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令嬢の交渉

「は?」


 アレーナの突然の申し出に一瞬意味を理解できなかった。パーティを組む? 俺と?


「……そいつぁどういう意味だ」


 意図が読み取れず聞き返す。


「みたところ、オウダ様はお一人のご様子。誰ともパーティを組んでいらっしゃらないですよね? 私も一人ですから、ここは組むのが一番いいかと思いまして」


 だんだん飲み込めてきた。ようするに、お互い一人だと効率が悪いし魔物などに殺される可能性も低くなるからだ。


「なるほど。確かにあんたの言うとおりだ。パーティを組めばそれだけ勝率が上がる。理に適っているな」

「でしたら……!」

「断る」

「え?」

「断る、といったのだ」

「え? え? なぜですか?」

「理由はいくつかある。まず、メリットがない。お前と組んで、俺にどんな得がある? 戦闘についてはこいつ、ジャバウォックよりも強いといえるか?」


 今は飼い犬のように寝そべっているが、いざというときは破壊の化身のごとき暴力性を見せる。


「そ、それは……。確かにキングウルフと比べたら私はまだまだ弱いですが……」

「だろ? それにパーティをつくるということは食い扶持が増えるということだ。手柄の総取りだとしたら別だが、人数で等分すればその分報酬が減る。そしてこれはお前のレベル次第だが、俺が受けられる依頼のランクが下がるだろ? お前、レベルは?」

「に、24です……」

「金ランクの依頼を受けられるか?」

「む、無理です……」

「だろ? 俺とパーティを組みたかったら、それ相応のメリットを用意しろ。内容如何によっては交渉を認めなくもない」


 王田は自らの力で這い上がってきた人間だ。他人の傘下に入ることはないがその逆はある。元の世界では力量を中心に受け入れるかどうかを図ってきたが、この世界ではもう少し要素が増える。確実に利益と認められることでなければ、自分にとって害になりかねない。この世界ではまさに命のやり取りなのだから。


「諦めろ、とは言わない。だが、うまく交渉できる材料がないのならやめておくんだな」

「ぐぬぬ……」


 アレーナは悔しそうにうなっている。当然だろう。パーティで仲間が強いかどうかは死活問題なのだ。だが、頼ってばかりでもいられない。自分にもその力量に合った力が望まれるのだ。


 王田に、暗にやめておけと言われたように感じたアレーナは俯いてしまった。馬車の中はしばらく沈黙に支配されたがやがて何かを決めたように顔を上げた。


「……私が、使えるということを証明すればいいんですね?」

「ああ、そうだ」

「でしたら、私には3つの交渉材料があります」

「ほう」

「一つは住居の提供です。私が宿代を肩代わりします。オウダ様は冒険者ですので、特定の住居を持っていませんね?」

「よくわかったな。そうだ、ない」

「冒険者はそういう人が多いですから」


 この世界に来て二日目。最初の夜は運よく寝床を手にできたが、このまま帰っても報酬がない以上寝床はない。ジャバウォックがいるから野宿の考えもあるが、やはりベッドで寝たい。その点、この提案は悪くなかった。


「もう一つは、魔法を教えることです。私は今まで時間の許す限り魔法の勉強をしてきました。そんじょそこらの魔法士よりも強いという自負があります。オウダ様は魔法をお持ちで?」

「いいや」

「でしたらなおさら、オウダ様にも魔法を教えて差し上げます。それに、魔法士の後援があればより戦いやすくなります」

「そうか、火力支援か」


 確かに王田はスキルこそあれど魔法は持っていない。もし魔法が使えるなら、単純な戦闘力の増強につながるだろう。以前の世界にはなかった戦い方ができるかもしれない。


「そして最後に、組合で受けられる依頼に一人では受けられないものがあります。私とパーティを組めば、そういった依頼を受けられるようになります。その手の依頼は報酬が良かったり特典が付いていたりと普通の依頼よりグレードが高いんです。これだけではパーティを組むに値しないでしょうが、先ほどの二つと合わせればとても良い条件だと思うんです」

「なるほど」


 これでアレーナの提示した条件はすべて聞いた。今度はこちらが質問する番だ。


「あんたの話は分かった。そのうえで質問するが、まず住居についてはどのくらいの期間与えてくれるんだ?」

「そうですね、もろもろの費用を考えると一カ月程度、でしょうか。出てくるときに持ってきた額は大したほどではありませんから」


 なるほど。一カ月となるとその頃にはこの世界にもうだいぶ慣れて来る頃だろう。自分でも稼げる程度には。それがわかったところで次の質問だ。


「あんたの魔法はどんなもんなんだ? 俺は持ってないからよくわからねぇ」

「私は全属性の適性を持っています。少なくとも、一般に『使える』魔法で行使できないものはありません。攻撃主体でも防御重視でもいけます」

「属性……。なるほど。魔法には多少興味あったからな。その点はいいだろう。最後の条件については……考えるまでもないな」


 ひとまず聞いておきたいことは聞いた。そして最後に言っておきたいことがある。


「ここまでの話でこちらのメリットはわかった。そのうえでこちらからも条件を提示しよう」

「な、なんですか?」


 警戒するように聞き返してきた。


「俺、もしくはジャバウォックと戦え。お前に勝てる見込みはないだろうが、もし勝ったら逆にお前の食い扶持も稼いでやる。どうだ」

「あっ、あなたと戦う!? そんな……。勝てるわけ……」

「だから勝てる見込みはないっつってんだろ。まあ、やらないのなら話は全部なかったことになるだけだが。それともあんたには無理か? 夜盗どもに襲われてた時も動けなかったみたいだしな」


 王田はあえて挑発的な言葉を口にする。


「あ、あの時は杖が……。それに、突然だったし、怖くて……。ええい! そんなことで冒険者が務まるかぁ! わかりました! オウダ様と、決闘します!」

「いい覚悟だ。時間は明日の早朝に行う。それと先に言っておこう。俺はスキルを使わない。こいつ一本だけで戦う」

「え、その武器だけで?」

「不満か」

「い、いえ」


 どうやら王田のハンデにあまり乗り気ではないようだ。確かに王田はキングウルフを倒すほどの強さではある。だが、全属性を持つ魔法士の自分に対してそこまで気を抜けるのかという話だ。しかしこの言葉が逆に、アレーナにとってより一層倒したいと思わせるには十分な効果があったようだ。


 こうして、仲間として加わることになるかの決闘が行われるのであった。


 ちなみに今日の寝床はアレーナに出してもらった。

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