艶姫とひまわり
ボーイは山の頂上に到達したらしい。
頂上は家を作れそうな木がたくさんあり、切り倒せば十分な広さの土地があった。
「木こりと建築士・大工を呼べばいい」
ボーイは木々を見つめながら言った。
「三人か?」
「いや、二人だ。木こりが一人、建築士・大工が一人」
「一人で家を建てるという事か。大丈夫かな」
「大丈夫だ。仕事が早い」
「分かった。ボーイはこれで終わりか?」
「いや、人間でいうコンクリートのようなもので固める」
「じゃ、それが終わったら呼べばいいな」
「今でいい。速乾性があるんだ。登り降りしても平気だ」
俺はバナナテントから、またノートとペンを持ち出した。
同時に二人も呼ぶのか。
んー、どんな子がいいだろう。
それを考えるのも、結構楽しかった。
木こりは逆に色っぽい子にしようかな。
赤毛のカールでグラマー。
大工は明るい子がいいな。
ブラウンの髪はボブで、華奢な子。
顔は美人だが可愛い笑顔。
さらさらと書いているのを、琴は不思議そうに見ていた。
「琴のお仲間を二人呼ぶんだよ」
「はい」と言いにっこりと笑った。
バナナテントから小瓶を持って来て、まず木こりを呼んだ。
これは小さなボールで事足りる。
また光りだし、俺の前に現れた。
「よろしくねェ~、ご主人様~」
顔立ちも服装も話し方も、全て色っぽい。
少しぽっちゃり系で、薄いタンクトップから胸が溢れていた。
「よろしく!こちらは琴」
「よろしくお願いします」
琴はまた深々と頭を下げた。
「あんらァ~、ステキなお名前。私にも名前付けてェ~」
「そうだな、何にしようかな」
ピンク、モモ、艶、よし。
「艶姫!どうだい?」
なぜか彼女は姫だった。
「お姫様~ぁ、ステキじゃない」
満面の笑みを俺に向け、喜んだ。
三人で頂上に登る。
途中艶姫はボーイと挨拶を交わした。
「まァ、いい木がいっぱいあるゥ~」
「防風林の役目をして欲しいから、端は残して欲しいんだ」
「了解よォ~」
すごい機械をたくさん持った艶姫は、木々を見て回った。
「オッケ~、危ないから下に行っててねェ」
「艶姫、その木で家を作るんだ。これから建築士・大工を呼ぶ」
「分かったわァ~。まず空間を作るわねん。設計が出来たらここに来てもらってねん~」
艶姫はもう作業に集中していた。
琴と下に降りた。
「琴、もう一人呼ぶ。仲間がいっぱいだな」
「はい」
建築士・大工は二つの目的、だから中の大きさだな。
初めて使うアレイボールだった。
光りと共に現れたのは、とても華奢な女の子だった。
「よろしくお願いしま~す」
笑顔がとても可愛いかった。
「よろしく!」
「琴です、よろしくお願いします」
「山のてっぺんに家を作りたいんだ。木が多いから今木こりに切ってもらってる」
「わかりました!じゃ、先に設計図を作りましょう」
名前よりも仕事か。凄いな。
彼女は大きい設計用紙を広げ、ノートと鉛筆を持った。
「家は何階建てがいいの?」
「二階建てが理想だ」
「オッケー!一階はまず玄関で~」
彼女はスラスラとノートに書いていた。
「敷地が見たいなぁ」
「今はまだ木を切ってる最中だから、それでもいいなら」
三人は頂上に行った。
艶姫の仕事は速く、どんどん木を切っていた。
笑顔で艶姫は挨拶を交わした。
「おぉー!これは素晴らしい土地だね!」
明るくてとても元気な彼女。
「名前はひまわりだな」
俺はずっと名前を考えていて、そう言った。
「あたしの名前なの?」
「そうだよ、ぴったりだろう」
「ありがとう!よし設計図の続きだ」
アレイ達は本当に仕事熱心だった。
何が彼女達のモチベーションなのかな。
「なぁ、ひまわり。なぜそんなに熱心なんだ?何かいい事でもあるのか?」
「別に~、決められた事をしているだけだけど?」
「アレイ自体が真面目なのかな……。人間はサボる奴もいるんだけどな」
「んー、アレイボールで呼び出されたら、その仕事をする。それが決まりなんだ~」
ひまわりは何かを思い出したように手を叩いた。
「戻ったら恋愛が出来るようになるんだ!」
「恋愛?今まではダメだったのか?」
「そう!呼び出されるまではダメなの。好きになるのは自由だけどねっ」
可哀想な決まりだった。
人間なら文句が出るだろうが、彼女達はそれに従っていた。
「そうか、楽しみだな」
「まぁね~、さっ、仕事仕事!」
ひまわりと家の設計を考えた。
土地が広いおかげで十分な間取りが完成した。
玄関を入りすぐに広いリビング。
キッチンはライフラインがないので、調理台が主だったが、ここも広いスペースを確保出来た。
ダイニングという場所はリビングの一角に設け、テーブルを置くだけだった。
テーブル、椅子など家具類もひまわりは作ると言った。
至れり尽くせりだ。
アレイの寝室も広くとった。
トイレや風呂は当然外に設置。
二階に俺の寝室と大きなベランダを設けた。
水を溜めたり洗濯したり干したりする場所だった。
「これで設計図を作り、必要な木を艶姫に切ってもらうよ」
ひまわりは嬉しそうに笑った。
艶姫の様子を見に言った。
「艶姫!順調か?」
艶姫は木を切り倒してから、こっちに来た。
「とっても順調よォ~、いい木だからきっと大工さんは喜ぶわァ」
「彼女の名前はひまわりにした」
「ひまわりちゃん!可愛いわねェ~」
「終わったら恋愛が出来るんだってな」
「そうよォ~」
「好きな人はいるの?」
「ご主人様~って言いたいけど、実はアレイでいるのよォ~」
「じゃ、戻ったら告白だな」
「告白というのかしらねェ~、手を出して相手が手を握ったらOKの合図よ」
手を……、俺は琴を立たせるために手を出した事を思い出した。
俺はそんな事は知らなかったが、琴はすぐに手を出した。
座っていたから無効か、いやどうだろう。
艶姫は饒舌に琴にも話しかけていたが、俺はその事が気になり頭から離れなかった。
アレイに気に入られても仕方がない事、なのに好きになって欲しいと真剣に願っていた。
恋をしてしまったのだろうか。
あの時確かに手を握った。
気持ちがあったからか?
そんな事を聞く勇気は俺には無かった。