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仲間と共に

 きっぱりと言い切ったリナベルにシオンは眩しげに目を細めた。思いもよらぬ展開で、想像すらしていなかった真実が次々と明らかになったが、あれだけの奇跡を見せられては疑う余地もない。

 正直に言えば、シオンは元々古い神話や伝説に学問的な興味を持っていたに過ぎない。それが今回、教会に封じられ歴史の中で忘れ去られてきた真実、そして教えを守るため命を捨てるほどの狂信者達を目の当たりにして、単なる興味ではすまされない本物の熱意に変わっていた。


「君はすごいよ、リナベル」


 何が? という顔のリナベルにシオンは答えず話を戻す。


「ところで本当にうちにおいでよ。といっても、おそらくそう間をおかずに大公殿下が迎えを寄越すんだろうけどね。君を迎える準備を急がせねば―――って言ってたもんね。そうなったらゲイリーの奴、荒れると思うけど?」

「あー……」


 リナベルは思いっきり顔を顰めた。

 想像に難くない。事情を知らないゲイリーのことだ。あれだけ敵視してまともに名前を呼ぼうともしない相手がリナベルを迎えに来たら、さぞかし騒ぎ立てるだろう。それが王族とわかったら―――考えるだけで疲れてくる。


「でも、あいつにも本当のこと言うつもり―――だよね?」

「ええ」


 それは決めていた。もし聞いた上でゲイリーが危険なことに関わりたくないと判断するなら、それは仕方ない。その際、秘密が洩れる危険が増えるのもやむを得ないと思っていた。

 信じたい。カリディアンとコレシュのように。人を、自分を助けようと身を投げ出してくれたゲイリーを、シオンを……信じたい。


「仲間だからね」


 そうシオンが言う。気負いもせず当たり前の口調で。


「そうよ。あんた達も一緒に来てもらうわよ」


 その時、アウグストン夫人の、家政婦ーっ! と呼ぶ声が響き渡った。


「いけない、サボってるの見つかったら大変っ! じゃあねっ」


 裏口に走って戻ったリナベルは、戸口に腕組みをして立っているアウグストン夫人の姿に、内心ヤバイと冷や汗をかく。


「何を怠けているのっ? 仕事もろくにしない使用人なんて、うちには必要ないんですからね。新しい家政婦を雇うのは簡単なのよ? お前はうちに置いてもらえるだけでも有難く思うべきで―――あら?」


 口調が変わったのは知らぬ間についてきたシオンのせいだった。リナベルも同時に気付いて顰め面をしてみせる。ガミガミやられているところを見られるのはバツが悪い。

 だが、シオンはおっとりと微笑んで傍に歩み寄ってきた。


「おはようございます、アウグストン夫人」

「おはよう、シオンさん。ゲイリーね、すぐ呼ぶから中にお入りなさいな」


 息子の友人に気取った表情を取り繕ったアウグストン夫人に、シオンは人の悪い笑みを向けた。


「いえ、今日はゲイリーではなく、恋しい女性のご機嫌伺いに」


 唖然としている夫人の前でリナベルの手を取る。


「彼女に未来のシオン・グレゴリー夫人になってほしいと、かねてからそう望んでまして。今も口説きに来たところです」

「……っ!?」


 絶句したのはアウグストン夫人だけではない。言うに事欠いてなんてことを―――と固まっていたリナベルは、母を押しのけるように飛び出してきたゲイリーに、げっ、と娘らしからぬ声を洩らした。

 ゲイリーはそのままの勢いで顔色を変えてシオンに詰め寄る。


「おい、シオンっ、ふざけたことを言うなよっ!? 何が未来のシオン・グレゴリー夫人だっ。リナベルはな、僕の傍にいたくてうちにいるんだっ、お前より僕の方がよっぽど近い存在なんだぞっ?」

「ゲイリーっ? 家政婦に対してそんな―――っ」

「そりゃ、リナベルはアウグストン家に住み込みで働いているけど、別にお前の恋人ってわけじゃないんだから、恋愛は自由だよね?」

「シオンさんっ? 馬鹿なことを言わないでちょうだいっ。ゲイリーが家政婦と恋人なんてっ」


 いちいち血相を変えて口を挟むアウグストン夫人を無視して、二人はやり取りを続ける。


「ゲイリーはそれとも―――彼女にゲイリー・アウグストン夫人になってほしいわけ?」

「そ、そ、そ、そんなことっ、有り得ませんっ! うちのゲイリーちゃんが家政婦となんて、冗談にしてもタチが悪いでしょうっ!」

「どうなのさ、ゲイリー」

「お前の好きにさせるよりも、そっ、そっ、そっ、その方がマシだっ!」


 後先考えない息子の絶叫に、アウグストン夫人はとうとう、うーん……と呻いて引っ繰り返る。慌てて三人が駆け寄ると、あまりの衝撃に目を回しただけらしい。

 ほっとしたリナベルは、だが、たった今のゲイリーの発言内容を振り返って、勝手に顔が熱くなるのを感じていた。おかしい。ここで赤くなるのは変だ。それはいかにも、なんというか―――。

 それに普段の自分なら、バカな事を言うなと説教する場面の筈だが、何故だろう。なんとなく撤回されると腹が立つような―――。だいたい、そんな大事な台詞を売り言葉に買い言葉で勢い任せに言うってどうなのよ? ……いや待て待て、大事な台詞って何考えてんの、バカじゃないの、わたしっ!?


 目を泳がせているリナベルの顔を見たシオンが、ん? というふうに目を瞠る。慌ててそっぽを向いたリナベルの態度に、本人にもわからない何かを読み取ったらしい。シオンは一瞬沈黙したあと、ちょっと揶揄い過ぎたね、と笑った。

 タチの悪い冗談だったと思ったらしいゲイリーはほっとしたように息をついたが、リナベルはわざとらしい明るい声音に胡散臭さを感じて、横目でシオンを見遣った。それをシオンは罪のないキョトン顔で見返してくる。それを全面的に信じるには、沈黙に不穏な気配があり過ぎだ。

 こっそり睨んでいると、ニヤリと人の悪い笑みを向けられる。覚悟しておいて、と言いたげな悪人顔。冗談じゃないと睨みつけると、頭越しのやり取りに気付いたゲイリーが再び騒ぎ出す。

 結局こうなるのかと頭を抱えたリナベルは、仲間というものの良し悪しについて、一度じっくり考えてみる必要性を痛感していたのだった。




                    ・・・・・・・・終わり

ここで、このお話はひとまず完結です。

彼らの冒険はここからが本番でもありますが、独りぼっちの少女が仲間を得る部分を描くのがこのお話の目的でした。

新人賞投稿作ということで長さの制限もあり、ここまでとなっています。


読んでくださった皆さんが少しでも楽しい、面白いと思ってくだされば、嬉しいです。

最後までお付き合い頂き、有難うございました!

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