ゲーム開始 Ⅲ
「後ろの泥人間はあたしのことをわかってるようねぇ」
喋り方からすると広樹にはただの「オカマ」にしか見えないのだ。
「あたしはオカマじゃないわ! 女よ」
広樹の思った事は言葉に出ていたらしい。だが、どう見ても広樹には女に見えないのだ。なんてったって髭まで生えているのだから。
広樹が驚き口を開いていると其奴はいきなりマントを開き、呪文のようなものを唱え始めた。
辺りが静かになる。なんの音もしない。
呪文を唱え終わるといきなり物凄い突風が吹き付ける。広樹は風に押され、後ろへズルズルと下がっていく。
「はははっ! 見たか小僧め! あたしはユールよ。覚悟しなさい!」
ユールは高く笑いマントをばさばさと翼のように羽ばたかせた。
広樹は急いで盾で自分を守り、少しでも風邪を避けようとする。だがユールの力は強く広樹は耐えられなくなり吹っ飛ばされそうになった。
「あの人は……敵じゃないんですよ」
泥人間が広樹を後ろから抑え、広樹にそう伝えた。
「敵じゃないならこんな事しないだろ!」
そう話をしてるとユールはいきなり力を止めた。広樹は前へと倒れる。さっきの話が聞こえていたのか、ユールは広樹達を真剣に見つめて口を開いた。
「あたしは敵じゃないわ。泥人間の言う通り。馬鹿なあんたのために、ヒントを持ってきてやったのよ。もう、何人目よ……こんな簡単な問題がわからないやつは」
ため息混じりにユールは言う。
呆れたように言うユールに広樹はヒントを聞こうとした。
だが、ユールは教えてくれない。
「ヒントくれるから現れたんじゃないのか……?」
広樹は首を傾げてユールを見つめる。
「そ、そんなかっこいい顔してたってあたしはあんたが謝るまで教えてあげないんだから」
頬を染めたように広樹をチラ見しながら言う。しかし全く可愛くない。
髭の生えたおじさんがそんなことをしたって気持ちが悪い。
「なんで俺が謝るんだ?」
「広樹さん……! オカマと言ったことを謝ってください!」
何もわかっていなかった広樹に後ろから泥人間たちが教えてくる。そんなことを気にしていたのかと笑いそうになるが抑えた。ヒントを聞くためだ。広樹は頭を下げて謝った。
「許してやらないこともないわ。ヒントはほぼ答えみたいなものよ。田舎にたくさんある物の最初の文字よ」
「田舎にたくさんあるもの?」
「そう、お米を作るの」
そう言われるとすぐに分かった。これはなぞなぞだ。問題じゃない。
「分かった。ありがとう」
広樹は鍵の前へ行き返事をして答える。
「はい。田んぼの田!」
箱は少し間を空けて聞いた。
「……それでいいのですね?」
そんなことを聞かれると自信がなくなってくる。だがユールはこのゲームの中のキャラクターだ、信じるしかないのだろう。
広樹は小さく返事をした。
「はい」
「正解で〜す」
合っていて胸をなで下ろすと同時に箱の開く期待で広樹は心がいっぱいになっていた。
数分待ってみる。
しかし、箱は一向に開く気配は無い。
「壊れてるのかな」
もう一度箱を蹴ってみる。
すると箱からまた声がした。
「ではではー。次の問題です」
「これ一問じゃないのかよ」
広樹が文句を言うとユールが後ろから箱を覗いた。
「前までは一問だったんだけどね。あっ、問題写ったわよ」
ユールがそう言って広樹が問題を見る前にそれを読み上げていく。辺りはユールの声が響く。
「問題です。18782+18782=? なんでしょう」
僕は少し考え、これもさっきのようなものだと思い、口を開いて答えを言おうとした。
「はい。みな……」
「ミナ殺シだァァア」
言おうとした答えを言われ、すぐさま声のした上を見上げてみると剣が降ってきた。
それと同時に箱は開き、中に吸い込まれるように広樹たちは箱へと入った。
「なんであたしまで入んなきゃいけないのよ」
吸い込まれたのは広樹と泥人間だけじゃなく、ユールもだった。中は暗くて狭い。
「うぐ……開かない」
箱の蓋が閉まると同時に再び鍵がかかったようだ。
「ちょっと暑いわね」
愚痴をこぼすユールを広樹は少し睨んだ。すると後ろにある一つのボタンを見つけた。
「ユール退いて」
「なによ!」
「後ろにボタンがあるんだ」
ユールは自分の後ろを確認し、ボタンを見つける。
「押せばいいの?」
「押していいのか?」
「知らないわよ」
「ここの人じゃないのか」
「あたしはここで作られたけどこの中に入るのは初めてなの!」
「なんだ。そうなのか」
「ふん、ビビってばっかのあんたにこれが押せるのかしらね」
ユールは嫌な口調で喧嘩を売ってくる。喧嘩してる暇は無いのに広樹は言い返してしまう。
ユールは広樹に掴みかかり箱の中で暴れる。広樹はそれを止めるように腕を掴む。
「やめろって」
必死にユールの手を離そうとする広樹だが、なかなか離れてはくれない。そうこうもみ合っていると泥人間が動いた。
「私が押します」
それと同時にボタンは押され、床が無くなってしまった。
「うわぁぁぁあ」
広樹たちの声が箱の中で響き、下へとすごい勢いで落ちていく。
「あれ? 助かった」
ぽよんと柔らかい音がする。
下には大きな大きなトランポリンがあり広樹たちは助かったのだ。しかし泥人間は下へと落ちる時の風によりばらばらになってしまったらしい。
トランポリンから降り、辺りを見渡すとそこは体育館のような場所だった。
「あたしの仕事はもう無いからさよならだね」
「え?」
そう言った瞬間ユールはふっと何処かへ消えてしまった。泥人間も居ない。広樹はそこに立ち尽くしている。
ガタン……ガタン……と床が揺れている。広樹以外誰もいないはずの体育館に足音が響く。
「だれだ……!?」
後ろを振り向きながらそう言うと、そこには大きなゴリラが立っていた。