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左近の桜、右近の橘。  作者: みんくん
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第30話

「いやぁ、それにしても左枝の料理は本当にプロ級だ、僕も実家に居る時から含めてもここまで美味しい肉じゃがを食べたのは初めてだよ」

「ほ、褒めすぎです…」


恥ずかしくて顔を手で覆う。


「いや本当の事さ!冗談抜きで僕は左枝とこれからもずっと暮らしていきたい、そう思う」

「もし料理が下手でもそう思ってくれましたか?」

「もちろんさ、でもその聞き方はちょっとずるいよ」


笑う先輩と釣られる私。


「そういえば、左枝はいつ小説を書いているんだい?」

「私ですか?基本的には暇な時にですかねぇ…時間はあまり決めてません」

「そうか、なら僕はこれから書くけど左枝はどうする?」

「じゃぁ私も…」


室内にカタカタと言う音が響き、今は私も先輩も多分とても鋭い目つきになっていることだろう。


いつもと違う環境いるからなのか、何故かいつもよりも筆の進みが早かった。


どんどんと書き上がっていく原稿に楽しさを覚える。


そして5分も経った頃だろう。二つのエンターを押す音が響き、同時に息を吐き出す。


「左枝も今終わったところかい?」

「先輩もですか?」


先輩の画面にはEND、私の画面にはFinの文字が一番下に表示されていた。


「それにしても左枝は書くのが早いね…短編とは言え、こんなに短時間で書けるなんて」

「そんな事は無いですよ、先輩だって出来てるじゃないですか」

「これでも僕はプロさ、これを武器に毎日の生活をしている、この速さだってデビュー当時じゃ考えられないくらい早くなったんだ…でも君はデビュー時からこの速さ…君の今後の成長度合いが怖くもあるね」


ここまでベタ褒めされて嬉しくないわけがない。


「あ、ありがとうございます」

「照れてるね、可愛い」


茶化す先輩のおかげでちょっと冷静になれた。

そういえば7月には我が校では文化祭が行われる。今は6月でちょうど1ヶ月程だろう。


「そういえば、文化祭ってもうちょっとですけど部誌とかって出すんですか?」

「うん、毎年一応最低一部は出してるよ去年は夏と冬の二回だったけど」

「じゃぁ今年もそうしますか?」

「うん、と言うかあまり文化祭まで時間ないけど大丈夫かい?」

「えっと…逆にその…それだけ時間があったら長編が数本上がっちゃうんですけど…どうしましょう」

「あー僕もそうかもしれない…」


今年の部誌はもしかしたらホチキスが通らないかもしれない。


「知り合いの業者に頼んで製本を外注するのも手かもね…」

「でもそうするとお金が…」

「あ、去年とか部誌相当売れてね…冗談抜きで途中で二版三版を作ったレベルで売れたんだ」

「一冊何円でですか…?」


右手手をパーにして左手で人差し指を立てる先輩。


「な、何部作ったんですか?」

「…に、200部」

「う、売れ残りは…?」

「ゼロ…」


じゅじゅじゅじゅ…12万!?


「セ、先輩…じゅっ、じゅうっ!?」

「左枝、落ち着くんだ、はい吸って!」

「すー」

「吐いてぇ」

「ふー」


先輩の誘導に従って深呼吸をする。

「落ち着いたかい?」

「落ち着きましたが…その…10万…」

「ちなみに制作は学校のモノ使ったから…数千円さ」


我が校は文化祭で稼いたお金は部の運営資金として部費扱いになる。つまり最低でも今我々文芸部には部費が10万以上はあるということだ。


「うーん、ちょっと待っていてくれ、今ちょっと印刷会社の知り合いに電話してくるよ」


そして一五分後、先輩がホクホク顔で戻ってきた。


「左枝、朗報だ!二〇〇部、本文ページ約二〇〇ページで5万円でやってくれるらしい!」

「えっと…元々どれくらいするんですか?」

「えっと…二倍から三倍くらいかな?」

「え、すごいじゃないですか!!」

「だろう!これで制作の問題は解決だ、あとはどこで売るかだが…基本的に部室しか使えないんだ…申請すれ天幕を張って屋台にするという手もあるが…」

「一般の教室は使えないんですか?」

「一般の教室は各クラスがお店とかを出すんだ、だから多分使えないね」


色々な事を話決めていく。

時々先輩は思いついたようにどこかへ電話して、その度にホクホク顔で帰ってくるのだ。


「左枝!一般の教室で空きがあるらしい!そこはクラスで劇を上演するらしいんだ、それで教室は使わないからと使わせてくれるらしい!」


捕らぬ狸の皮算用なんて言葉があるがここまでくればもう計画と言ってもいいだろう。

こうして私と先輩が一緒の初めての文化祭が始まる。

読んでくださりありがとうございました。

次話もどうぞ、よろしくお願い致します。

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