エピローグ
―エピローグ―
イヤホンを付けて、音楽をかけて。
いろんな音をシャットアウトする。
世界の音、周りの人々の声。
私は音の世界に埋もれて、人を待つ。その間に見るのはSNSに寄せられたメッセージ。そのひとつには、いつの日か夢で出てきた親子の、親の人からのものがあった。それを開くと、ついこの間出した私の新作を抱きしめている娘さんの写真と、お礼のメッセージが送られている。それに頬を緩めて。がんばってよかったと、自分をほめる。
「お」
耳から聞こえる音以外の声も抱きしめるように、スマホをぎゅっと胸元に寄せれば、足元に小さな命がすり寄ってきた。それに顔をほころばせて、しゃがんで受け入れる。
「やっぱかわいーねお前」
まるで「撫でて」というようににゃあと鳴いたその子に、手を伸ばした。
音の世界からかいくぐって聞こえたのは、今ではほとんど聞こえなくなった”しね”という言葉。それには笑って、あたたかい、小さな命へと触れる。そうして自分にも言い聞かせるようにして。
「幸せになってね」
たくさん愛されますように。たくさんの幸福が訪れますように。小さく呟けば、応えるようにまたにゃあと鳴いた。それに笑って。
「幸」
呼ばれた声に、顔を上げる。そこには空の下で笑う、想いを寄せた待ち人。
その人を見た瞬間、また”しね”と声が聞こえたけれど。小さな命が離れていったことを確認してから、笑って腰を上げた。
「お待たせ。――なに、ご機嫌じゃん」
「うん」
だって。
「また幸せ願っちゃったから」
そう、笑えば。
苦しみから解放されたいという願いを叶えてくれたその人は、笑って。
「そりゃよかった」
楽しそうに前を歩くから。
いつかは自信を持ってあなたの隣を歩けるように、前をしっかり向いて。
何度もあなたの幸せを願いながら、二人、休日の駅へと向かっていった。
『―幸願病― 私は、あなたの幸せを願う』/願ノ幸




