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左近の桜、右近の橘。  作者: みんくん
33/47

第32話

手をつないで一緒に帰る帰り道は夕焼け色に染まっていて、どこか懐かしさと寂しさを感じる。


「いっぱい売れてよかったね、部誌」

「はい」

「お客さんもみんな笑顔だったね」

「はい」

「みんな、僕たちの作品で楽しんでくれるといいね」

「…はい」


私の書いた作品をお金を出して買ってくれる人が居ると言う事が嬉しくて、中には友達にちょっと見せてもらって気になったからとか、友達が私の作品を面白いと言ってくれてたらしくて気になってとか、いろいろな人が買いに来てくれた。

それが私は嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。


「左枝、嬉しいだろう?僕たちの本を買って喜んでくれる人が居るっていうのは」

「はい…本当に本当に嬉しかったです」

「わざわざ並んでまで面白いって言いに来てくれる人も居てね…ちょっと泣きそうになったよ」

「…私もです」

「左枝、ありがとう、文芸部に入ってくれて」

「…はい」


私は先輩の手を強く握った。


そして翌日


「さっちゃん、来ちゃった?」

両手に袋を下げた母と手ぶらの父、母と同じく袋を両手に下げた姉が居た。


「来てくれたんだ」

「当たり前じゃない!娘の晴れ姿見ない家族なんて居ないわよ」

「晴れ姿って…」

「同人誌でも本は本、初めての本はどうかしら?」

「200冊作って昨日132冊売れて今日も結構売れて残りこれだけだよ」


机の上に乗った本の小さな山を見て母は目を丸くしていた。

「200!?さっちゃんそれを一日で半分以上さばいたの!?」

「みんなに手伝ってもらったけどね…今日学校来たらみんなに感動した!とか、面白かった!とかいっぱい言われて恥ずかしかったよ」

「そう、あなたも…」


「左枝、その本1冊ずつ俺と母さんに売ってくれ」

「え?でも家用に1冊とってあるよ?」

「じゃぁそれはそこに戻して父さんと母さんに1冊ずつだ」

「えっと、2冊で合計1,400円になります、2,000円お預かりでお釣り600円のお返しになります」

「さっちゃんも店員さんが板に付いてきたわね」

「毎日じゃないけど結構手伝ってるんだよ?こうもなるよ」

「と言うか右葉さんは?いないみたいだけど…」

「先輩なら今お昼買いに行ってくれてるの、ようあるなら待っててもいいよ、どうせ昨日ほど今日は混まないと思うし」

「うーん…また今度にするわ、じゃぁ頑張ってねさっちゃん、右葉さんによろしく言っといてね」

「うん、ありがとう、お母さんお父さんお姉ちゃん」


3人が出て行くと教室はシンとしてしまった。

みんなお昼を食べているのかお客様はいなく、先輩もお昼を買いに行ってて本当に私一人なのだ。

外から聴こえてくる喧騒もあるが一人だけの教室というのはとても寂しかった。


「左枝、遅くなってしまったね、ごはんを買ってきたよ」

「あ、先輩、お帰りなさい」

「僕が居なくて寂しかったかい?」

「…正直ちょっと寂しかったです」

「そうか、左枝はさみしがり屋さんだなぁ」

「…先輩程じゃないです」


等と言っていると教室に人の声が近づいてきた。

ふと先輩を見ると青い顔をして固まっている。

「先輩?」


ガラガラガラと教室のドアが開くとそこに居たのは先輩にソックリな綺麗な女性だった。

身長は170はあるかもしれない長身で黒いロングの髪が烏の濡れ羽のように美しい。

そして何より顔が瓜二つレベルだった。


「ユウ、お母さん連れてきたわよ」

「ひらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


先輩は映画のような機敏な動きで机を飛び超えて宮古先輩を教室から連れ出した。

教室内に居てもなんで連れてきたんだ!?と聴こえてくる。


「あなたが桜左枝さんね!右葉からいろいろお話聞いてたけど本当に綺麗ねぇ!!」


思った以上の声量でまくし立てる先輩のお母さん。正直圧倒されていた。


「右葉先輩のお母さん…ですか?」

「あ、自己紹介がまだだったわね、右葉の母の紅葉です!よろしくね、左枝さん!」

私の手を取り握手をする。握手の仕方は先輩と同じで手をブンブンと振る。

やっぱり親子なんだなぁ…。


「なんで来たの!?来ないでって言ったじゃん!!」

「えーだってー右葉が学校でどんな風なのか気になるじゃない?」

「ならなくていいよ!帰って!」

「えー嫌よ!まだちょっとしか回ってないもの!」

「お願いだから帰って、ママが学校にいると色々と面倒なことになるから!!」

「あら、それはこの美貌のせいかしら?」

「何言ってるの!オバサン!部誌あげるから帰って!!」

「なによ、お金くらい持ってるわよ!左枝さん、1冊もらえるかしら」


突然私に話を振られてあたふたする。


「あー本当に可愛いわねこの子、特にこのアタフタした感じがマジで可愛い」

「えっと…700円になります…。」

「え!?こんなに綺麗な本なのに700円!?元取れてるの!?」

「き、企業秘密…」

「(ノ∀`)アチャーそれ出されたら聞けない!困った!!」


何というか明るい人だなぁ…確かに人の声があると書けない先輩が一人暮らしをする理由がわかった。


