第3話
「レント、早く席について食べてしまえ。飯が冷めるぞ」
余計なことを考えていると一つ上の兄であるペント兄様が声をかけてくる。
ペント兄さんは次男なので領地を継ぐということはないが、万が一、長男であるタルク兄さんに何かあった時の為に同じように領主としての教育を受けるらしいが、今は生物学者として王都の生物学研究所に勤めている。
ペント兄さんに返事をして席に着き、遅れて父上も広間へやってきて席に着き、我が家は特に何の信徒というわけでもない無神論者家なため特に何も言わずにそれぞれが食べ始める。
「父さん、レントの剣技はどうなんだ。才がないのなら時間の無駄じゃないのか」
「いや、うーむ、確かにそうではあるのだが・・・。冒険者たるもの剣技も最低限は身に着けておかねばなるまい」
「そうは言っても冒険者はパーティを組んでダンジョンに潜るものだ。魔術師が魔力を使い切った時に何もできなくても他のメンバーがフォローするだろう。それにレントの魔力量はかなりのものだと聞いたぞ」
ペント兄さんはかなり現実主義者で、俺の剣技には光るものがないからその分魔術の訓練をすべきだとしばしば父上に進言している。確かに一理あるとは思えるが・・・。
俺の魔力量が多い?確かに自分でもそんな気はしていたが魔力量を測った覚えなどない。
魔力量の計測は、通常魔術学校や冒険者学校に入る際に魔晶石を使ってするものであって、それまでもそれ以降も特に計測する機会はない。そもそも生後に魔力量はほとんど伸びないのだ。魔力量の増加について研究している学者の中には毎日計測している酔狂な人もいると聞くが、普通は学校に入るときに測って終わりだ。
「俺の魔力量をいつ計測したんです?」
「魔晶石を使って正確な計測をしたわけではないがな。この間メルカが来ていただろう?メルカはあれでかなり高位の魔術師だ。高位の魔術師ともなると人をの魔力の流れを見ただけで魔力量の多寡を見極めることができるらしい」
メルカというのはペント兄さんのガールフレンドで、少し天然っぽい部分はあるが博識な魔術師である。
この間屋敷に遊びに来た際に俺の魔力量を視ていたらしい。入学の際に測るからあまり気にしてはいなかったがやはり俺の魔力量は通常の魔術師に比べると多いようだ。
「なるほど。確かに今まで魔力が枯渇した経験は特にありませんね」
「メルカよりも多い、ということが分かっただけで具体的にどのくらいとまでは分からなかったみたいだけどな。しかしメルカより多いということはかなりの魔力量だろう。しっかりとした修練をすれば宮廷魔導士も夢じゃないかもな」
宮廷魔導士というと王国で数人しかいない。それになれる可能性があるというのはもしかして物凄いことなんじゃないだろうか。
「だが、魔力量が多いだけの魔術師なんて結構、とまでは言わないがそれなりに居なくもない。慢心せずにこれからも励め」
と思っていたらそんな甘い話でもないようだ。この世界では魔力を持つ人間の割合は2割ほどで、その中でも魔力量の多い人間はそれなりにいるらしい。だがそういう人間でも平民であるためにしっかりとした教育を受けることができなかったり、魔力量にかまけて大した訓練も行わない等の様々な理由で宮廷魔導士という名誉ある地位に就ける者は限られている。
また、魔力が多くしっかりとした訓練を積んだ魔術師でも冒険者になったり、魔術研究所に入ったり、領地お抱え魔術師になったりと、宮廷魔導士になる実力がありながら個人の意思や事情によってそうならない人も結構いると聞いたことがある。
「話を戻すが、剣技の訓練も週に1度だけ、それ以外の訓練についてはレントの意思に任せている。とりあえずは10歳までは今まで通りにするつもりだ。剣技の訓練は剣術だけでなく体力をつける意味でもあるからな。魔術師の冒険者であっても体力は必須だ」
「まあ、レントがそれでいいならいい」
話し合いの結果、俺の剣技の訓練は10歳まで継続されるらしい。体力が必要なのは理解しているし、俺としても特に文句はない。
夕食を食べ終わり、自分の部屋に戻る途中、書斎に寄る。ここは俺にとって宝の山だ。伯爵家ともなれば大量の蔵書が保管されており、この世界の歴史や、魔術の研究書、各流派の剣術本など様々な本がある。
と言っても俺はまだ言語をすべて理解できているわけでもなく、読める本はたかが知れているのだが。
最近になってやっと日本語で言うカタカナを覚えたところで、今日から漢字の習得に励もうと思っている。言語についても家庭教師が教えてくれてはいるが、学習するのが早いに越したことはない。それに家庭教師とのマンツーマン指導だからこそできる「それはもう自習で覚えましたので次をお願いします」ができるのは大きなアドバンテージだ。
今のうちにどんどん吸収して早めに冒険者になって世界を旅したい。前世では大したことのない人生だったし。現世ではせっかく異世界に生まれたのだから色々なことを経験してみたい。




