第31話
「左枝、そっちは大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です」
「それじゃぁ会場設営は終わりだね…」
「売れるといいですね…部誌」
「そうだね…初めての僕たちの合作だ…みんなに読んでもらいたいね」
そう言うと先輩は部誌を一冊取る。
それに倣って私も一部取る。その表紙はとても綺麗だった。
「それにしても…彼女もよく快諾してくれたよ…」
「まさか先輩がライトノベルも書いていたとは知りませんでした…」
「まぁね、色々なものに挑戦してみようとしてたのさ」
そう、大和蜜柑ではなく、花柚という別人の作家としてだ。
そのラノベを出した時に表紙や挿絵を書いてくれたイラストレーターさんにダメもとで事情を話してみたところ、「その小説読ませてくれるならいいよ」と快諾をもらえた。
「えっと小桜先生だっけ?あの人の小説いいね、何かこう、すごいキュンキュンするよ!すごい私好みのお話を書く人で一回会ってみたいなぁ…」
と言うお言葉をいただき、実際に先輩も含めた3人で会って打ち合わせやいろいろな話をした。
そして無事出来た部誌の挿絵は私が想像していた以上に凄く、この本を華やかにしていた。
本の構成は私と先輩の中編が一本ずつ、そして合作の長編が一つと言った感じだ。
挿絵を含めて全部で二二〇ページと言う大ボリュームだ。
予備を含めて210冊をご好意で50,000円で作ってもらった。
しっかりとしたくるみ製本で表紙はフルカラー、遊びや挿絵もあって一部活動の文芸誌というには余りにも豪華すぎる。
そして、表紙には私と先輩の合作の主人公とヒロインが二人で部室で本を読んでいると言うものだった。
初めてこの絵を見たとき、私と先輩が部室で本を読んでいる、そんな風景を想像させた。
閑話休題
文化祭が開始して一〇分、すでに教室は人でいっぱいになっていた。
教室の外にも長蛇の列ができており、ダンボールに書かれたここが最終尾という看板を、最後尾のお客様に持ってもらうレベルだ。
「1冊ください」
「700円になります、では1,000円お預かり致しまして、300円のお返しです。ありがとうございました、お次の方どうぞ」
「700円ちょうどだね、ありがとう、ぜひ楽しんでおくれ」
二人でたくさんのお客さんを捌くのは非常に大変で、でも非常に楽しかった。
「流石に左枝は慣れているね、手際が違うよ」
お金を入れている箱から一発でお釣りを取りお客様に渡す。
確かにこれは長年の積み重ねのおかげなのかもしれないな。
途中から宮古先輩や山倉先生、私のクラスのお友達なんかも列整理を手伝ってくれた。
「小桜堂書店の店員さんですよね…?小説の品揃えがよくていつも利用させてもらってます!」
「ありがとうございます。お父さんもその言葉を聞いたら喜ぶと思います」
「また行きます、ありがとうございました!」
走り去っていく女性とは「ヤバイ話しちゃった!!」と顔を赤くしていた。
トンと足を蹴られ先輩を見ると少し頬を膨らませていた。
「よかったね、可愛い子とお話できて」
拗ねている先輩もやはり可愛かった。
お客様の大分減って来て並んでいる人が教室内に収まるようになってきた。
すでに部誌は半分はなくなっており、明日明後日と三日間の開催だがもしかしたら足りなくなるかもしれない。
「もし途中で足りなくなったら電話してくれ、届けに行くぜっ!」
と言う印刷所の人の言葉を思い出す。
「1,000円だね、300円のお釣りだよ、ありがとう、ぜひ楽しんでおくれ」
「先輩、これ増刷したほうが良くないですか?」
「ん?いや、大丈夫だろう、三日目はその…一緒に回りたいし」
「…はい」
真っ赤になるふたりを見てお客様の一部の人はニヤニヤとしていた。
「1冊くださいな」
「700円になります、1,000円お預かり致しまして、お釣り300円のお返しです」
「ありがとう、ね、二人って付き合ってるの?」
私の耳に口を近づけ聞いてくる
「え!?いや、その!!」
「やっぱそうなんだ、ふふっ、お幸せにね」
見る人が見れば私と先輩の関係というのはわかるものらしい。
このあとも数人に聞かれ、その度に同じく驚く私と先輩。
こっち側の人間には一発で分かってしまうらしいという事がわかった。
最後の一人の接客をしている途中、スピーカーから声が聞こえてくる。
『現時刻をもちまして、文化祭、1日目を終了いたします。一般のお客様はお忘れ物のないよう、お気をつけてお帰りください。生徒の皆さんは至急片付けをしてそのまま下校してください。売上金は担当の先生に金額の報告書とともにあずけてください』
「ありがとう、ぜひ楽しんでくれると嬉しいよ」
「あ、ありがとうございました!」
「さってと、今日はこれで終いだな、売上金計算してこの紙に書いてくれっとその前に…」
先生は財布を出して700円を箱の中に投入した。
「1冊もらうぜ」
「それじゃぁ私もっ!」
「なら僕もだね」
「わ、私も!」
ちゃりんと言う音が4つ、教室に響き、部誌の山から4冊が更に捌けた。
今日、列整理を手伝ってくれた子には予備用の10冊からプレゼントした。
「お金払わなくてもいいの?」
「うん、手伝ってもらったお礼だからその…」
「そうそう、これでも僕たちはプロ何だ、プロふたりの中編と長編が一気にタダで読めるなんてそうそうないよ!」
「え?プロ?」
実はこの話はクラスメイトにはしていなかった。
「アレ、左枝もしかして…?」
「…」コクリ
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!済まない左枝、た、頼む、この事は秘密にしておくれ、その、身バレは高校生にとってとても危険なことなんだ、頼む、君たちも今ここで聞いたことは絶対に他言しないでくれ!!」
「それはいいんですけど、その…お二人ってサインとかあるんですか…?」
「僕は一応あるけど左枝は?」
「そ、その…一応あります…この前考えたんです…」///
恥ずかしくて顔が真っ赤になるのが分かる。
「この本にサインください!!」
「手伝ってくれたお礼だ、喜んで書かせてもらうよ、お名前聞いてもいいかな?」
「駒門です!駒門郁恵!」
「郁恵ちゃんだね、」
サラサラとサインを書く先輩はとても格好良かった。
「あ、ありがとうございます!さ、左枝もお願い」
「うん」
先輩ほど慣れては居ないけどサインには見えるだろう。
「やった!これ宝物にします!」
そう言うと彼女は部誌を胸に抱いてその場で飛び跳ねていた。
閑話休題
「それじゃぁそれ持って職員室について来てくれ、一応この教室はこのまま鍵閉めちまうから荷物とかも持って忘れ物のないようにな」
荷物を持って私と先輩は教室を出た。
夕焼け色に染まる教室は逆光で真っ黒に見えて、赤と黒の対比がとても綺麗に見えた。
「僕たちの仕事はこの風景がどれだけ綺麗かを文字で表現する事だ…こんなに難しい仕事はあまりないだろうねぇ」
「ロマンチストですね、先輩」
フフフと笑う私とハハハと笑う先輩。
文化祭1日目が終わった。
読んでくださりありがとうございました。
次話もどうぞ、よろしくお願い致します。