「はい、700円ね、ありがとう左枝さん」


パチンとウィンクをする先輩のお母さん。

その顔は先輩なもんだからちょっと顔が赤くなる。


「あぁぁぁぁぁ!!!もうママ帰って!帰ってくれないともう家に帰らないよ!!」

「アンタそんな技どこで覚えたの!?」

「パパに教えてもらったの!いいから帰って!!」


先輩に背中を押され教室から出ていく先輩のお母さん。

「あ、もう!左枝ちゃん、またね!」


先輩に強制退場をさせられた先輩のお母さんと先輩の声は多分結構離れているんだろうなぁと言うところからも聞こえていた。

と言うか先輩お母さんの前だと喋り方とか一人称は普通なんだなぁ…。

あとママパパって…可愛い。


しばらくすると息を切らせた先輩が戻ってきた。

「左枝、一人にしてしまって悪かったね…もうクタクタだよ…」


先輩の顔は明らかに疲れており、多分お母さんを玄関まで送っていったのだろう。

「先輩、お母さんのことママって言ってるんですね、何か意外です」


フフフと笑う私と一瞬で顔が赤くなる先輩。


「な、なんでそれを…!?い、いや!そ、そんなわけないじゃないか!ぼ、僕がママだなんて!!普通にお母さんって呼んでるよ!」

「え?でもさっきママが学校にいると色々と面倒なことにって自分で言ってましたよ?」

「あっ…」


次は一瞬で青くなった。


「あ、あれは違うんだ!その…違うんだよぅ…」

「それに話し方も普通で何かこう、すごい可愛かったです」

「じゃぁ今の僕は可愛くないのかい?」


唇を尖らせる先輩にぷっと吹き出す。


「あ!左枝が!左枝が僕のこと笑った!!」

「今ももちろん可愛いですよ、私の大好きな先輩です」

「そ、それならいいんだよ、別に…」


また顔が赤くなって忙しい人だ。


ガタッ

ビクッと肩を跳ね上げドアの方を見ると、そこには山倉先生がいた。

「お、お前たち…そ、その…そういう関係なのか…?」


驚きのあまり言葉がつまりまくりな先生。と言うかバレてしまった…。


「アレ?言ってなかったかな?これでも僕たちは将来を誓い合ったなかさ、ね?左枝」

私を抱き上げて口づけをする。


「んっ!?」


「おおおおおおい!ここここ、校内だぞ!!」

「そうだね、でも校則にも不純異性交遊はダメだと書いているが、不純同性交遊が禁止とは書かれていないし、校内でキスもダメとは書かれていないよ」

「そそ、そういう問題じゃないだろう!?え!?と言うかマジなの!?え!?」


混乱して目が渦巻きになっている。


「や、山倉先生!?どうされたんですか!?」

「な、何でもない!何でもない、だから一緒に向こうへ行こう!な?!今この教室はダメだから!!」


宮古先輩の手を掴んで走り出す山倉先生。

思いがけないところで宮古先輩の役に立てたようだ。


「フフフ、見たかい、あの山ちゃんの顔」

「目が渦巻きになってましたね」


フフフと笑う私と先輩。

「あ、そういえば売上金持っていかないと…」

「でも山ちゃん役にたちそうにないね…まぁいい、職員室に行けば誰かいるだろう」


私と先輩は売上を計算して報告書に書き込み教室を後にした。


「まぁとりあえず左枝、完売おめでとう」

「はい、おめでとうございます、先輩」


無事、200部を完売し、予備用の8冊は学校の図書室や他校の文芸部やいろいろなものに出すため取っておいてある。


「まさか二日で売り切れるとはねぇ…本当に去年からでは考えられないね」

「でも去年も売り切ったんですよね?」

「三日目のギリギリでなんとかね…」

「じゃぁ1日半去年よりも早く売れたんですねぇ」

「そうなるね…来年からは250冊位に増やそうか?」

「それもいいですね」


夕焼け色の校舎の中は意外にも喧騒に溢れていた。


場所は変わって職員室前


「失礼します、文芸部です、売上金持ってきました」

「あら、文芸部の担当は山倉先生だったはずだけど?」

「あぁ、山ちゃんなら女の子の手を引いて走って行っちゃったよ、一世一代の何かをしているところかもね」

「え!とうとう山倉先生にも春が!?」

「まぁ後で本人に聞いてみるといいよ」

「フフフ、そうする、それじゃぁ私が代わりにやっておくね、それにしてもすごいねぇ…200冊700円で売り切ったんでしょ?先生方の中でも話題になってるよ、すごい面白いって」

「ありがとうございます、先生が一気に十何冊も買っていったのは驚きました」

「ほかの先生に頼まれちゃったの…もう、自分で行くのが恥ずかしいからって私に…でもほんと、凄いよ桜さん、立花さん」


先生は笑顔で私と先輩の頭を撫でる。


「それじゃぁ確かに預かったよ、二人は今日はもう帰るの?」

「先輩、どうします?」

「うーん…明日一緒に回りたいし片付け始めちゃうかい?」

「そうしますか…とりあえず机とか直してから帰ろうと思います」

「そう、じゃぁこれ上げる、駅前の喫茶店のパンケーキ無料券、部誌のお礼にって二枚もらったんだけど…貴女達の作品なのに私がこれをもらうのはなんか違うと思ってね、じゃぁ早めに帰ってね」


そんなこんなで文化祭、二日目が終了した。

読んでくださりありがとうございました。

次話もどうぞ、よろしくお願い致します。

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