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王の鈴(旧)  作者: うず
4章 王の鈴
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26

ひどいのですと少女はすがりついてきた。

豊かなピンクブロンドの巻き毛を撫でてやりながら、エルンストは憤慨する。けれどそれは表情には見せない。やさしい顔で、表情で、とろけるような視線を少女に向けながら、頭の中でどうしてやろうかと策を巡らせる。

まさか、この学術院内のみならず外、しかも大衆の在る場所で少女の父を一方的に侮辱した。

なんたる無礼だとエルンストは怒り狂っていた。

嘆く少女を片腕で支えながら、傍に控えるリカルドを睨むと、本当に許せないことだとサリエ伯爵子爵はうなずく。

卒業式の10日ほど前のことだった。



卒業式当日、下級生として卒業式を迎えたシェイラは、ベージュのドレス姿で注文していた花の見回りをしていた。

下級生なので卒業式の方の参加はない。参加はその後の卒業パーティーの方だけなのだが、ひたすら気が重い。

シェイラは下級生という立場を保ちつつも、その分、上質な生地を用いたドレスを着ている。装飾は、いつもつけている片割れの耳飾り、守り石だけだ。本来であれば、婚約者であるエルンストから何か、贈り物がなされるべき状況だったが、彼はそれを怠った。

この日、1年先に卒業するエルンストは卒業パーティーで成人として認められることになる。

成人し、正式に王太子として仕事を始めることになる彼は、卒業パーティーでまずシェイラにダンスを申し込み、シェイラはそれを了承する。そのシェイラの胸元には、エルンストから贈られた首飾りが彩られ、同じく貴族社会にデビューする卒業生一同は理解する。

婚約は果たされ、次代の王にマティアス、そしてリッカが従ったのだと示される。

そのために、下級生にしてはやや目立つドレス姿でいるのだが、昨夜までにエルンストからの贈り物はなかった。卒業パーティーまではもう少し時間が残っているものの、おそらく彼は何も寄越しはしないだろう。

単に忘れたのか、それとも恥をかかせたいとでもおもったのだろうか。

アリア=カラフェにはこともあろうにティトゥーリアの青を贈ったというのにと2週間前を思い出す。

あの日、エルンストはアリアこそが妃だと言った。

その言葉を裏付けるように、マルグリッドがあの首飾りを用意した。

別段、言葉の通りとなっても構わない。寧ろ、清々する。

とは思うのだが、気は晴れない。

卒業パーテイーの場で、エルンストがアリアの手を取りダンスを踊り、この娘こそが婚約者だと明快に示し、恥をかかされれること自体は特に構わないのだ。

それよりも後に起こることが怖かった。

王がどう出るか、それが怖かった。



卒業式を終えた卒業生達が、続々と卒業パーティー会場へと入ってくる。

シェイラはソフィア達生徒会メンバーとともに彼らを迎える。

卒業生の入場は問題なく進み、来賓である王室の皆様が到着するまでには十分に間に合うとほっと胸を撫で下ろす。

王室の入場までのしばらくの間は卒業生達と運営側である5年生との歓談の場となる。

シェイラも、生徒会メンバーとして積極的に挨拶に向かうのだが、おめでとうございますと頭を下げる度、微妙な視線に迎えられる。ある者は言葉を濁し、またある者はあり得ないとはっきりと言うのだが、シェイラもまた、微妙な笑みを浮かべるしかない。

会場の一角に、エルンストがいた。

もちろんアリアとともに、だ。

2人の側にはリカルドがいて、その近くにはノーウェンとカイルもいる。

アリアもまたベージュのドレスを着ていた。2週間前にも見た見事なサファイアの首飾りをし、同じの石から削り出したのだろう、耳飾りまでつけている。

信じられないと、いつの間にやら側に来ていたソフィアがシェイラに耳打ちをした。対して、対の耳飾りまであったのかとシェイラは人ごとのように眺めてしまう。

決定的だと思った。

王家とマティアスとの婚約は破棄される。

思わず目を閉じたシェイラに去来したのは安堵だったように思う。

が、まさか、エルンストがあのような暴挙に及ぶとは想像だにしていなかったのだ。



「皆、この卒業の場にあって聞いて欲しいことがある!」



突如エルンストが叫んだのは、王室の到着まであと15分ほどだと、入り口のスタッフが伝えてきて、時計を確認した頃だった。

王太子の声に思わず皆の注目が集まる。

「私は共に成人し、この国を共に背負ってくれる皆に対し、シェイラ=マティアスとの婚約破棄を宣言する」

代わって我が妃となるのは彼女だと、エルンストはアリアの背を抱く。アリアは胸をはり、胸元のティトゥーリアの青を強調する。満面の笑みを浮かべながら、周囲を見渡し、シェイラの前で視線を止める。

「これは、王妃様の許可を得てのことである」

「殿下!」

自身の婚約破棄の叫びにはさして反応を見せなかったものの、エルンストの口から王妃マルグリッドの存在が出てきたことに、思わずシェイラは声を上げた。

まずい、と咄嗟に思った。

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