、その夜から3日ほど高熱に意識を失っていた。

そして3日目の朝、ようやくすっきりとした頭で目覚めた彼女は、婚約破棄の顛末を知ることになる。

エルンストは王子の身分を保つものの廃嫡。

代わって先王の第4王子だったジークヴァルトが王太弟となる。

順当、いや、王家に残された唯一の選択だった。

2週間前継妃にと言われたが、それが言葉のままで終わったのだとほっと息をつく。

あの時アーデルベルトは本気だった。

誰が止めてくれたのだろうか。

いずれにせよ無謀だった。シェイラが今から継妃となり順当に王子を生めたとしても、円滑な王位継承はできなかっただろう。

本気ではないとまでは言えないが、それよりも意地のようなものだったかもしれないと振り返る。

安堵をする。

けれど、安堵だけではない。

シェイラはエルンストから自由になった。しかしながら、王太弟となったジークヴァルトは遠い。

寧ろ、距離は更に遠くなったのかもしれない。

ゆるゆると息を吐く。

ベッドの側のチェストには、ジークヴァルトの守り石が置かれている。それが未だ、自身の手にあることに安堵し、手放したくないと首を振る。

シェイラがジークヴァルトの婚約者になるのは、彼が臣下に降りることを前提としていた。

エルンストが王になることを前提としていた。

シェイラは王となるジークヴァルトの妃になることは難しい。

決して望んでいなかったエルンストの廃嫡が導いた帰結に、途方に暮れた。

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