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第18話

 宝石箱を譲り受けた、というか勝ち取った次の日、セレナ教授の家に行って魔術の訓練方法を習ったが、正直今までやっていたことが難しくなっただけで特に裏技的なものは無かった。


 今までは魔力を体の一部に集中し、それを徐々に動かしていくという訓練を意味があるのかないのかよく分からないままやっていたのだが、セレナ教授から教わったのはそれを複数の部位で同時に行うという物だった。


 何のことはない、普通に難しくて、教わってから一ヶ月が経とうとしているのにまだ二ヶ所同時すらできる気配がしない。視力強化と身体強化ならできるのだが、部分強化二ヶ所は少々勝手が違うらしい。まあ、俺は天才ではないのだ、地道に努力していくしかないだろう。


「では、行ってきます」


 そう、あれから一ヶ月特に何もなくーーーセレナ教授の家で死にかけるというアクシデントはあったがーーー毎日ちまちま魔術と剣術の訓練を行い、しっかりと基礎体力をつけていった。


 不安そうな父上と母上、いつもと変わらない兄上たち、そして今生の別れの如く涙を流している使用人のカミーラに見送られて、冒険者学校行きの馬車に俺は揺られていた。


 到着して馬車を降り、冒険者学校の全体を眺める。


「ひっろ・・・」


 そう、思わずそう声が出るほどの大きさだった。うちの屋敷なんて比べるべくもない。もしかすると王宮よりも広いのではないだろうか。


 この冒険者学校は王都から少し外れたところに位置しているため来たことがなかったが、ここまで広いとは。


 呆気に取られている俺を横目に、恐らく入学生であろう俺と同い年くらいの少年少女達が門の前にある受付に進んでいく。俺もその後ろに続き、魔力操作の訓練をやりながらまったりと待っていた。


 いつでもどこでも魔力さえあればできるのがこの訓練のいいところだ。今は目に魔力を集めて視力強化をしながら、右足に5分ほど経って俺に順番が回って来る。


「すみません、入学に来たのですが」


「・・・入学票」


 そう呟いた無愛想な女生徒は右手を差し出してきた。

 なんて冷たい人だ。とか少しは思わなくもないが、生徒がやっているならほとんどボランティアみたいなものだろうと勝手に納得して入学票を手渡した。


「・・・はよ行け」


 その女生徒をよくよく見てみると凄く整った顔立ちをしていて、少し長めでポニーテールにしている髪も手入れが行き届いている。目は深緑色をしていて、ずっと見ていたら吸い込まれてしまいそうだ。服装は冒険者学校の制服のようで、前世で言ったところのセーラー服のような物を着ていた。つい見惚れてしまっていたらさっさと行けと手を払われる。

 口と態度が悪すぎる。これでおしとやかで可愛いげのある性格だったらバッチリなのに。


 これ以上後ろを待たせるわけにもいかないので立ち去ろうとすると、少し離れた所から怒鳴り声が聞こえ、急な暴風が俺のローブを吹き荒らした。


「そんなの後から持ってくると言っているだろう!貴様私が誰か知らんのか!?"風神"サクリ・ヴァレンティノの息子であるマルス・ヴァレンティノであるぞ!多少の融通は効かせるのが筋というものだろう!」


「ですから、今お持ちいただかなければ中に入る魔力認証門を通ることができないので・・・!」


 なんだコイツ。もしかして入学票忘れたのか?

 よく分からんがこんなところで駄々をこねて恥ずかしい奴だ。こういうのは放っておくに限る。

 めんどくさいことに巻き込まれないようにさっさと中に入ってしまおう。

 そう思ってその場から退散しようとすると、また暴風が吹き荒れた。どうやらコイツが原因らしい。


「予備でも何でも持ってくれば良いだろう!!貴様、いい加減にしないと・・・!」


 怒鳴り散らしていた少年はそう言うと、受付の女の子に右手を向け、何かを唱え始めた。

 無防備な女の子に魔術を打ち込む気か!?ヤバい!


 そう思ったのは俺だけではなかったらしく、先程俺の受付をしてくれた無愛想な女生徒が勢いよく立ち上がった。


 荒れる暴風、立ち上がるスカートの女生徒、そして強化している視力。いやなに、大したことじゃない。水色の縞模様だったよ。


 いやそんなものを見ている場合じゃないのは分かっている。だが、男はそうなのだ。生理現象のようなものなのだ。


そうやって自分を納得させて、視力の強化を維持しながら身体強化を最大までかける。

 奴のところまで約10歩程度。ギリギリ間に合うかどうかというところだ。いや、無理かも。とにかく全力で魔力を使って地面を蹴り飛ばした、その瞬間。


「いい加減にしないと、どうするというんだ?」


 少年の目の前にはいつの間にか女生徒ではなく、岩の壁が一切の魔法を通さないと言うように立ち塞がっており、少年の四方には無数の"ロックアロー"が音もなく出現していた。

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